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第十四章:告発

翌朝、玲は目を覚ました瞬間、胸の奥に静かな決意が宿っているのを感じた。


昨日とは違う。

逃げるのではなく、今度は“自分の言葉”で真実を伝える番だ。

机の上には、昨夜寝る前に用意しておいたノートが置かれていた。

そこには、自分が受けてきた全てが、嘘偽りなく記されている。

玲はそっとそれを手に取り、リビングへと向かった――


朝の光がカーテン越しに差し込む。


玲は机の前に座り、小さく深呼吸を繰り返していた。

その手には、一冊の古びたノートが握られている。


(……決めた)


昨日までは、ただ日常を取り戻すことで精一杯だった。

でも、心のどこかにずっと残っていた言葉があった。


——『お前自身が選べ』


あの“誰か”がくれた言葉。


思い出せない顔。思い出せない声。

それでも、自分の人生を託してくれた“契約”だけは、確かに覚えている。


「私は……まだ終わってない」


玲はそう呟き、立ち上がった。



リビングに降りると、両親がすでに朝食の支度をしていた。


母は玲の姿を見ると、心配そうに微笑む。


「玲、大丈夫? 無理しないでって言ったのに……」


「大丈夫だよ」


玲は小さく笑い返した。


そして、手に持っていたノートをそっと差し出す。


「これ、読んでほしいの」


父と母は驚いた表情を浮かべ、ゆっくりとノートを受け取った。


中には、玲がいじめを受け続けていた日々の記録が綴られていた。


——机の中に入れられた腐った弁当。

——体育の授業での盗撮未遂。

——陰湿な無視、言葉の暴力、教科書を破かれた日。

——教師に相談しても“気のせいだ”と流されたこと。


ページをめくるごとに、母の目には涙が浮かび、父は拳を固く握りしめていく。


「……玲……こんな……」


母が嗚咽を堪え、言葉を失う。


「ずっと言えなくて、ごめんなさい」


玲の声は震えていたが、その目はしっかりと両親を見据えていた。


「でも、もう黙っていない。……お願い、一緒に戦ってほしい」


父は何も言わずにうなずき、母は玲の手をぎゅっと握り返した。


「もちろんよ。一緒にやろう。絶対に許さない」



数日後、弁護士の同席する中で、学校との話し合いの場が設けられた。


担任教師、学年主任、校長、そして教育委員会の関係者まで呼び出される事態となった。


冒頭から、弁護士が淡々と証拠書類を読み上げる。


「こちらが被害の詳細を記録した日記の写しです。複数の音声記録、SNS上の投稿履歴の保存データもございます」


教師陣の顔色が次第に青ざめていく。


「主犯生徒三名は既に退学・転校等の処分を受けておりますが、本件はそれでは終わりません。問題は、貴校がこの重大ないじめの事実を把握しながら放置していた点にあります」


「……そんな、大袈裟な……」

担任が小さく呟くが、弁護士の視線に射抜かれ、言葉を失った。


「見て見ぬふりをしていた行為は、加害に加担したのと同じです。被害者は長期間にわたり精神的苦痛を受け、生命の危険にすら晒されました」


静まり返る会議室。


校長が重く頭を垂れ、担任は顔を伏せたまま動かない。


母親は玲の肩に手を置き、父は強く言葉を継いだ。


「娘の命を奪われかけたんです。責任は取ってもらいます」



その夜。玲は自室のベッドに腰掛け、窓の外の星空を見上げていた。


心の奥に、再びあの“誰か”の存在が浮かんでくる。


(ありがとう……私は、私の選択をしたよ)


顔も名前もわからないままの誰か。

それでも、あの契約があったからこそ、今こうして立てている。


玲はゆっくりと目を閉じた。


静かな満足感と、確かな生の実感を胸に、優しく夜は更けていく。


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