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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第5話 愛を伝えるバレンタイン編

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もういくつ寝ると4

 年越し蕎麦を食べて、年末恒例のテレビを見て、なっちゃんと航太が元朝参りへ行こうと迎えに来た。

 去年とまんま同じ年末。


「手袋はどうした? 帽子とマフラーは?」


 去年と変わらない航太の文句。

 よく考えてみたら、いつもの圭吾さんと同じ事言ってる。でも、圭吾さんならもっと優しい。


「馬鹿か、お前は?」


 そうよ。そんな風には絶対に言わない。でも、気遣いは一緒なんだと気付いた。


「航太、ありがとうね」


 わたしがそう言うと、航太は『はぁ?』って言った。


「なんだよ、急に」

「何でもなぁい! なっちゃん、行こ」

 わたしは笑いながら、なっちゃんと腕を組んだ。


 初詣の行き先は、近くの八幡神社。

 通学区域の真ん中にあるので、中学校の時の同級生がたくさん来ていた。


「おうっ、航太!」


 男の子達が手を振る。航太はいつでも人気者。なっちゃんは頭がよすぎてちょっと敬遠される。

 わたしは――わたしは、目立たない子だった。


「三田さん? 帰ってたの?」

 航太とふざけていた男の子が、わたしの顔を見て言った。

「なんか雰囲気変わったね」


 えーと……この子、何て名前だっけ?


「変わんねぇよ。相変わらずボケッとしてるぜ」

 と、航太。


 ボケッとしてて悪かったわね。


「何て言うのかな……柔らかい感じになった」


 男の子はニッコリと笑った。


「ちょっと! 航太じゃん!」

「マジ航太だし!」


 けたたましいはしゃぎ声。あー、苦手だった女の子達だ……


 わたしはちょっと後ろに下がって、名前を思い出せない男の子の横に並んだ。

 あっという間に同窓会状態になって、参拝の列に並ぶわたし達は修学旅行生みたいだった。


「しーちゃん、何お願いするの?」

 前に並んだなっちゃんが肩ごしに訊く。

「内緒だよ」

 わたしは笑って答えた。


 実のところ、羽竜の子は竜城神社以外のところで願い事をしてはいけないらしい。

 他の神社では神様に挨拶するだけ。おみくじとかお守りを買ってもいけない――修学旅行でみんなに何度も注意された。


「今年は少し暖かいね」

 隣に立つ男の子が言う。

「そうね。去年は無茶苦茶寒かったものね」


 うーん……ホントにこの人、何て名前だっけ? 同級生なのは確かよ。


「去年は三田さんに声をかけたかったのに、結局できなくて。今年は話せてよかった」

 男の子は照れたように笑った。

「引っ越したんだよね?」

「引っ越したっていうか、親戚の家に居候してるの」

「新しい友達できた?」

「うん。できたよ」

「よかった。中学の時はいつも、そう……どことなく寂しそうだったから」


 わたしは驚いて男の子を見返した。そんなところに注目されてたとは知らなかった。


「引っ込んでばかりじゃダメだよ。じゃないと後で後悔するから」

「うん。ありがとう」


 参拝の列はノロノロとしていたけど、やがてわたし達の番になった。


 柏手を二拍。

 手を合わせ頭を下げる。


 みんなは何をお願いしているんだろう? 圭吾さんは今頃、神社にいるんだろうな。


「しっかし寒いな!」

 お参りを終えると、航太が言った。

「どこかで缶コーヒーでも飲むか!」


 賛成!


 みんなでぞろぞろと参道を引き返す。

 鳥居を一つ抜け、もう一つ外側の鳥居に差し掛かった時、巫女姿の女の人が鳥居の前にいるのが見えた。


「もし、龍のおひい様」

 巫女さんが呼び掛けた。


 ひょっとして、わたし?


 わたしが立ち止まると、巫女さんはうなずいた。


「わざわざお運びいただき、ありがとうございます。主より御礼の品をお渡しするようにと」


 差し出された手の平には、真っ赤な折り紙の花が乗っている。


「ごめんなさい。お気持ちはありがたいんですけど、他所の神様からいただいちゃいけないの」

「それは、あなた様がお求めになった場合の事。こちらから差し上げる分には、かまいませぬ。どうかお受けになって」


 わたしは迷いながらも紙の花を受け取った。


 小さな赤い花。

 ああ、本当に神様の花なんだ。


 花を手にした途端、わたしの無くした記憶が蘇った。


「それをお隣りの方にお渡しなさい」

 巫女さんが言う。


 そう。そのための花なんだ。


「はい。安達くん、これあげる」

 わたしは、一緒にいた男の子の名前を思い出して言った。

「いいの? わぁー、すっごく嬉しい」

 安達くんはニッコリと笑って紙の花びらを撫でた。

「僕ずっと、三田さんの事好きだったんだ。話し掛けたくてもなかなかできなくて」

「そう……だったの」

「ずっと心に引っかかってた。でも、これでお別れを言えるよ」

「安達くん……あの……あのね。好きでいてくれてありがとう」

「さようなら。幸せにね」


 安達くんは笑顔で手を振って、鳥居の外に出て――消えた。


 さようなら 安達くん。

 三年間、同じクラスだったね。もの静かで優しい眼差しの君。

 今、この瞬間まで思い出せなかった。あなたは中三の冬に事故で亡くなったんだった。他のみんなも気が付かなかったはずよ。

 知ってる顔ばかりなのに一人多い。国語の教科書に載っていた座敷わらしの昔話みたいに。


「オーイ、しー! 何してんだ? 置いてくぞ」


 鳥居の外で航太が呼んだ。


「今、行く!」


 わたしは大きな声で返事をして、小走りでみんなのところに向かった。



 いつだって、目に見えるものが全てじゃない。







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