表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜復讐  作者: 我茶
6/6

第6章 感染

壊れてしまった社畜の悲しい復讐劇

変化は、音を立てない。

最初に崩れたのは若手だった。

次に揺らいだのは中堅だった。

三十代後半、入社十年以上。

会社の将来をまだどこかで信じている層。

彼らは相沢を軽蔑しだしていた。

「最近の相沢、やる気ないよな」

「昔は違ったのに」

だが、数字は伸びない。

無理な目標は続く。

上は詰める。

下は辞める。

中堅は板挟みになる。

ある日、山本が言った。

「もう無理かもしれん」

彼は営業成績トップクラスだった。

だが目の下に濃い隈がある。

「今期の目標150%にされたよ」

笑いながら言う。

目は笑っていない。

「達成できそうですか」

相沢が聞く。

「できるわけないだろ」

沈黙。

「でもやるしかない」

相沢は小さく首を傾げる。

「やらなくても、死にはしません」

山本は苦笑する。

「お前みたいにはなれん」

その言葉に、わずかな棘がある。

だが半年後、山本の残業時間は減った。

会議での発言も減った。

資料の完成度も、わずかに落ちた。

誰も気づかない程度に。

それで十分だった。

会社の空気が変わる。

挑戦よりも、防御。

提案よりも、無難。

会議は静かになる。

「何か意見は?」

黒田が言う。

誰も手を挙げない。

かつては活発だった議論が、消えた。

相沢は発言しない。

ただ頷く。

沈黙は伝播する。

勇気よりも、諦めの方が移りやすい。

大型プロジェクトが動き出した。

会社の命運を握る案件。

全社横断。

通常なら士気が上がる。

だが今回は違った。

「どうせ無理な目標だ」

その声が、水面下で広がる。

相沢は八割で仕事をする。

不足はない。

だが、攻めない。

リスクの深掘りをしない。

「まあ大丈夫でしょう」

その一言が、何度も会議で使われた。

誰も強く否定しない。

なぜなら、深く踏み込めば自分の負担が増えるからだ。

結果は、失敗だった。

納期遅延。

仕様の見落とし。

顧客からのクレーム。

損失額は大きい。

役員会は荒れた。

黒田は吊るし上げられる。

「なぜ管理できなかった」

だが、誰か一人の責任ではない。

全員が少しずつ足りなかった。

その“少し”が積み重なった。

部署は沈んだ。

怒鳴る気力もなくなる。

黒田は目に見えて老けた。

相沢に言う。

「最近、みんな覇気がない」

「そうですね」

「どう思う」

相沢は考える。

本当の答えは知っている。

だが口にする必要はない。

「疲れてるんじゃないですか」

曖昧な言葉。

だが否定もできない。

社内アンケートの結果が出た。

「会社の将来に希望を持てるか」

肯定回答は過去最低。

人事は対策を検討する。

研修。

スローガン。

社内イベント。

表面を磨く。

だが内部は乾いている。

相沢は資料を見ながら思う。

もう戻らない。

一度削がれた意欲は、簡単には戻らない。

その夜、相沢は一人で残業していた。

特に急ぎの仕事はない。

帰っても何もない。

蛍光灯の音だけが響く。

ふと、胃に鈍い痛みが走る。

机に手をつく。

呼吸を整える。

壊れているのは、会社だけではない。

だがそれでも、止めない。

やめれば会社は少し回復するかもしれない。

自分が本気を出せば、何かは変わるかもしれない。

だが、それは選ばない。

選ばないことを、選び続ける。

それが復讐だ。

窓の外は暗い。

ビルの灯りが点々と残る。

同じように消耗した人間たち。

相沢は思う。

会社は人でできている。

ならば人が静かに弱れば、会社も弱る。

怒りではない。

憎しみでもない。

ただ、温度を下げる。

熱を奪う。

それだけでいい。

大型案件の失敗から三か月。

売上は下方修正。

来期予算は縮小。

人員補充は凍結。

負の循環が始まった。

誰も叫ばない。

誰も暴れない。

静かに、確実に、沈んでいく。

相沢はその中心にいる。

だが目立たない。

最低評価でもない。

最高評価でもない。

ただの社員。

ただの八割。

それが一番、長く効く。

胃の痛みを抱えながら、相沢はキーボードを打つ。

音は規則正しい。

まるで心電図のように。

まだ止まらない。

まだ続く。

会社も、自分も。

どちらが先に崩れるか。

それを見届けるまで。

次回、第七章は3月22日 19時更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ