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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

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待ち人別れを3

 大泣きして、力が抜けた。

 泣きはらした目で家に帰ると、大騒ぎになった。

 伯母様が圭吾さんに『お医者様を呼んだら』と言い、彩名さんはわたしを抱きしめて、『いったい何をしたの?』と圭吾さんを責め、和子さんは熱々のココアを持ってきてくれた。

 圭吾さんは説明するのが面倒なのか、甘んじて叱責を受けていた。


「圭吾さんのせいじゃないの」

 一応言ってみたけれど、あまり効果はなかったみたい。

「まあ、連れて行ったのは僕に違いないから」

 圭吾さんは苦笑した。

 こんな些細な事で蜂の巣をつついたような騒ぎになったのがおかしくて、わたしはクスクスと笑った。

「あなた達、あまり驚かさないでちょうだい。心臓に悪いわ」

 伯母様が額に手をやって、ため息をついた。

「もうあなたは大人だと思っているから、細かい口出しはしたくないけれど、志鶴ちゃんは芙美子から預かった大切な子なのよ。分かっているのでしょうね、圭吾」

 伯母様がこんなに圭吾さんを叱るのは珍しい。

「重々承知しています」

 圭吾さんが神妙な面持ちで答えた。

「子供の頃から、兄弟姉妹の中であの子と一番仲が良かったわ。あんなに早く亡くなってしまうのだったら、もっと頻繁に訪ねるのだった」


 兄弟姉妹?


「伯母様? ママと伯母様には他にも兄弟がいるの?」

「いいえ。ええ、そうね……妹が病気と知ってもお見舞いさえ行かないような、お葬式にさえ出ないような人達を兄弟と呼べるのなら」


 ママの実家は複雑みたい。


「芙美子が亡くなってからは会っていないの。ほとんど絶縁状態ね」


 そんなの寂しくないのかな? せっかく兄弟がいるのに。


「ひょっとして、他にいとこがいる?」

 わたしが期待を込めて訊くと、圭吾さんは渋い顔をした。

「三人ほど。でも、あいつらに会わせるくらいなら、要に君を一日預けた方が、よっぽど楽しい思いをさせられると思うよ。少なくとも、要は君を好きだからね」

「わたしは好きになってもらえない?」

「君だからって事じゃない。彼らはお互いの事も、僕の事も、彩名の事も嫌いだ。たぶん遺産相続とか、そういうものが絡んでいるんだろ」


 遺産相続? わたしの知らない世界だわ。


「羽竜の親戚だけじゃ足りないかい?」

 圭吾さんが優しく言った。

「悟たちの家の他にも腐るほどいて、みんな君を好きだよ」

「足りないわけじゃないの。他にもいとこがいるなら、仲良くできるのかなって思っただけ」


 わたしは飲み終わったココアのカップをサイドテーブルに置いて、圭吾さんの方に手を伸ばした。


「泣きすぎて疲れちゃった」

 圭吾さんはわたしの手を取って立ち上がらせた。

「少し昼寝した方がいいんじゃないか?」


 そうね。魅力的な提案だわ。


 なんなら一緒に――圭吾さんが耳元でそっとささやいた。


 ああ、心臓止まりそう……


 たぶん赤くなってる自分が恥ずかしい。どうしていちいち過剰反応しちゃうんだろ? 圭吾さんとは毎日一緒に眠ってるじゃない。


 ちらっと見上げると、圭吾さんは明らかに楽しんでる。

 圭吾さんの部屋に向かいながら、わたしはあるとも思えない知恵をしぼった。


 うーん、逆襲するにはどうしたらいいんだろ。何をしても返り討ちに会いそうだしなぁ……


「何だい? 何か言いたそうだね」

「何でもない」


 何か言いたいんじゃないわ。圭吾さんをドキッとさせたいの。

『セクシー』ってどうやったらなれるの?

 せめて優月さんみたいに美人だったり、亜由美みたいに大人っぽかったらよかったのに……

 まっ、圭吾さんは最初っからそんなものをわたしに期待してないんだろうけど。


 三階について、導かれるままに圭吾さんの部屋のソファーに座った。


「目が真っ赤だ」

 圭吾さんは顔をしかめて、親指でわたしの目の下をなぞった。それから、少し顔を傾けてわたしにキスをする。

 わたしは両手を圭吾さんの首の後ろに回した。

 ゆっくり押されて倒れ込んだ体の上に、圭吾さんが覆いかぶさった。キスがだんだん熱っぽくなって、頭が麻痺したみたいにボウッとなる。

 思わずため息混じりの声が漏れた。

 その途端、ガバッと圭吾さんが起き上がった。


「ゴメン、少し……少しだけ仕事をしてきていい?」

 圭吾さんの声は妙にかすれていた。

「今日はお休みだって言ったじゃない」

「ほんのちょっとの間だから」

 わたしの髪を撫でる手が微かに震えている。

「頼む。一息つかせてくれ。今まで相手を無理矢理に抱いた事はないんだ」


 えっ? って事は、ついに圭吾さんをドキッとさせることができた?

 でも、どこでそうなったのか、さっぱり分からない。


 ああ……やっぱダメじゃん、わたし。



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