4月8日(日)
渚と柊が行方不明になってから3日が経った。この3日の間に、さらに7人の被害者の生首が見つかり、発見者は渚や柊のように行方不明になっていた。ニュースは全国放送でとりあげられ、町の中はこの話で持ち切りだった。
正直ボクは気が滅入っていた。渚の一件ではまだ後悔しているし、未だに夢に見る。柊のことも心配だった。そして何よりボクの身にも何か起こるかもしれないと思うと、かなり息苦しかった。ボクには全く関係ない、なんて思っていたときのように楽観視できたらどんなに楽かと思う。しかし、渚や柊という自分に近しい人間がかかわっていたので、そんなにすぐに割り切ることができなかった。
ずっとモヤモヤとした黒い霧に体中を覆われているようだった。
ボクは何かが起こるのが――
自分が生首を発見してしまうのが怖くてずっと布団にくるまっていた。
唯一、昼と夜のニュースの時間だけは布団から出て、ニュースを確認していた。早く生首が全部見つかってくれさえすればこんな恐怖を味わう必要がないからだ。
ふと部屋の時計を見る。今の時刻はちょうど昼の12時。ボクはニュースを確認に行くために起き上った。と、そのとき突然ブーッブーッ!!という音が部屋に鳴り響いた。ビクッとして音の方を見る。ボクの携帯のバイブ音だった。相手は空だった。
なぜだかひどく嫌な予感がした。
柊がいなくなったのを知ったのが空の電話だった、ということもあったが、もっと、うまく言葉にできないような何かを感じた。ボクは無視をしようとした。だが電話は10秒たっても20秒たっても切れる気配がない。出ない…というわけにはいかなそうだった。意を決してボクは電話を耳に押し当てた。――しかしその数秒後、ボクは電話に出たことを激しく悔やむこととなる。
「おい―…ミ!助…て……!オ…の……から…生首が…たんだ!」
空からの電話は酷いノイズがかかっていてほとんど聞き取ることができなかった。だが、ただ一つ、『生首』というワードだけが鮮明だった。そして、それ以外は全く不明瞭なままで電話が切れた。それからはツーツーツーという通話終了の音が耳元で不快に響くだけだった。その後、空に電話をかけ直したが、何度かけても空が電話に出ることはなかった。
ボクは結局、今日の昼のニュースは確認しなかった。空からの電話のせいで、部屋から出るのが恐ろしかったのだ。空が行方不明になったというニュースを見るのがいやだった。もっとも、まだ空が行方不明になったというのが確定したわけではないのだが、それでもニュースは見たくなかった。
気がつくと夜になっていた。もしかしたら空のことがニュースになっているかもしれない。いや、まだ空が行方不明になったと決まったわけではないが……
ボクはそう思って、布団から出る決意をした。
テレビをつけるとちょうどニュースをやっていた。
「4月8日、夜のニュースです。○○市の高校で起きた、生徒11人が首のない遺体で発見された事件と、同じ高校に通う生徒たちが次々に行方不明となっている事件の続報が入ってまいりました。今日の夕方、高校に通う茨城空君の自宅で、10人目の生首が発見され、発見した空君が警察に通報した模様です。また、今までの事件の一連の流れと同様に、最初に生首を発見したとみられる、生徒の行方が分からなくなっています。警察は、他の9件の事件と並行して、調べを進めていく方針です。それでは続いてのニュースです―――」
そのニュースはボクの「空は無事かもしれない。」という希望的観測を、至極簡単に否定してしまった。しかし、そんな希望的観測などはボクの思うところのほんの一部分であって、ボクの思考の大部分ではそんなことはないだろうと分かっていた。ただ単に、それを認めてしまいたくなかったのだ。信じてしまいたくなかったのだ。空に限ってそんなことはないと思いたかった。
だが現実はそうならない。そんなモノである。
とりあえず、空のことに関しては、このニュースを見て、ボクの中で整理ができたような気がした。あくまでも気がしただけにすぎないのだろうが……
それよりも今、ボクは、「最後のひとつの首を見つけるのはボクかもしれない」という可能性が怖かった。渚に始まり、柊、空と3人も知り合いが同じ事件に巻き込まれているのだ。とても偶然とは思えない確率だ。もちろん偶然だとタカをくくるのは簡単だ。だが、さすがのボクもこの状況でそこまで楽天的ではいられなかった。
こんなとき、少し前までのいつものボクのように、「つまらない」だとか「興味がない」だとかで片付けられればどんなに楽かと思う。だが、一度、心の中に垂れた恐怖と云う名のシミは、ジワジワと広がる一方で、やっぱりこの事件を楽観することなどとてもできそうになかった。
ニュースを見てから、その場でぼんやりとそんなことを考えていると、かなり時間が経っていた。ボクは、自分の部屋に戻って寝ることにした。
そして、そのまま恐怖でほぼ一睡もできないまま朝を迎えることとなった。