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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第5話 愛を伝えるバレンタイン編

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枯れ木残らず花が咲く1

「おはよう。インフルエンザはもういいの?」


 久しぶりに登校したわたしに、友達の亜由美が言った。


 新学期早々、わたしはインフルエンザにかかって学校を休んでいたのだ。


「うん。特効薬が効いてすぐよくなったんだけど、入れ代わりに圭吾さんがインフルエンザになっちゃって」

「なぁに? ラブラブ看病休み?」


 もう一人の仲良し、美幸が言う。言うのはいいのだけれど、美幸は声がでかい。

 あっという間にクラスの女の子達に取り囲まれた。


「いいなぁ、志鶴は。あの圭吾さんと両思いだもの」

「毎日一緒だし」

「ね、ね、バレンタインはどうするの?」


 バレンタイン?


 キョトンとしているわたしに、みんなは呆れたように上を見た。


「バレンタインデーよ! 二月十四日! 女の子から告白する日!」

「え……だって、チョコレート渡して告白する日でしょ?」


 わたしは戸惑いながら言った。


 圭吾さんとわたしはもうカップルだもの。それにまだ一月でしょ?


「甘いわ、志鶴! バレンタインはね、恋人同士が愛を確認する日でもあるのよ!」

 いつもは『真面目』の権化のような、委員長の松本さんが拳を握りながら力説する。

「いいぞ、松もっちゃん!」

 男の子達が囃し立てた。

「相手いたのかぁ?」

「お黙り、外野っ! 相手はいるわよ」


 おおっ! マジで? 人は見かけに寄らない。


「美幸はどうするの?」

「わたしは毎年、亜由美と友チョコ交換だよ」


 もったいなーい。


 男子が合唱するように言う。


「わたしは、その他に義理チョコを十個ほどばらまくわよ」

 と、亜由美。


「大野ぉ、義理なのは分かってるけど、敢えて言わんでいいだろう?」

「えっ? 何? お前、亜由美からチョコ貰ってんの?」

「うわぁー、義理でもいいから、俺にもくれー」


 大騒ぎだわ。


「ねえ、彼女からチョコって欲しいものなの?」

 わたしは男の子達に訊いた。


 『欲しい!』

 『っていうか、貰えなかったらガッカリする!』

 『彼女じゃなくても欲しいっ!』


 うわぁ……何か、壮絶。そういうもの?


「これで分かったでしょ? バレンタインデーは、女の子にとっては決戦。男の子にとっては、プライドを賭けた戦いの日なのよ」


 は……はぁ……


 松本さんの演説に、わたしは圧倒されてうなずいた。


「まだ一月だとか思ってるんじゃないでしょうね?」


 思ってる。


「もう戦いは始まってるのよっ!」

 目の前に人差し指が突き付けられた。

「中途半端な愛情表現は、相手に対して失礼極まりないわ!」

「よ、よく分かりました。精一杯頑張らさせていただきます」

「よろしい!」


 松本委員長――いや、もはや軍曹としか呼べないわ。




「『精一杯頑張る』って言ってみたけど、いったい何をどう頑張ればいいの?」

 学食でお昼を食べながら、わたしは友達にぼやいた。

「何の話?」

 隣のクラスなので今朝のいきさつを知らない悟くんが、怪訝そうに言った。

「バレンタインデーの話」

 わたしの代わりに亜由美が答えた。

「志鶴って、今まで誰にもチョコあげた事ないの?」

「親父になら」

「ダメだこりゃ」

 美幸がボソッと言う。


 悪かったわね。


「それに本当にチョコでいいの? 圭吾さん、甘い物はあまり好きじゃないわ」

「カカオ90パーセントチョコとか? 甘くないよ」

 悟くんが言った。

「えーっ! あれ、ゲロまず」

 美幸がまぜっ返す。


「何の話ですか?先輩方」

 一年生の竜田川美月が、トレーを持ってやって来た。

「ここあいてますよね?」


 ええ。近頃じゃ、そこはあんたの指定席よ。


「バレンタインデーの話なんだけど……」

 わたしは少し迷った。美月のお姉さんは、圭吾さんの元恋人だ。


 ええい、きいちゃえ!


「お姉さんってバレンタインデーどうしてた?」

 みんなはギョッとしたようにわたしを見た。

「圭吾さんと付き合ってた時ですか?」

 空気が読めないタイプの美月はアッサリと言った。

「毎年手作りチョコでしたよ。それに小さなプレゼントを付けて。アクセサリーとか、ストラップとか」


 手作りかぁ……出来るかな?


「シーズンですから、お店に専用グッズがいっぱいでてますよ」


 なるほど。


「美月に訊くようじゃ、よっぽど切羽詰まってんのね」

 亜由美が呆れたように言った。

「一緒に買い物に行く?」

「行くっ!」


 よかった。亜由美なら絶対に頼りになる。


「じゃあ、わたしも」と、美幸。

「わたしも参加でっ!」

 美月が元気よく片手を上げた。


 げっ! あんたも行く気?


「それじゃあ、僕も行こうかな」

 わたし達は全員、悟くんを見た。


 マジですか?


「何か問題?」

 にこやかに悟くんが言う。

「全然」

 亜由美がそつなく答えた。






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