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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
おまけの圭吾編4

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鏡よ、鏡

 志鶴が、クローゼットルームの大きな鏡の前で顔をしかめている。


 何してるんだ?


 鏡の前で横を向いたり、前を向いたり。洋服の丈を気にしているわけではなさそうだ。

 僕は、生真面目な表情を浮かべる彼女にしばし見とれた。


 近頃の志鶴はどんどん綺麗になる。うちに来た最初の頃は、ただ可愛いだけの女の子だったのに。

 これは志鶴に恋をしている僕の欲目だろうか、それとも志鶴が大人になりかけているせいだろうか。


 まあ、年齢よりも子供っぽいのは相変わらずだが。


「志鶴?」

 僕が声をかけると、志鶴は振り向いてニッコリと笑った。

「圭吾さん、お帰りなさい!」

「ただいま。何してたの?」

「うーん……あのね」

 そう言った後に、困ったような顔をする。

「私の胸、小さいと思う?」


 僕は意外な問いに驚いた。


「いいや。何でまた?」

「クラスの友達がね、告白してフラれたの。で、その理由が『貧乳だから』なんだって」


 僕は片手で口元を押さえ、咳込んだ。コーヒーを飲んでいる時じゃなくてよかった。


「中学の時にも同じ理由でフラれたって言うの」


 そりゃウケ狙いの自虐ネタじゃないのか?


「で、その話と志鶴にどんな関係があるの?」

 図らずも少し声が震えたが、志鶴は気がつかないようだ。

「その子と体型が似てるの」

 志鶴が顔を曇らせて言う。

「私って貧乳なのかなぁ……」


 ダメだ。吹きそうだ。


「圭吾さんも大きい胸の方がいい?」


 勘弁してくれ――耐え切れずに僕は笑い出した。


「何かおかしい? 私、真剣なのに」


 分かってるよ。真剣だからおかしいんじゃないか。


 不満げに口をとがらしている志鶴が可愛い。

 だいたい胸なんか触らせてもくれないのに、僕の好みを気にするのか?

 ああ――気にしているらしい。女の子の気持ちは難しい。


 僕はなんとか笑いを抑えて志鶴の両肩に手をやり、そのままクルッと鏡の方を向かせた。

 大きな鏡に志鶴と僕が映っている。


「鏡よ、鏡。僕の一番好きな女の子は誰?」

 僕はおどけて言い、鏡の中で志鶴が微笑む。

「それは私よ」

「その通り」


 愛しい 僕の志鶴。


 僕は後ろから志鶴を抱きしめた。

 それから志鶴の首筋にキスをし、両手を滑らせて胸をそっと包み込んだ。


「け、け、圭吾さん?」

「何?」

「手……」

「だって触らないと大きさなんて分からないよ」

「そりゃあそうだけど」


 ホントに騙されやすいんだから。


「どう?」

「気にいったよ」

「よかった」


 僕は鏡の中の志鶴を見た。

 上気して頬が桜色になってる。体も桜色に染まってるだろうか?

 胸の大きさより、そっちの方がはるかに気になる。


 でも


 鏡に映る僕を信頼しきった志鶴の目を見たら、それ以上の事はできなくて。


 鏡よ、鏡。

 世界で一番忍耐強い男がいるとしたなら、

 それは僕。


 志鶴をまるごと僕のものにしたいけど、まだまだ待たされそうだ。







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