2 冒険者稼業
サムのお下がりの防具はかなり汚れていたが、サイズはぴったりだった。
サムがくれた防具には鉢金もあった。鉢金はキラの額を隠すには丁度良かった。キラは防具に浄化を掛け光の特性を付けて作り直してみた。
見違えるようになった防具を見てサムは、
「俺の防具も直してくれねぇか?」
サムの防具にも守りの魔法をコッソリ付けてやった。魔物が襲ってきても、これなら大丈夫だろう。浄化を掛けて新品の輝きを放っている。
「お前はこっちの仕事でも喰っていけるな。凄い直しの特技だ。」
それも良いかも。防具のお直し屋も愉しいかも知れない。
今はサムに付いて冒険者に成るためのイロハを習っている。ギルドには誰も来ないからと言って締めて来たのだった。
街を出てかなり離れた場所の草原に来た。
草原には、薬草が少し生えている。その見分け方や、採集の仕方、偶に襲ってくる魔獣の倒し方などを教わりながら、森の方まで歩いてきた。
「ここから先へは行ってはダメだぞ。まだお前には早い。何百年も前にダイダロスが作った異界の門が遠くにあるんだ。そこから魔力が溢れてきてこの森の魔獣が強くなっている。同じ魔獣でも強さはダンチだ。」
あの異界の門を作ったのはダイダロスと言うらしい。ダイダロスも賢者だったのだろうか。
「この街の名と同じだね。ダイダロスという人が作った街だから?」
「そう言われているが余りにも昔だからな。ハッキリしたことは分からねぇ。昔話には、各地にある異界の門は魔人ダイダロスが造ったって教わったがな。本当のところは誰も知らねぇんじゃ無いかな。」
サムは孤児だった。この街にある孤児院で育ったと言った。彼は10歳からこのギルドでお世話になっているという。ギルド長にイチから仕込んで貰い今があるから、ここから出て行かないそうだ。
以前は普通に冒険者も沢山居たが、問題が起きて皆出て行ってしまった。問題とは何かと聞くと貴族がらみだと言った。
貴族の嫌がらせなのかも知れないが、もしその様な経緯があったのにキラを受入れてくれたのは、余程困っていたのかも知れない。
「もう直ぐギルドで共同の討伐がある。一人では大変なんだ。それまでお前を鍛えてペアを組んで一緒に討伐に出たいんだ。」
と言う事らしい。良いだろう、頑張って早く役立てるようになろう。魔法は使えないから、普通の冒険者として活躍できるようにならなければならない。
剣術の稽古は欠かさず続けている。この街の神殿にも毎朝祈りに行っている。孤児院がある神殿にはサムも時々顔を出しているようだ。
神殿にいた巫女がキラに、
「何時も沢山お布施を頂いて助かっています。」
と言ってきた。孤児院は薬を作って売ったり、この領主から献金を貰って運営しているそうだ。偶に他所の貴族が孤児を受け取りに来るという。その時には献金を多く置いて行く事もあるという。
「孤児を使用人にするためですか?」
「・・・いえ。分かりません。私達では断れないこともあります。」
それ以上は答えてくれなかったが、何の為に孤児を連れて行っているのだろう。
その事をサムにも聞いたが、嫌な顔をして、
「貴族は孤児を色んな事に利用するんだろ。俺と同じ時にいた孤児も綺麗な顔をしていれば、連れて行かれた奴がいた。貴族では無く商人だったけどな。」
そう言うことか。カマドラン国とは違い、この国には魔石を植え込む技術は無いはずだから人体実験はして居ないと思いたい。
技術があっても死亡する確率が高いのだ。もし、見よう見まねで魔石を埋め込んだら、誰も生きてはいないだろう。
サムは孤児達に勧誘を掛けに来ていたらしい。来年孤児院から冒険者に成るために数人来ると言う。
「また忙しくなる。キラも新人を鍛えるのを手伝ってくれよな。」
そう言って、サムは嬉しそうに笑っていた。
そうこうしているうちにギルド長が帰ってきた。受付担当の男も一緒だ。彼は元冒険者で、魔獣に片足を持って行かれて、冒険者を引退して受付の担当になった。まだ20代なのに勿体ないことだ。だが偶にギルド長と一緒にパーティーを組んで、今回のように討伐に行くという。片足には義足をはいて、一見不自由には見えなかった。
「お、珍しい。新人が来てくれたのか。」
書類とキラを見比べながら、受付担当の男がまだ記入していない項目を確認している。
ギルド長はローバーという名で35歳だと言った。
「もうそろそろキツくなってきたな。俺も年取った。異界の門はこれで最後になるかもな。」
肩から卸した重そうな袋から大量の魔石が出てきた。
「これで今月も何とかなりそうだ。来月の共同討伐には、サムとキラの二人で行ってこい。」
異界の門で、稼いできたギルド長にキラは質問をした。
「異界の門は誰でも入れるのですか?」
「ああ、腕に自信があれば、止めはしないが。危険だぞ。」
受付の男が、キラの言葉に反応してすかさず忠告した。
「魔石だけで無く素材も取れれば最高なのにな。オーガやダークスネイクがワンサカでる。彼奴らの魔石も高値が付くが、素材があったらもっと良かった。異界の門の不思議だよな。消えて仕舞うんだから。」
ギルド長が言ったオーガと聞いてキラは是非行ってみたいと思った。ここに来る前に入ってくれば良かった。直ぐ側に転移出来たのに。
「キラはもう少ししてから俺と一緒に行こうな。お前がいなくなれば寂しいだろうが。」
サムが犬ころのような目をして、キラに言っている。
なんだかこのギルドが心配になってきたキラは、思い切って魔法鞄を出して見せた。
「何だ!これはカマドランの有名な魔法鞄じゃないか。お前はカマドランの貴族だったのか!」
「いえ、貴族では無いです。ただ、こういうのを貰える機会に恵まれただけです。これがあれば、もっと稼げますよね。ここで使ってください。僕にはまだ他にもありますから。」
「何処のお坊ちゃまだ。こいつは。」
キラは魔法言語の書き換えをしてここに居る皆に暗唱言語を周知させた。これで皆が使えるだろう。本当は作ってやりたいが、まだ魔法が使えることまでは話せなかった。
「良し!これで俺達も息を吹き返すことが出来るぞ。」
魔法鞄があれば素材ごと持ってこれるのだ。大きい魔獣だってそのまま持ってこれる。皆が笑顔になって良かった。
だが、受付の担当ガンザがじっとキラを見てこう言った。
「魔法使いで無いと暗唱言語は書き換えることは出来ないはずだ。君は魔法使いなんだろう。」
皆がギョッとしてキラを見た。
そうだった、迂闊だった。キラはうなだれて、それから皆を見まわして観念した。、事実を言うしか無かった。
「僕はカマドランからここに来ました。カマドランの賢者の弟子だったのですが弟子を外されてしまったので、旅に出たのです。悪いことをして追い出されたのでは無いです。カマドランの王族が子供を賢者にしたくて、僕が邪魔になっただけです。僕は平民だから。どうか信じてください。」
皆賢者の弟子と聞いて益々緊張してしまった。いつの間にか、キラから少し離れて立っている。じっとキラを見て考え込んでいたギルド長が、
「ガンザ、若しかしたらこれは神からの恩恵かも知れないぞ。この国の冒険者ギルドで賢者がいるのは俺達だけだ。いや、世界中探してもここだけだ。どうだ、考えようによっては凄いことじゃないか。キラ君大丈夫だ君を疑ってなど居ない。貴重すぎて言葉が出ないだけなんだ。」
キラはもうバレてしまったので鉢金も取って見せた。皆魔石持ちを見るのが初めてなのかじっと見つめて声も出ない。キラは覚悟を決めて、魔法使いとして出来ることを少しだけ教えた。
「本当にそんなことが可能なのか?空に浮かぶ?魔法鞄も作れるのか。」
そしてガンザに義足を取るように言って、ガンザの足を再生して見せた。
皆、驚きすぎて声も出ない。ガンザは自分の足が元通りになっても足を動かすことも出来ないでピント伸ばしたままの姿勢で固まっていた。
暫く時間が必要だろうと考え、無限収納からパンを出してもぐもぐ食べる。
それをただ黙って皆が見て居る。馴れるまではそっとしておこう。