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最終章:始動


——また、ひとつ“願い”が生まれた。


虚無の奥深く、光も影も溶け合う領域の中心に、アナンケは静かに佇んでいた。


その冷たい瞳が、ゆっくりと細められる。


「……いいわ」


霧の中に浮かぶのは、一匹の白い犬と、その傍らでうずくまくひとりの少年。


少年の胸の内から立ち昇る微かな光——それが、今まさに生まれ落ちた新たな“願い”の証だった。


孤独、渇望、憧憬。


「こうしてまた、ひとつ歯車が回り始めたのね」


唇がわずかに吊り上がる。

アナンケの微笑は、慈しみとも冷酷さともつかぬ色を帯びていた。



「アズライル。」


その名を、ゆっくりと呼ぶ。


彼女の忠実なる使い魔。

命を司る契約の執行者。

——だが、今や彼の中に僅かな揺らぎが芽生えつつあることを、アナンケは見逃していない。


「君はこの短い間に、随分と面白いものを手にしたようだね」


虚空にアズライルの像が浮かび上がる。

冷たく無表情な顔——だが、その奥に微かな“濁り”のようなものが揺れていた。


「命を回収できずに迷いを残した。それは決して些細なことではないわ」


指先でそっと虚空をなぞると、小さな波紋が広がっていく。


「けれど……それもまた良い兆しよ」


アナンケはくつくつと笑う。


「君は知らず知らずのうちに、少しずつ、こちら側へと足を踏み入れていく。自分の選択によって——ね」



虚空の奥で再び“願い”が灯る。


——誰かに触れたい。

——そばに立ちたい。

——孤独から抜け出したい。


その純粋な願いの光は、まるで導きのように新たな契約を呼び寄せていく。


「君にとっては、なかなかに興味深い契約になるでしょう」


ふ、とアナンケは呟く。


「次の命が、君を待っている。」


闇の中に、ゆっくりと新たな扉が開いていく。

静かに動き出した歯車は、今まさに次の因果へと繋がっていくのだった。



アナンケは、最後にほんのわずかに目を伏せた。


「——すべては、仕組まれた通りに。」


そして静かに虚無の闇に溶けていった。



【完】


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