17 魔石持ちの隠れ里
その村には、小さな神殿があった。百人ほどの村人が神殿を囲むように粗末な家を建てて暮らしていた。
村の周りには木の柵で囲いが設置されて、魔物の侵入を防いでいた。ここいらには魔物がいる。山からの魔力が濃いせいだろう。皆狩人のような格好をして魔物を狩り、偶に、近くの村に売りに行っているようだ。
彼等は、身体のどこかしらに魔石を持っていた。
中には片手が無くなっている者も居るが、それは幼いときに親に切られたためだった。
「ゼロ、この村の人は誰も魔法を使っていないみたいだ。何故だろう。」
【儂に分かるわけがないであろう。聞いて見んかい。】
それもそうだ。ゼロが、何でも知っていると思うのは間違っていた。
村に入れないので、柵の外から村の老人に声を掛けてみた。
「こんにちは。ここは何という村ですか?」
「・・お前!何処から現れた。ここへは誰も来られないはずだ。お、お前も魔石持ちか?だったらまずは神殿で誓いを立ててこい。そうすれば村に住むことを許されるから。」
村に住むことを許されるというのは、何か特別な取り決めがあるのだろうか。
殆どが老人だが中には、若い者もいる。若者に話を聞いてみることにしよう。村の外で狩りから帰ってきた、二十歳くらいの青年に声を掛けてみた。
「ああ、ここは魔石の呪いを持って生れた者達の隠れ里だ。オイラは親に連れてこられた。ここの神殿へ行って、魔法を使わない誓いを立てるのさ。魔法なんて何か知らないがね。初めから使えない物に誓いを立てるなんて、可笑しな決まりだ。だが、魔法を使えば闇に飲まれることもあると言われた。オイラはそんなのは嫌だから誓いを立てたのさ。お前もここに逃げてきたのか?」
「いえ、ここが知り合いの故郷だと聞いたので、寄ってみただけです。」
「お前の知り合い?ここから出て行った者は居ないはずだが。本当の事か?」
「はい、知り合いのお師匠様が昔生れた村だそうです。300年以上前のことだと言っていました。」
「さ、三百年だと!一体それは、若しかして落ちた賢者様ではないか。」
青年が言うには、落ちた賢者はこの里に帰ってきてこの村をこの様な形にしていったのだとか。死に際に改心して神殿を作って、魔石持ちをここに集め生きる場所を作ってくれたのだと言う。
ゼロに聞くとゼロの師匠とは違う賢者だそうだ。ゼロの師匠はカマドランの師匠の屋敷にあった旧い神殿を守っていたのだと。
問題を起こした闇に落ちた賢者のせいで、迫害を受けた神官達は、カマドランへ逃げてきたそうだ。
ここの魔石持ち達は、魔石に魔力を通していない。魔法の知識も無いし文字も読めなかった。ただ、普通に生きる為だけにここに居た。他では殺されたか、売られてしまっていた人々だった。
キラは何とも言いようのない悲しみに包まれた。
折角力を持って生れてきたのに、そのせいで迫害を受けて力を潰して生きて行かなければならないことに。
【キラよ。力は諸刃の剣じゃ。使い方次第で悪にもなって仕舞う。儂とて闇に飲まれてしまったのじゃ。力を持つと、慢心が湧き出てくる。執着すると闇に落ちる。若しかしたら、ここの里は力など欲しない物にとっての心の砦なのかも知れない。彼等にとって大事な隠れ里なのじゃと思う。】
キラは、今まで魔石を持って生れた可哀想な人達を救いたいと考えていた。だがそれは、キラの思いあがりだったのでは無いかと気づき愕然とした。
「僕はなんて考え違いをしていたのだ。彼等に選択の余地を与えずに勝手に助ようとしていた。彼等には自分の生き方を選ぶ権利がある。その選んだ道を可哀想だと感じるのは思い上がりの何物でも無い。」
見世物小屋にいたオイビーに選ばせることもしなかったのだ。彼女の人生をキラは決めてしまったことになる。聞くべきだった。聞いて、その結果彼女が決めたことなら全力で手助けするべきだった。
キラとゼロは、これ以上この村にいても自分たちには何もする権利など無いと悟り、静かにここを後にした。