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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第5話 愛を伝えるバレンタイン編

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もういくつ寝ると2

 久しぶりの我が家!


 親父がドアに鍵を差し込んだ途端、お隣りのドアが開いて、幼なじみの夏実ちゃんが顔を出した。


「お帰り、しーちゃん!」

「なっちゃん、ただいま!」


 マンションの廊下で、わたし達は抱き合った。


「うっせーぞ、お前ら」

 なっちゃんの後ろから出てきた双子の航太が、文句を言った。

「苦情が来るぞ」


 そうだった。


 わたしとなっちゃんは、顔を見合わせてクスクス笑った。


「ほら夏実、しーは帰って来たばっかなんだから休ませてやれよ」

 なっちゃんが素直に玄関に戻る。

「しー、あさって買い出しに行くぞ。それと、大晦日に元朝参りな」


 それ、決定事項? 相変わらず、お節介な奴。


 なっちゃん達と手を振って別れて家に入ると、『ピザでも取るか?』って親父が言った。


「ラーメンの方がいいな」

 わたしは出前のメニュー表を引っ張り出した。

「醤油ラーメンにしようかなぁ――なぁに?」

「お前がピザって言わないのは珍しいな」


 ああ。


「結構あっちで食べてるんだ。圭吾さんが学校の近くにお店を作ってくれたから」

「何だって?」

 親父が素っ頓狂な声を上げた。


 そうね、最初はわたしも驚いたわよ。


「宅配ピザ店だけど、店内でも食べられるスペースがあるの。友達とよく行くよ」

「やれやれ……」

 親父がため息をつく。


 どうして?


「何か変? そりゃあ、ちょっと行き過ぎなところもあるけど、圭吾さんがわたしを大切にしてくれてるって事でしょ?」


 親父は少しためらってから口を開いた。


「父さんには、圭吾君が必死になってお前の機嫌を取っているように見えるよ」

「わたし、わがままなんて言っていないよ」


 圭吾さんを喜ばせるために言うことはあるけど


「むくれたりもしない」

「それはよく分かっているよ。だが、心配なんだ。お前と圭吾君では気持ちに差がありすぎる」


 気持ちの差って何?


「圭吾さんがわたしをそれほど好きじゃないって言うの?」


 圭吾さんはわたしを愛してる。

 そりゃあ、前の恋人の優月さんほどには思ってもらえないかもしれないけど。それでも今は、わたしを愛してる。


「逆だよ。圭吾君の方は真剣だ。じゃなきゃ、父さんはこの縁談に頭から反対していただろう」


 じゃあ、わたし?


「わたしも圭吾さんを好きよ。大好きだもの」

「志鶴」

 親父は困ったように言った。

「お兄さんのように好きなだけでは、結婚生活は続かないよ」

「お兄さんだとは思ってない」

「他に好きな人ができたらどうするんだ?」

「できない! わたしは圭吾さんだけが好きなの!」

「そう言い切るにはお前は若すぎるよ」


 親父にはわたしの気持ちなんて分からない。


「二十歳まで結婚しちゃダメって言うのは、だからなの?」

 親父は首を横に振った。

「いいや。お前をちゃんと育てると、ママの亡骸なきがらに誓ったからだ。成人するまでは父さんの娘でいてほしい」

「なぁんだ」

 わたしはホッとして言った。

「ラーメン、醤油味で頼んじゃうからね」


 親父はうなずいた。


 わたしは携帯電話を取り出して、近くのラーメン屋さんに出前を頼んだ。


「本音を言えば、お隣りの航太君みたいな同じ年頃の、ごく普通の男の子と恋をしてもらいたかったよ」

 わたしが電話を切ると、親父がぽつんと言った。


 航太みたいなの? 無茶言わないでよ。口は悪いし、乱暴だし、絶対につきあいたくない。

 まあ、悪い奴じゃないけど。


「圭吾さんのどこが悪いの?」

「悪くはないよ。きっとお前を大切にしてくれるだろう」


 でも――って聞こえるのはわたしの気のせい?


「わたし、親父から見れば頼りないかもしれないけど、自分の気持ちくらい分かってる。圭吾さんといたいの」


 だって、羽竜の家はわたしが見つけた居場所だもの。

 他の男の子は、わたしじゃなくたっていい。でも、圭吾さんにはわたしが必要なのよ。




 その夜遅く、自分の部屋で圭吾さんに電話をかけた。


――志鶴? 無事に着いたんだね。


「うん。圭吾さん、今、忙しい?」


――いいや。三十日の夜までは大丈夫だよ


「何してたの?」


――仕事


「お仕事ばっかり」


 低い笑い声が聞こえる。


――その代わり、志鶴が帰って来たら休めるよ


「うん。デートしようね」


――いいね。どこ行きたい?


「圭吾さんが決めて」


 どこでもいいの。あなたといられるのなら。


「圭吾さん」


――ん? 何?


「大好き」


――うん


 『知ってるよ』って思ってるでしょ


「わたしの心って、どんなふうに見えるの?」


――水晶でできた洞窟みたいに。奥の方に暖かい光があるよ


「どこかにわたしの気持ちが書いてある?」


――いいや、君の気持ちを感じるんだ


 そう。


「じゃあ、わたしがちゃんと圭吾さんを愛してるの、分かるわよね?」


――どうしたの? 急に


「分かってなかったらどうしようと思ったの」


 やだ。どうしてわたし、泣いてるの?


――志鶴?


「あのね、親父が変なこと言うから……圭吾さんとわたしじゃ気持ちに差がありすぎるって」


――ああ、『差』って言うより少しばかり『違い』があるかもな


「ないわよ」


――志鶴の気持ちは純粋すぎて、恋と肉親への愛情がごちゃまぜになってる。叔父さんはそういうことを言いたかったんだと思うよ


「圭吾さんはそれでも幸せ?」


――うん。君が僕を愛しているから。大人になるにつれて、ちゃんと僕を恋人として見られるようになるよ


 大好き。


「もうそっちに帰りたくなっちゃった」


 鼻がグズグズいってる。ああ、カッコ悪っ!


――僕も早く君に会いたいよ




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