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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
おまけの圭吾編4

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インフルエンザ・シーズン

「圭吾さん、喉が痛い」


 明け方、志鶴の泣きそうな声で目が覚めた。


「喉? 風邪引いたか?」

「腰とか関節も痛いの」


 志鶴の額に手を当てる――熱い。


 医者? いや、救急車か?


 僕はパニックを起こしそうになった。


「インフルエンザかも……学校で流行ってるの」


 インフルエンザ? 予防注射させたのに。


「悪いけど、冷たいタオル三つくれる?」


 タオルを三つ?


 どうするんだろう、と思いながらも僕はタオルを濡らして持って行った。

 志鶴は『ありがとう』と言って、タオルを両脇に入れ、最後の一本は額に乗せた。


「病院が開いたら行かなきゃ」


 手慣れた仕草とその言葉に、僕の胸に嫌な予感が走った。


 病院に行かなきゃ? 連れて行って、じゃなくて? まさか、嘘だろ? 今まで、具合の悪い時も一人で我慢してたって言うのか?


 再びウトウトしはじめた志鶴の顔を見ると、痛烈に胸が痛んだ。

 僕は寝室を出て病院の救急センターに電話をした。


 どうせうちの一族の経営だ。構うもんか。


「羽竜の本家だが」

 生まれて初めて自分の地位がありがたいと思った。

「うちの者がインフルエンザにかかったらしい。早めに誰か寄越してくれないか?」


 電話口の向こうでバタバタと音がする。

 しばらく待たされて、夜勤開けの医師が行くと言っているがそれでいいかときかれた。

 勤務の交代時間はまだ先だろうが、そこまで無理も言えないだろう。


「では、それでお願いする」


 電話を切って、僕は寝室に戻った。志鶴は、真っ赤な顔で苦しそうに浅い息をしている。


 かわいそうに。


 タオルを取り替えてやると、フウッと微かなため息をつく。


 愛しい志鶴。


「圭吾さん?」

「ここにいるよ」


 ずっと側にいるよ。

 いつだって君の側に。僕なら君の側にいてやれる。


 だから僕を愛してくれ。


 もっと深く愛してくれ。





 夜勤開けで現れたのは、遠縁の女医だった。


「やっぱり患者はお姫様だったか。あんな時間に電話してくるから、すぐ分かった」

 彼女は頼もしいほどテキパキと志鶴を診察した。

「大丈夫よ。今年の型は特効薬がよく効くから。明日には熱も下がる。水分よく取らせてね――ま、この家じゃ看病する人には事欠かないだろうけど」


 冗談じゃない。志鶴の看病は僕の仕事だ。


「圭吾さんに移ったらどうしよう」


 志鶴が不安そうに言う。


「圭吾君なら、鬼より頑丈だから心配いらないわよ。ここ何年も風邪一つ引いてないし」





 僕もその通りだと思った訳だが――





「ゴメンね、ゴメンね」


 半ベソをかきながら謝る志鶴の後ろから、姉の彩名が声をかける。


「まさしく鬼の撹乱ね。大丈夫よ、志鶴ちゃん。この子は殺しても死なないから」


 黙れ、彩名――くそっ! 頭が割れそうだ。


 志鶴が元気になった途端に、今度は僕がこのザマだ。


「今度はわたしが看病するからね」


 志鶴の冷たい手が気持ちいい。


 んー これはこれで嬉しい状況かも。


「圭吾を甘やかすと、回復しても一週間は具合の悪いフリをしてよ」


 彩名が警告したが、志鶴は上の空だ。




 甘いな、彩名。



 僕なら一ヶ月、騙し通せるよ。




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