01
ぽかりと覚醒した。二度三度と瞬きを繰り返し、部屋の中をぐるりと一瞥する。
ああ・・・、また今朝も『おれ』だ。
どうしていつも、毎日『自分』なのか不思議に思ったことはないだろうか。目が覚めて、視界に映った景色が見慣れた自室であることに疑問を抱いたことは?
何故必ず『おれ』として目が覚めるのか、何故天井がいつも同じものなのか、本当はこの世界には『おれ』しかいないのではないか・・・家族や友人といった『おれ』を取り巻く『おれ』以外の人物は、実際にはいない偽者なのではないか・・・
そんなふうに考えたことは?
・・・・・・・・・・おれは、今朝も『おれ』であることに失望しながらベッドから抜け出した。
階段を下りてダイニングキッチンへ。すでに席について食事を始めていた妹が、おれを見て顔を顰めた。
「やだー。お兄ちゃん、まだそんなカッコしてるのー?」
食べかけのパンを手に、中学生にもなって足をジタバタさせる妹を、母親がめっと諌める。
「ミナミったら騒がないでちょうだい。ヒトのことより、早く食べちゃわないと朝練に間に合わないわよ」
「えっ!うそっ。もうそんな時間なの?!」
最後のひとかけを無理矢理口に入れると、差し出されたミルクティーで流し込む。
立ち上がるときにテーブルに足をぶつけたらしく、ガシャンと食器が音をたてた。
「おい、気をつけろ」
こんどはテレビニュースを見ながらコーヒーを飲んでいた父親が注意する。しかしあまり効果はなく、「ゴメ~ン」と悪びれない様子の、軽い謝罪が返ってきただけだった。
妹と入れ代わるように席に着くと、目の前に目玉焼きとサラダが並べられる。
「パンは自分で焼いてちょうだいね。母さん、先にゴミを出してきちゃうから」
そう言いながらもマグカップやジャムをおれの前に移動させる母親に、今朝は何か引っ掛かるものを感じた。
「?」
なかなか動こうとしないおれに痺れを切らしたのか、もう!と母親はパンをトースターに入れる。さっき焼いたパンのくずが焦げて、香ばしい香りが漂い始めた。
「自分でしてって言ってるのに」
言い表せない違和感にただ黙って考え込んでいると、ブツブツと文句を言いつつ母親が手を出してくる。
そんな子供ばかりかまう妻の姿を、父親が横目でチラリと見ていた。
「放っておけ。タスクだってもう高校生なんだ」
「でも、だってアナタ~・・」
いつもと変わらない、毎日見る光景。だけど小さなトゲが刺さったみたいに、何かが気になって仕方が無い。
ぼんやりとインスタントコーヒ-を淹れ始めたところに、焼きたてのトーストが出される。それを見て、さっきから感じている違和の原因を見つけた。
「・・・オフクロ、左利きだったけ?」
つぶやくような声だったにもかかわらず、二人には聞こえたらしい。ポカンとこちらを見ている。
「いつから?」
「何言ってるの。母さんは最初から左利きじゃない」
「何だ、タスクはまだ寝惚けてるのか?」
はじめは呆けていたが、二人は顔を見合い、同時に笑い出した。
「ちょっと、ナニナニィ?すんごい楽しそーじゃん!」
「ミナミ聞いてよ~。お兄ちゃんたら可笑しいのよ~」
話を聞いた妹も一緒になって大笑いしだしたが、おれは全然笑えなかった。
「お兄ちゃん、最っ高!!」
母親の利き手が気になって、おれはこの日朝食を食い損ねた。




