14 名前の無い子
キラは、ダイダロスの異界の門に転移した。
「名前はなんて言うの?」
「・・名前?オイって呼ばれていた。」
オイ、が名前なのか?ただ、おいと呼ばれていただけでは無いのか。
名前が無いと困って仕舞うだろう。
「じゃぁ、僕が名前を付けても良いかい?」
「・・ん。」
「オリビアってどうかな?」
「オイビー?良いよ。オイはオイビーだ。」
なんかチョット違うが、オイビーでも良いか。くせっ毛の赤い髪をくしゃくしゃにして頭を撫でてやると、ニカッと笑った。乳歯が抜けた後が隙間になって間抜けた感じになった。オイビーは思ったほど大人しくは無かった。どちらかと言えば、男の子みたいに元気だ。あちこちに興味を示して動き回っている。
「オイビー、ここは魔物が多く居るんだ。危ないからお兄ちゃんの側に居ような。」
「・・お兄ちゃん?オイのお兄ちゃんなの?」
「ああ、これからはオイビーのお兄ちゃんだ。だけど、僕はここには長く居られないから、オイビーは神殿へ行って貰う。分かったかな。」
「・・また、誰かに売られるの?」
「違うよ。これから行く神殿には、優しいお姉ちゃんの巫女さんが一杯居る。オイビーと同じ魔石が目に入っているから、誰にも変な目で見られることはないんだ。良いかい?」
「わかんないけど分かった。」
オイビーはそう言って駆け出していく。言った側からキラから離れて、興味の対象に向かって突進して行く。
キラはため息をついて、オイビーに結界を張って、好きに走り回らせて置くことにした。
「それで、この子はキラと同じだって言うのか?」
ダイダロスの冒険者ギルドに来て事情を説明して、ギルド長に今後のオイビーのことをお願いした。オイビーは疲れて寝てしまったので、ここで休ませて貰っていたのだ。
「そうなんだ。オルンスの国では見世物小屋にいた。買ってきてしまった。」
「買ったって、お前。女を買って何しようって言うんだ。まさか!おまえ。」
「違うよ!酷いな、そんなこと考えていないよ。ただ、勿体ないと思って。生まれつきの魔石持ちは、凄く力が有るんだ。然も目に持っている。きっと神殿で役に立ってくれるはずだ。まだ小さいから魔法は使わせられないけど。今から勉強して十歳になってから魔法を教えて行けば、僕と同じ治癒が出来る様になる。部位欠損が直せる巫女になれるはずだ。」
キラの描いた教本はここに沢山置いてある。教本さえあれば、周りに教師もいるし世話を焼いてくれる巫女もいる。ここが一番オイビーを安心して任せることが出来る場所だ。初めは師匠の所はどうかと考えたが、王様に目を付けられればまたキラと同じように成るかも知れない。
賢者にするつもりは無いのだ。成人したら、彼女が好きな道を選べばいい。
「キラ、カマドランから、使者が来たって知っているか?」
「使者は、何と言ってきたのですか?」
「賢者の弟子が逃げ出して、賢者の作り出した技術を勝手に他国へ持ち出して困っているんだと。多分魔法鞄のことだろうけど、あれはキラが考えた物だろ?」
「魔法鞄の時間遅延と拡大は僕が考えた。でも、本当はここの神殿の事が気になるんじゃ無いかな。師匠が言っていたけど、王様の子供が同化の予後が悪くて死んだらしい。ここの評判を聞いて、僕がいると確信したんだろう。次の子供にまた魔石を同化させる自摸りらしい。これで6人目だ。」
「自分の子を次々と・・。何を考えているんだ。あの王様は。」
「賢者は弟子を取らないことにしたって言っていた。今の賢者がいなくなれば、王様はやりたい事が出来ると考えているんだろう。賢者の後釜を自分の子供にしておけばもっとやりたい放題出来ると思っているんじゃ無いかな。」
「弟子を取らなけりゃ、賢者を育てられないんじゃ無いか?」
「実際の賢者で無くても良いんじゃあ無いかな。名前だけ賢者であれば、権力を独占できると考えているんだと思う。」
「お前んとこは、賢者が力を持っているって言うものな。」
「王様は勘違いしている。賢者は王様を押しのけてなど居ない。間違ったときに口を出しているだけだ。賢者は権力など欲しがってはダメなんだ。本当に力がある賢者が何かに執着すれば、闇に飲まれる。闇に飲まれた賢者を僕は見たことがあるんだ。」
「だったら、賢者なんていない方が良いじゃないか。名前だけの賢者の方がの方が良いかもな。」
「・・そうかな・・そうかもね・・」
ギルド長にオイビーを神殿へ連れて行って貰った。
オイビーは後ろを振り返って、一瞬キラを見たが、後は其の侭ギルド長と手を繋いで行って仕舞った。これで一安心だ。
暫くここで、魔法鞄や魔道具を作って、キラが居ない間足りなくなった物を補充しておく。ガンザとサムが帰ってきてキラを見て喜んでくれたが、直ぐにまた旅に出るというとがっかりしていた。
「そうだ、引き留めてもダメだった。お前んとこから使者が来て、ここいらを探っている。外へ出て行かない方が良い。」
「うん、ここから転移する。じゃあ、また。」