クリスマスまでの準備4
完璧な一日。もしもそんな日があるなら、今日はそれ。
空はすっきりと晴れ渡っていて、この季節にしては、気温が高い穏やかな日だ。
お昼直前に病院に着いて、圭吾さんは傷口の診察と消毒をしてもらった。
お医者様に問題なしのお墨付きを貰った後、わたしを乗せた車は高速道路を通り、県庁のある大きな街に着いた。
ここまで家から離れると、街はクリスマス一色で飾られていて、お伽の国のようだった。
「アンティークの店もあるよ。それともデパートへ行く?」
キョロキョロと辺りを見回しているわたしに、圭吾さんが言った。
アンティークかぁ。
「アンティークのお店を見て、それからデパート!」
「お望みのままに、お姫様」
圭吾さんが手を差し出し、わたしはその手を握った。
何軒かお店を見て回って、三回ほど兄妹に間違われた。さすがの圭吾さんも苦笑して、
「僕達、似てるかな?」
と、お店の鏡を覗き込んだ。
「彩名と志鶴なら分かるけど。僕は典型的な羽竜の顔だと思っていた」
「わたしだって、ママには似てないって思ってた」
「やけに嬉しそうだね」
圭吾さんが不満そうに言う。
「だって、血が繋がってるって事だもの」
「他人から見たらどこか似ているんだろうね。でも、僕を兄貴だと思わないでくれよ」
圭吾さんは念を押すように言った。
正直言うと、いつだって『お兄さんみたい』って思ってるんだけど、それを言うと後が怖いからうなずいた。
「圭吾さんは、わたしを妹みたいに感じる事はないの?」
「全くないとは言えないかな……可愛くて、大切にしたいと思う時とか。でもそれ以上に、僕は君にキスしたいし、抱きたい。『妹』じゃまずいだろ?」
圭吾さんが微笑む。
「ええと……たぶん」
わたしは真っ赤になってうつむいた。
「曖昧だね」
「圭吾さん、最近わたしに少しずつプレッシャーかけてない?」
「僕が? いいや」
騙されないわ。絶対にわざと、わたしがドキッとするようなコト言ってる。
「君を口説くのが楽しいだけだよ」
危うくつまずきそうになった。
結局、アンティークショップで、ツリーのてっぺんにつける星と、木製のサンタクロースのオーナメントを買った。
圭吾さんの分のオーナメントは、すでに買ってあるし、内緒だって。
そう言われると、どんなのか気になるなぁ。
ツリーの方はデパートで。圭吾さんはわたしの背丈より大きな物を選んだ。
「三階まで上げるの大変じゃない?」
わたしの言葉に圭吾さんは吹き出した。
「変な所で現実的だね。でも、僕が階段を使わなくても荷物運びができる事を忘れた?」
「忘れてた。でも、まだ怪我してるでしょ?」
「三日もすれば治るよ」
そんなに早く?
圭吾さんはニッコリと笑った。
「僕は少しばかり人とは違うけれど、志鶴は気にならないと思っていいんだね?」
控え目に言っても『少しばかり』じゃないでしょう? でも、いいわ。あなたが大好きだから。
「気にならないわ」
ほんの少しだけしか、ね。
両親が駆け落ち婚だったせいか、わたしは、恋愛って激しいものだとずっと思っていた。
想像していたのと違って、圭吾さんとわたしの恋はゆっくりで、穏やかで、心地好い。
ただ
時々、不安になる。圭吾さんは満足してる? わたしに合わせて、自分を無理矢理押さえ込んでいない?
見上げると、圭吾さんと目が合った。
急かさずに待っていてくれる優しい恋人。少しずつだけど、わたしも歩み寄るね。
「どうした?」
「えーと……」
情けないくらい声が上ずった。
「今日、帰ったら……その……お仕事はない?」
「ないよ」
「一緒に……DVD見ない?」
「いいよ。何か見たい物あるの?」
う……考えてなかった。
「何でもいいんだけど……」
ただあなたと寄り添っていられるなら。
声にならない答えを読み取ったように、圭吾さんが微笑んだ。
「僕が選んでもいい?」
もちろん!
わたしは勢い込んでうなずいた。
「それも買って帰ろう。そうだなぁ……ホラー映画でも」
待って。ホラー? わたしが恐がりなの、知ってるでしょ?
「一週間くらい抱きついてくれるようなのがいいな」
圭吾さんはニッと笑って言った。
い……意地悪。




