ファイナルバトル!
「レティーシア、平気ですか!?」
キャスがレティーシア程の威力は無いが、それでも今は助かる治癒魔法をレティーシアに掛ける。
「有難う、キャス。みんなごめんね……あの枷で封じられて逃げられなかったの。」
済まなそうなレティーシア。
「無事だったらいいよ!」
ミアが元気な声でレティーシアの頭を撫でると、レティーシアは困ったように微笑んだ。
「くそ……人間如きがわしをほんの少しと言えどダメージを与えるとは……」
俺達の攻撃を喰らった王様は、自分の人差し指を見せつけるように俺達へ示した。
「えっ!?」
驚くみんな。
もしかして…王様の意図に間違いが無ければ、さっきの俺達の攻撃で、じわりと滲む指先をちょっと切っただけって…事、だよな……
あんなに全力で攻撃したのに!
みんなも愕然としている。
さっきのが全力だから、こんなに圧倒的な力に、俺達には対向する術が無い…
そう言えば王様は俺達を『人間如き』と言った。
「王様は人間じゃ無いのか?」
俺は思わず王様に問い掛けていた。
「ふむ、セートだったな。役立たずだと思ったら、本当に勇者だったとは。」
おかしそうにそう口にするが、俺を見る目は冷めていて、俺に対する興味が無い感じ。
「お前が人間と魔族を対立させたのか!?」
ヴァルティアは叫ぶように問う。
「ああ、そうじゃよ。薄汚い魔族を滅ぼしたくてのぅ。」
言いながら王様は蔑んだ目でヴァルティアを見ながら、楽しそうに返す。
「何故そのような事を……」
「魔族は神の失敗で産まれた種族、醜い失敗作じゃからな。」
キャスが思わずそう呟くと、答えるように王様が言う。
「それならば国王、貴方はやってる事がおかしいわ!私達に人間をぶつけた。」
それを聞き、怒りに震えたベルが声を上げた。
「そうよ、人間を傷付けたのは貴方よ!」
エリンもベルに続く。
ミアは怒りに身体を震えさせている。
「はっははは!!決まっておろう、わしにとっては人間など駒に過ぎん。」
それを聞いてみんなが青ざめた。
『人間など』と言うことは、王様は人間じゃない。
これだけの力を持った者…何だろう…とにかく不味い感じだ。
そこで先手を取ろうと俺は変身の歌を歌う。
みんなも続けて変身した。
いつも変身中は攻撃されないけど、今回は王様は、さして気にもしてない様子で俺達の変身を見ていた。
待ってくれてたのではないと思う。
俺達が変身してパワーアップする事にすら興味が無いんだろう。
きっと王様にとっては、変身すらもささやかな力でしかないの…だろう。
勝てないよ……。
でも、もう戻れない。
俺達と対峙したって事は、逃がしてくれるわけが無い。
最後まで力を振り絞って戦おう!
さっきの戦闘に全力で挑んだ俺達には、残された力は僅かだ。
みんなも同じ事を考えていたのだろう、俺達は目配せした。
レティーシアは青ざめて狼狽えているようだけど…
「レティーシア、平気か?」
「う、うん……」
いつものように少し考えているようにしながらレティーシアは頷いた。
やっぱり怖いよな…なんて思いながらレティーシアを見る。
そうだ、みんな女の子だ。
俺が守るんだ。
そう考えると俺は攻撃魔法の歌を歌う。
そうそう、俺は普通の攻撃魔法も勿論使えるけど、歌でその威力を何倍にも出来る。
今までの戦闘でコツを掴んだから、俺が使える最上級の魔法の効果を引き出すように歌った。
みんなの歌が合わさる。
さっきの魔力球よりもすんなりと、強い力が生まれ出た。
「行けーーー!!」
みんなの力と想いが込められた魔力球が、王様を捉える。
王様は攻撃してこない!?俺は驚愕に目を見開く。
すると、王様に確かに届いた俺達の魔力球は、王様にあっさり消されてしまった…
「ふはははっっ!!神の身であるわしに、人間如きの力が何度も効くわけが無かろう!!」
「なっ……!?」
神!?そんなのチートもチートじゃないか!?
王様の目がスッと金色に変わった!?
「ば、馬鹿な!!その目の色は…!本当に神なのかっ!!」
ヴァルティアは神が金色の目だと知っているらしい……って事は、本当に神なんだ……。
これは不味いんじゃないか?と俺はマジで戦況を考えてしまう。
それも束の間、俺達の攻撃を消したその手に注力を込めると、先程の俺達の攻撃より明らかに強いと感じる魔法を、いとも簡単に俺達に向けて放った。
これは死ぬ!
俺はみんなを守るように、自らを盾にしようと両手を広げる。
「セート!!」
レティーシアの声がしたと思ったら、結界を張ったレティーシアが俺の前に身を投げ出した。
パリンっと音を立ててレティーシアの結界はあっさりと割れて、王様の魔法の直撃を受けたレティーシアは、背後に居た俺を巻き込んで後方に吹っ飛ばされた。
「れ、レティーシア!?平気か!?」
「ぅ……平気。」
怪我は無いようだが、吹っ飛んだ際に壁にぶち当たった衝撃にダメージを受けた感じだ。
「ど、どうして…無事なんだ?」
「ヴァルティアと戦った時に、ヴァルティアの前に私、出たでしょ。あの時にみんなの魔力を吸い込んだから、その時の余剰魔力で平気だったの。」
んー?何か色々聞きたいけど、それどころじゃない。
「お前まさか……」
レティーシアをねめつけて、怖い顔をしながら問う。
「そうね、貴方が考えている通りかも知れないわ。」
レティーシアが王様を少し睨んで答える。
「まあよい、お前もろとも逆らう者は、皆殺すまで!」
王様はわりと先程の魔法が効かなかったことは予想外だったようだ。
王様は結界を張り、同時に詠唱を始めた。
歌じゃないようだけど、それと同じくらい魔力が高まっているのを肌で感じる。
さっきのと比べ物にならないくらい……今度こそ確実に死ぬ!
みんなもそれを感じて歌を躊躇している。
「みんな、全力で結界を張って!」
レティーシアが言う。
結界でどうするのかわからないけど、他に手段が全く無い俺達は、すぐに歌う。
俺がみんなの前に出て、みんなの結界を集める。
みんなの結界がそれぞれの色で輝く。
それを見たレティーシアが微笑んで頷くと、歌を歌う。
何だろう……懐かしい歌。
眠気が来るような……
そうだ、子守唄だ!
それに気付いた時とほぼ同時に、レティーシアが叫んだ。
「天のお父様、お母様!私達を助けて下さい!!」
祈るようにしてレティーシアが叫ぶと、空から光が輝いて、レティーシアの身体に吸い込まれる。
色々な色の光が瞬いてレティーシア包み、レティーシアの姿が変わっていく。
魔法少女の服装から、ウェディングドレスのような衣装に変わった。
真っ白なドレスに、裾が七色のグラデーションになっていて、眩く輝いている。
そして、レティーシアの瞳が青から金色に変わる。
「そ、その瞳…ま、まさか…レティーシア……貴女も神属か!?」
ヴァルティアは動揺する。
金色の瞳は神ってさっき……
思えば確かに他にそんな色の瞳の種族は見なかった。
「後で全てを話すわ。だから今は…!」
レティーシアの放つ魔力が格段に違う。
勝てる……きっと勝てる!
「受け取って、セート!!」
七色の光がレティーシアから発されて、俺に降り注ぐ。
俺の衣装も、白いタキシードっぽい衣装に変わった。
みんなもドレス姿に変わる。
みんなはそれぞれの属性の色のドレス。
ミアは赤、エリンは緑、ベルは青、キャスは茶、ヴァルティアは黒、と。
その間に王様が詠唱を終え、俺達を攻撃しようとしていた。
俺はレティーシアから受け取った膨大な魔力を受け入れて、そこからみんなに力を流す。
「させるか!!」
パワーアップしたみんなの結界が、王様の魔法を受け止めた。
でも、拮抗してる…いや、やや俺らの方が不利だ。
「セート、核を狙って!神の命はその核にあるの!!」
核?コア……えーと……
みんなの結界を信じて俺は目を閉じる。
王様……いや、敵の生命を感じる箇所……見つけた!
俺は目を開くと、すぐに感じた場所へ…敵の核を目掛ける魔力を歌で込めた。
少しずつ結界にヒビが入る。
まだだ、もう少し……集めて……
俺の頭の中にここだ、と思うぐらいに魔力が集まった!
俺達の結界が割れて、敵の攻撃が俺の頬を掠って傷付ける。
「いっけえええぇぇぇーーー!!」
俺が手の中に集めた魔力が一点に集中し、レーザー光線のようになって、敵の核を貫いた。
驚愕の顔をする敵。
パリンと……恐らく核が割れた音だろう、その音と同時にサラッと敵は砂のようになり、風に散った。




