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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編
102/171

待ち人別れを1

 十二月に入って、圭吾さんはクリスマスツリーを飾ってくれた。

 圭吾さんのオーナメントは、金色の丸いプレートで、透かし彫りになっている。

 わたしは、プレートを光にかざしてよく見た。


「これって、裏庭の龍?」

「そう。羽竜に飾るツリーだもの、外せないだろう?」

「じゃあ特注品?」

「そういうこと。最初だからね。これは僕らの過去であり、未来だ――それにしても、飾りが少なくないか?」

 圭吾さんはツリーの周りをぐるっと回った。

「いいのよ。これくらいでいいの」


 わたしには未来が見えるから。


「僕らはまだ出会ったばかりだ、っていうのを思い知らされるね」

 圭吾さんがぼやいて、ハァーってため息をついた。

「圭吾さん、どうかした?」

「昨日、叔父さんから電話が来ていたよね?」


 ああ、親父?


「うん。年末に一時帰国するって」

 親父は二十三日に帰国して、二十八日にわたしを迎えに来ると言っていた。

「わたしが家に帰るのを気にしているの? 四日にはここへ帰って来るのよ。ほんの少しじゃない」

 圭吾さんは横目でチラッとわたしを見た。

「電話には僕が先に出ただろう?」


 そうね。


 わたしはコクンとうなずいた。


「志鶴に電話を渡す前に釘を刺された」


 釘って?


「この家で正月を迎えないかと誘ったんだ。そうしたら、うちで志鶴を預かっている事には感謝しているし、結婚にも反対じゃない。でも、志鶴はまだ若いから、僕から離れて将来を考える時間も必要だって」


 そうか。家に帰るって事は、圭吾さんと離れる事なんだ。久しぶりに親父に会えるのが嬉しくて、そこまで考えていなかった。


「僕の事、忘れていたんだろう?」

 圭吾さんが言う。

 拗ねているでもなく、怒っているでもなく、ただ事実を確認しているだけの淡々とした口調。


 うーん……こういう時、何て言えばいいの?


「ちゃんと圭吾さんの所に帰って来る」

 すごく、すごく、真剣に言ったのに、圭吾さんはフッと微笑んだ。

「待っているよ」


 まるで小さな子供に言っているみたい。わたしは何か答を間違った? 家には帰らないって言えばよかったの?


「悩まなくていいよ」

 圭吾さんはわたしの髪を撫でて言った。

「君は相手の気持ちを考え過ぎる。僕の気に入る答を探さなくてもいいんだ」


 どうして?


「好きな人には笑顔でいて欲しいの」

「僕もだよ」

「じゃあ……」

「僕と志鶴の違う所は、僕は君のためを考えるが、君は僕の気持ちだけを考える事だ。わがままな僕に何もかも合わせる必要はないよ」


 わたしは首を傾げて圭吾さんを見上げた。


「圭吾さんはわがままじゃないわ」

「ありがとう。そう言ってくれるのは君くらいだよ」

 圭吾さんは頭を下げてわたしにキスしかけたけれど、途中で携帯電話の着信音に邪魔された。

「電源を切っておけばよかった」

 圭吾さんは苦笑した。


 でも、あなたはそんな事はしない。羽竜本家の当主という仕事を真剣に捉えているから。


 圭吾さんは、わたしから離れて電話に出た。

 わたしは、圭吾さんのお仕事が終わるまで黙って待つ。


 ――ほらね? わたしだって圭吾さんのためになる事、ちゃんと考えてるの。親父が心配しなくても、自分の気持ちくらい分かってる。

 圭吾さんがやきもきしなくても、必ずあなたの元へ帰って来るわ。


 圭吾さんが、電話をしながらわたしの方を見た。


 なぁに? わたしの話?


 どうやら電話の相手は悟くんらしい。


「お前の考えも一理あるが、僕としては志鶴に決めさせたい」

 圭吾さんが言っている。

「ああ、でもそのために僕がいるんだ」


 どうしたんだろう?


 圭吾さんは『じゃあ、後で』と電話を切った。

「こっちへおいで、志鶴。話がある」

 圭吾さんはわたしをソファーに座らせると、わたしの前にひざまずいて手を握った。

「電話は悟からだった。美月ちゃんが育てていた龍が死んだそうだ」

「龍って……あのトナカイみたいな?」

 圭吾さんはうなずいた。

「美月ちゃんは君に来てもらいたがっている。悟は君に見せたくないそうだ。決めるのは君だ」


 美月がわたしに来てほしいなら、行ってあげたい。だって、反対の立場だったらあの子は必ず来てくれるはずだもの。


 でも……『死』を見るのはつらいし、怖い。


「僕は――僕は出来るだけ君に悲しい思いをさせたくはない。だけど、生きていれば避けられない悲しみもある。忘れないでいてほしい。僕がいる。どんな時でも。僕に君がいるように」


 わたしは真っ直ぐに圭吾さんを見た。


 わたしは――わたし達は、ただ好きだから一緒にいるんじゃない。

 お互いが必要で一緒にいるんだ。


「連れて行って」

 かすれた小さな声で、わたしは言った。

「後悔したくない」



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