エピローグ
戦いが終わり、
それぞれの帰る場所へ戻る時間が来た。
セートは一人一人を見送りながら、感謝を伝えていく。
ヴァルティアが、城に戻る前に足を止める。
「レティーシア……貴女には必ず恩返しをする。」
「ほ、本当にいいのよっ。恩だなんて…仲間だもの、当然よ!」
レティは恥ずかしがるような、慌てるような感じでヴァルティアに言い返した。
「必ず近日…。」
むしろ恩よりも、レティに会いたいだけなんじゃないかと思う。
ヴァルティアと別れると、キャスが居た祠に辿り着く。
「え、キャス、家に帰らないのか?」
「私はこのままここで、お祈りをしていきます。色々な奇跡に出会えましたから。皆様のお陰です、有難うございました。」
「こっちこそ有難う!キャスのお陰で助かったよ!」
「村に遊びに来てね!」
ミアとベルが元気にキャスに声を掛けた。
元気だなー、俺なんかクタクタだった。
エリンとベルの村に到着する。
エリンが魔族に操られ、村人を傷付けた事は、不問に処された。
世界を救ったのだから。
村についてすぐ、ベルが住んでた小屋に戻り、すぐ引き返して来る。
すると嬉しそうにお菓子をたくさん手にして、それを俺とレティにくれる。
「有難う。セート達が居なかったら、私達どうなってたかわからなかった!」
「ううん、貴女達には凄く助けられたわ。こちらこそ有難う。」
レティがベルに返事すると、村人に呼ばれてベルが、こちらに手を振ってから村中へと走って行った。
するとエリンが近付く。
ん?近い近い!
俺は少しだけ後ずさりする。
「いつでも遊びに来てね。お姉さんの身体が忘れられなかったら、いつでもいらっしゃい♡」
そういうとエリンは髪を掻き上げ、谷間を見せつけて来る。
「うわわ、結構です!」
慌てて俺はお断りした。
「そ、残念ね。気が変わったらいつでもいらっしゃい♡。エリンは身を翻し俺達に背を向けた。
「ん?」
手の甲に一滴ほど、水滴が付いた。
それがエリンの涙だったとは、俺が知る由もなかった。
「いやー、意外な旅になったね。」
ミアは身体を伸ばすようにしながら、しみじみとそう言った。
「本当にな。」
「有難う、二人共本当に有難う。」
レティが俺達に礼を言う。
「こっちこそ!レティーシアが居なかったら、この世界は滅んでたよ!」
俺もミアも首を横にブンブン振る。
「それじゃ、アタシ、戻るね。いつでも遊びに来てね♡」
元気にミアは帰ろうとして、不意に踵を返すと、俺の耳に囁いて来た。
「セート……」
「ん?」
ミアは少しだけ笑って、
でも頬は赤くて、声は震えていた。
「セート、好きだったよ」
「えっ……」
ミアはすぐに笑って、いつもの明るい声に戻る。
「冗談だよ!ほら、レティーシアが待ってるんだから!」
そう言って背中を押した。
俺とレティーシアが並んで歩き出すと、ミアはそっと目元を拭った。
「……冗談なんかじゃ……ないんだけどね……。」
その呟きを俺が知る事は無かった。
俺とレティは帰る場所が無い。
みんなは、自分たちの村や街に来ることを勧めてくれたが、俺達はもう少しだけ旅を続けて、俺とレティが落ち着ける場所があれば、そこに住もうと決めていた。
「あなたとなら……きっと幸せになれる。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥がじんわり熱くなる。
俺はレティの手を包み込み、まっすぐに、優しく微笑んだ。
「ああ、二人で『幸福』になろう。」
レティの瞳が揺れ、そのまま涙が一粒こぼれた。
でもそれは、悲しみでも不安でもなく――“未来を信じられた”証の涙だった。
俺はそっと親指でその涙を拭い、レティの額に自分の額を寄せる。
「レティ……これからは、帰る場所を一緒に作っていこう」
レティは微笑みながら、胸にそっと身を寄せて来た。
「……うん。あなたとなら……どこへでも行けるわ」
世界が静かに祝福するように風が吹き抜けた。
今、手を繋いだこの場所から――始まっていく。
そして時が巡り……。
村の庭で俺の子供二人が走り回ってる。
「転ばないようにな!」
俺は子供達に声を掛けると家に入り、椅子に座っているレティに近付いた。
レティは三人目の子を妊娠していた。
レティの大きいお腹に俺は耳を付けて胎動を聞く。
「ふふっ、そんなに待ち遠しいの?」
「当たり前だろ。また家族が増えるんだから。」
「10年ぶりの子だから、育児忘れてないといいんだけど…。」
「俺も手伝うんだから大丈夫だよ。」
俺はゆったりと家族の時間を過ごしていた。
その時庭から泣き声が聞こえて来た。
「やっぱり転んだか……。」
溜息を吐くと立ち上がる。
「私も行くわ。」
心配そうな表情を浮かべたレティが立ち上がる。
俺はすぐに手を差し出して、レティを支える。
すると泣き声が止まった。
どうしたのか気になって、顔を見合わせた俺達はすぐに外に出た。
心配そうに娘が見守っている先では、転んで怪我をした息子が治癒の魔法をかけて貰っているところだった。
俺は大きく目を見開いた。
その人物は、青みがかった銀髪に蒼い瞳の……。
「っ……!!」
その青年は、声にならない程しゃくりあげたレティを、そっと抱き締めた……。




