13 オルンス国の王都オルレンス
オルンス国の王都オルレンスの神殿に、キラはいた。
ここの神殿は、今にも崩れ落ちそうな大きな建物だ。王都の大通りの隅にひっそりと建っていた。
神官は老人で、一人で神殿を管理していた。孤児院も無く、只の神殿で薬師の役割もしていなかった。
「神官様この国の神殿はどのような扱いなのですか?」
「神殿は、忘れ去られた、過去の遺物と言うところですかな。過去には沢山の信者もいたようですが。その当時の力ある神殿長が魔物だったと言われて一気に衰退したようです。私が知っている神殿はずっとこの様な感じです。私が死ねば、ここを守る神官もいなくなるでしょう。」
魔石持ちだったのか。
「言い伝えでは昔は、神殿の神官達は素晴らしい術を使って病を治して人々の心の支えになっていたようです。沢山の国から人々が巡礼に来ていたというのですが、本当かどうか、定かではありません。今となっては知るよしもないのです。」
この国では特に魔石持ちには警戒しているようだ。
キラは帽子を深くかぶり直し、祭壇に跪いた。神官に献金をして神殿を出た。
神殿の代わりをしているのは、薬師や孤児院が分化して国の各地にあると言う。本当に神殿は過去の遺物になって仕舞ったようだ。
大河の周りは魔物がいるが、その他には殆ど見受けられないそうだ。魔法使いなど聞いた事がないと言われた。
そう言えばこの国に入ってから魔物は見て居ない。異界の門の周りは、高い山や崖、そこから溢れた魔力は河に溶け込んで周りには影響が無いようだ。
魔物がいなければ、只の古い町並みが続く、時代がかった街と言うだけだ。
冒険者ギルドも無かった。魔物が極端に少ないから、必要がないのだ。
他国と交流が無いため随分と遅れているが、国民にはこれが普通なのだ。
神官の言ったことは本当の事だったろう。この国には多くの魔石を持った子供が生れていた。河に濃い魔力が集中する事によって生れやすい環境のようだ。
いつどんな事件があってこんなにも神殿が忌避されたのかは分からないが、以前は他国とも交流があったのだ。
興味をそそるものは何も無い。この国はこれはこれで旨く廻っているのだろう。もう違う国へ旅立った方が良さそうだ。
キラはきびすを返して王都から出て行こうとした。
中央の広場が賑わいを見せていたので、そこを覗いてから王都を去ろう。
「さあさあ、見ていらっしゃい、見ていらっしゃい。親の因果が子に報い生まれ出てきた、世にもおぞましい化け物がワンサカ見られるよ。お代は診てからの後払い。母が魔物と密通し、バチが当たった結果だよ。見てらっしゃい。入ってらっしゃい。母親は子供のせいで父親に殺されて仕舞った恐ろしい子供だ。見ないと損をしてしまう。さ、入って、入って。」
見世物小屋があった。キラは心を引き締めて、小屋の中へ入っていった。
中には沢山の人が細い通路を歩いていた。片側には奇形の動物や、魔獣が、檻に入れられてみすぼらしい格好で俯いていたり、吠えたりしている。
その中の1つに右目が魔石の五歳くらいの女の子供が居た。
やはり魔石持ちはここにいた。檻の管理をしているのは、片腕の老人だった。
キラはその老人に、
「この子は、何時からこのにいるのですか?」
「生れたときからさ。こいつは殺される前にわしが見付けた。わしと同じ魔物の呪いが掛かって居る。わしは腕にあったから、親に切り落とされ大人になれたが、片腕ではろくな仕事は出来ねぇ。結局見世物小屋で働かされるようになった。だが、殺されて仕舞ったらおしまいさ。」
「この子を売ってくれませんか?」
キラは大金貨を一枚出して見せた。片腕の老人は、小屋主を呼びに行った。
小屋主は売るのを渋って見せた。キラは小金貨を一枚、また一枚と重ねていった。そして、「無理なら、諦めます。」
と言って、お金を仕舞おうとすると。慌てた小屋主が
「売る!」
そう言ってお金を全部奪い取った。
子供は、ずっと俯いている。それでも老人によく世話をされていたようだ。
綺麗に洗濯された服を着ていた。
帰り際、見送りに来た老人に、子供はお礼を言っていた。
「じいちゃ、あんがと。バイバイ。」
「いいさ、礼なんざぁ。大した事はしていねぇ。元気で暮らせよ。」
キラは老人の腕を持って、
「貴方のお陰でこの子は生きていられた。ありがとうこれはお礼です。」
と言って腕を再生し、その手に金貨を一枚握らせてその場から子供と一緒に転移した。
後に残された老人は呆然として「・・聖者様」とつぶやいた。