表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/171

クリスマスまでの準備3

 翌朝早く目が覚めた時、わたしは一人だった。


 圭吾さん?


 寝室のドアを開けて左右を確かめると、居間の方から圭吾さんの声がした。

 わたしは裸足でペタペタと歩いて、居間の入口から部屋を覗き込んだ。

 圭吾さんはジーンズとTシャツ姿で、窓の外を見ながら電話で話していた。


 左腕に包帯。まだ痛むのかな……


「やりすぎたのは分かっているよ――もう非番に入るんだろ? 朝飯を食いに来いよ。志鶴の姿くらい拝ませてやる」

 どうやら要さんと話しているらしい。

「常盤は別の奴に預けてしまえ。今日は出かけるんだ。病院から来いと言われてるし、その後は志鶴とデートだ」

 圭吾さんが振り向いた。

「残りは後で。お姫様のお目覚めだ――うん、それは一緒に寝ているからさ。切るぞ」


 圭吾さんは電話を切ると、『おはよう』と笑顔で言った。


「わたしがどこで寝ているか、いちいち吹聴する必要あるの?」

 わたしは口を尖らせた。

「吹聴しなくても噂くらいにはなっているんじゃないかな。まあ、みんな僕を志鶴に押し付けたがっているから、悪気のない噂だろうけど」

 圭吾さんは近づいて来て、わたしの唇にサッとキスをした。

「拗ねていても可愛いね」


 そんなコト言うなんてずるいわよ。


「も、も……もう起きるの?」

 わたしは真っ赤になって口ごもった。

「少し仕事を片付けてしまおうと思って。志鶴はもう少し寝ていていいよ」

「わたしも起きる。もう眠くないし」

「じゃ、母屋にお使いを頼んでいいかな?」

「朝食に要さんも来るのね?」

「ご明答。それから悟達をたたき起こすといいよ」



 わたしは、顔を洗って着替えてから母屋に行った。

 台所では、もうお手伝いさん達が働いている。

 わたしが『おはようございます』と中に入って行くと、和子さんが振り向いた。


「志鶴様? お早いですね」

「朝食をもう一人追加して下さいって、圭吾さんが。要さんがお仕事明けでいらっしゃるそうなの」

「かしこまりました。お茶をお入れしましょうか?」

「ううん。これから悟くん達を起こすの」

 和子さんは顔をしかめた。

「きっとまだお休みですよ」


 だから起こすんじゃないの。


「圭吾さんが起こしていいって言ったもの」

 わたしはニッコリとして言った。

 お手伝いさん達がクスクス笑う。

「まったく……圭吾様ときたら」

 和子さんは呆れたように頭を振った。

「それに、わたくしもどうかしているのでございましょうね。入る時はお静かに。その方がびっくりしますよ」


 わたしは驚いて瞬きした。

 みんなニコニコしている。いつも厳しい和子さんが、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。


 わたしは小さな子供に戻ったような気分で、悟くん達が泊まった部屋の前まで行った。

 和子さんの忠告通り、そおっと襖を開ける。

 悟くんと大輔くんは、ぐっすり眠っていた。悟くんは横向きで。大輔くんは頭から布団を被って。


 何だか修学旅行みたい。


 わたしは二人の間に『おっはよう!』と言いながらダイブした。

「う、うわわわわっ! 何? 何? 何っ?」

 大輔くんは大声を上げながら、掛け布団を抱えて壁際まで逃げた。

 悟くんは眠そうに前髪を掻き上げて、頭をちょっとだけ起こした。

「おはよう、しづ姫。早朝ドッキリかい?」

 わたしは布団の上にバタッと伏せた。

「悟くん、もっと驚いてよ~」

「大輔が三人分くらい驚いたじゃないか」

 大輔くんは壁際で目をパチクリとさせていた。

「驚かすなよ」

 大輔くんは這って手を伸ばすと、枕を手にした。『ゴメン』と言いかけたわたしの頭に枕が命中する。

「ガキみたいな真似すんなよな」

「ねえ、弟がいるっていつもこんな感じ?」

 わたしは悟くんに向かって尋ねた。

「そう。小生意気で騒々しくて――楽しいよ」

「何だよ、それ」

 大輔くんは顔をちょっと赤らめて咳ばらいをした。

「でも、お姫様が弟を欲しいって言うなら、なってやってもいいぜ」


 ホントだ。楽しいわ。




 朝食の席は、要さんも加わって賑やかになった。


「こんなに人が集まるのは何年ぶりかしらね」

 伯母様が嬉しそうに言った。

「あなた達が子供の頃は、よく集まったわね。賑やかで楽しかったわ」

「そのうち孫で一杯にしますよ」

 圭吾さんがごく当たり前の事のように言った。


 この広い家を一杯にするには、何人くらい必要かなぁ。


「十人くらいいても平気よね」

 彩名さんがそう言う。

「その半分は彩名の持ち分だぞ」

 圭吾さんが皮肉っぽく言った。


 ママが生きていたら、あるいは、ママが亡くなってすぐにこの家に預けられれば、わたしもこの賑やかさの中で育っていたのかも知れない。


 一瞬、胸が痛んだけれど、圭吾さんが笑顔でわたしを見て、そんな事は何もかもどうでもよくなった。


 過去は変えられない。でも、未来はこの手にできる。


 二人で。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ