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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第5話 愛を伝えるバレンタイン編
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誰かさんの羊4

 「志鶴――」


 耳元で低い声が囁く。

 わたしは両手を差し延べて、圭吾さんの首に手を回した。


 また、夢ね。


 わたしは圭吾さんを引き寄せてキスをした。ゆっくりと優しく唇を探られて、ため息が漏れる。


「ねえ、とってもかわいいキスだけど、起きて」


 あれ? 夢じゃない?


「なぁに? 眠いわ」

「見た事のない男の子のイメージが君の中にあるんだけど」

「またわたしの心、覗いたの?」

「時々、勝手に流れ込んでくるんだよ」


 わたしは目を閉じたまま寝返りをうって、圭吾さんの胸に頬を寄せた。


「どんな男の子?」

「中学生くらいかな。赤い何かを手にしてる」

「ああ……言ったじゃない。八幡神社で会った同級生よ」

「男の子だって言わなかったじゃないか」

「幽霊にまでヤキモチ妬く気?」

「もちろん」

「困った人。圭吾さんが一番好きよ」

「だといいな」


 変な言い方。まるで、わたしが圭吾さんを好きじゃないみたい。


「君を愛してるよ」


 温かい手が、わたしの耳の後ろから下へ首筋を撫でる。


 気持ちいい。猫が喉を鳴らす時って、こんな気持ちなのかな。


「大好き」

 わたしはつぶやくように言った。

「向こうで、何度も圭吾さんの夢を見たわ」

「僕も志鶴の夢を見たよ」


 笑ってる?


「本当? どういうわけかね、すごい夢ばっかりだった」

「そう? 頑張ってはみたんだけど、お子様仕様にしかならなかったよ」


 頑張った? 何を?


 眠い。


 眠気の霧の向こうに何かが思い浮かんで消えた。


「志鶴?」


 圭吾さんがわたしの髪を撫でる。


 なぁに?


 返事をしたけれど、自分の耳にも、意味を成さない寝言みたいに聞こえた。




 次に目が覚めた時、部屋の中は薄明るかった。温もりが心地好くて、大きく伸びをする。

 寝ぼけ眼に映ったのは、誰かのなめらかな素肌。


 どうして?


 目をパチパチとしばたいて見直す。


 あー どう考えても圭吾さんの胸だよね。

 ひょっとして……裸?――うわっ!


 ギョッとして飛び起きると、圭吾さんが片目を開けた。


 い……いつから起きてたのよぉ


「寒いよ。戻っておいで」

「だって……圭吾さん、裸だもん」

「下は着てるよ。君は違うけど」


 へっ? わたし?

 う……うぎゃぁ―――――っ!

 どうしてよ? どうして全裸なのぉ?


 パニックになって、差し出された圭吾さんの腕に飛び込んだ。


「せっかくいい眺めだったのに」

 圭吾さんが笑う。

「わたしのパジャマ、どこ?」

 わたしは半ベソで訊いた。

「たぶん床の上」


 下着も?


「わたし……わたし達……」

「何もしてない」

「えっ? ホント?」

「夜中に君を起こしたの覚えてる?」

「うん」

「少し話をした後に、僕が君を抱いてもいいかって訊いたら、いいって言ったよね?」


 それは覚えてないっ!


「でも、君は途中で完全に眠っちゃって。だから何もしてない。今、これからする?」


 無理っ!


 わたしは慌てて首を横に振った。


「残念」

 圭吾さんはため息混じりに言った。

「すごく手触りのいい肌だったのに」


 どこまで触ったのよっ! いやいや、言わなくていい。聞くのが怖い。


「じゃあ、ちょっとだけ僕はいなくなるから服を着るといいよ」


 圭吾さんはそう言って、起き上がった。そして、鼻歌混じりに床から自分のパジャマを拾い上げる。


 ――誰かさんの羊、メーメー羊


 ふと、夕べ心にひっかかった疑問を思い出した。


「圭吾さん」


 わたしは圭吾さんの背中に向かって話し掛けた。


「ん? 何?」

「クリスマスの少し前に、わたしに『おまじない』だって何かしたわよね? あれ、何だったの?」

「ああ……離れている間に君、夢を見ただろう?」


 夢? 


「あのきわどい夢?」

「ちょっとした手品みたいなものかな。君が僕を忘れないようにと思って。でも、それほど刺激的じゃなかったはずだけど? 知らないものは見せられないんだ。だから、君の見たのはお子様バージョンだ」


 あれで?


 圭吾さんはドアの前まで行って振り向いた。


「ああ、言い忘れてた。僕はしっかりと18禁バージョンで同じ夢を見たよ」


 ええっ! ひどっ!


 ドアが閉まる直前、圭吾さんが小さく歌う声が聞こえた。



 ――圭吾さんの羊、カワイイね。





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