冥界の試練
冥界に着くと空気が変わった。
冷たくもなく、温かくもない。
音もないのに、どこか懐かしい。
「ここ……本当に冥界なの……?」
ミアが尋ねるが、そうとしか言われていないし、それを信じるしかない。
「氷が肌をなでているみたいね。」
「空気が……軽いような、重いような……」
エリンとベルの感想はこんな感じだ。
「魂だけが歩ける世界……そんな感じがします。」
「気を抜くな。ここは死が支配する場所だ。」
キャスとベルは他のみんなよりは、この場所の本質を表しているようだ。
俺は会話に加われなかった。
腕の中にはレティーシアはいない。
遺体は地上でウェルナートが守っている。
そう言えばここで何をすればいいか聞いてない。
その時――
「ようこそ、冥界へ♡」
軽い声。
悪戯っ子のような響き。
振り向くと、そこには、銀色の髪をボブにした、美しい男性が立っていた。
どことなくウェルナートに似てる気がした。
そして……金色の瞳。
金色は神の瞳だと聞いた。
この人も神なんだな。
「僕はエイリシュ。冥界神だよ。レティーシアの兄って言った方が早いかな?」
「えっ……兄……?」
「レティーシアに……兄……?」
「神族……ということは……」
キャスとヴァルティアはすぐに跪いた。
「冥界神エイリシュ様……!」
「うんうん、そんなに固くならなくていいよ。」
にこっと笑うその顔は、神というより“悪戯好きな少年”そのもの。
だが――
その瞳の奥には、
底知れない“死の雰囲気が宿っていた。
エ
イリシュはセートを見て、
ふっと表情を曇らせた。
「……レティ、死んじゃったんだね」
「……っ……!」
不意打ちのように言われた言葉に、再び喉が痛くなってくる。
どうにか泣くのをこらえた。
「簡潔に言うよ。」
俺達がエイリシュに注目すると、すぐに話を切り出す。
「レティ……レティーシアの魂はこの冥界にある。」
「なっ……!?」
「ここは魂の行きつく先ですから……。」
驚く俺にキャスが答えてくれる。
「レティーシアの魂は試練の間にあるんだ。だから君達で行ってくれない?」
エイリシュはどこか試すような表情をしている。
いや、そんなの関係ない!
「レティーシアは戻るんですよね?」
「さあ、君達次第じゃない?」
「っ……!」
どこか軽い言い返しに、思わず怒鳴りそうになるが、堪えた。
「それじゃ、試練の間に送るよ。」
エイリシュのその言葉の直後、全員が別な場所に転移した。
side:ミア:紅蓮の間
ミアは一人赤い間に入る。
すると赤い炎が巻き上がり、その姿はミアを形どる。
「あ、アタシ!?」
どういうことかわからない。
ひとまずミアは変身する。
「紅き炎よ、拳に宿れ!」
ミアの歌声に呼応して炎が立ち上がり、身体を包む。
普段着が炎の光にほどけ、全身が赤い光に包まれる。
炎の粒子が集まり、ショートジャケットと炎スカートが編まれるように形成。
足元に炎が集まり、赤×金のブーツが装着される
髪が炎の風に揺れ、三つ編みから、高い位置のポニーテールに結い直される。
頭上に赤い光の輪が浮かび、最後にガントレットを装着して、変身完了。
するとミアの影はミアを火の魔法で攻撃して来る。
同じタイミングで攻撃してくるため、なかなか攻撃が通らない。
ミアは頬を拳に纏わせ、身体強化する。
その時ミアの偽物の口が開く。
「貴女、セートが好きなんでしょ。残念ね、セートはレティーシアが好きなんだよ。」
ミアは心がズキズキする。
言い当てられた……。
泣きそうになる。
でも……。
「アタシは、レティーシアが好きなセートが好きなんだ!」
強く思うと、ミアの偽物は消えた。
ミアの掌の中に赤く輝く「レティーシアの赤い勇気の魂」を手に入れた……。
一筋の「失恋の涙」を流しながら……。
side:エリン:氷結の間
エリンも青い間に入る。
すると青い氷の竜巻が巻き上がり、その姿はエリンを形どる。
「私…?」
どういうことかわからない。
ひとまずエリンは変身する。
「青き水よ、私に流れ込め!」
エリンの歌声に呼応して、水が立ち上がり身体を包む。
服が水の光にほどけ、全身が青い光に包まれる。
水の粒子が集まり、ショートジャケットとスリットスカートが編まれるように形成。
足元に水流が集まり、青×銀のロングブーツが装着される。
髪が水の風に揺れ、透明な水滴のイヤリングが耳を飾る。
青い天使の輪が頭上に浮かび上がって、変身完了。
エリンの偽物は水魔法をエリンに放つ。
エリンは即座に氷でその水を凍らせて落とす。
同じ人間だから勝負なんてつくわけがない。
その時偽のエリンが口を開く。
「セートは貴女なんか好きになるわけが無い。操られて村人に暴力を奮った弱き女。外見だけで何が出来るの?」
厳しい言葉。
だが確かに当たってる。
でも……。
「確かに私は弱いわ。だからこそその罪を胸に、私は強くなる!それに、外見は力!
そう言った瞬間、偽物は消えた。
「レティーシア…待っててね。」
そう言いながら「レティーシアの青い清き魂」を掌に握り、涙が渇くのを待った。
side:ベル:旋風の間
「緑の優しさの魂」」**
風の妖精の気配もない。
「ここは何?」
答える者は誰も居ない……と思っていた。
が、紡風が起き、そこにベルが現れた。
偽物のベル。
ベルは咄嗟に変身する。
「緑の風よ、そよいで力に!」
ベルの歌声に呼応して、風の粒子が集まり、全身が緑の光に包まれる。
黄緑×白のショートジャケットが纏わりつくように形成。
ショートジャケットと黄緑のフレアスカートが編まれるように形成。
足元に風が渦巻き、白×黄緑のブーツが装着される。
髪が風に揺れ、風のリボンがふわりとツインテールに結ばれる。
緑色の天使の輪が浮かび上がって、変身完了。
偽物のベルが本物のベルにつむじ風を放つ。
同じようにベルもつむじ風を放つが、力は同じ。
本人同士だ。
その時偽物のベルが口を開く。
「役立たず。あんたはいつも食べてるだけ。攻撃でも防御でもセートとレティーシアに劣るし。」
「そ、それでも、私は速いんだから!」
「速くても攻撃も防御も弱いなら意味が無いじゃない。」
影が向けてくる言葉は実際ベルが思っていることだった。
「でも私はレティーシアを救うの!例え微力だったとしても!」
ベルが言うと、偽物のベルは消え去った。
私は……役立たずかなぁ……。
ポタポタと涙を落としながら、「レティーシアの緑の優しさの魂」を拳に確かに感じていた。
side:キャス:大地の間
そこに足を踏み入れると、土のにおいがする。
「こんな所に……土?大地の力は感じないのに…。」
不安を覚えてキャスは変身する。
「大地の神よ、守りの力を!」
キャスの歌声に呼応して、砂粒が舞い上がり身体を包む。
普段着が砂の光にほどけ、全身が茶色の光に包まれる。
砂粒の光が集まり、巫女風トップスとオーバースカートが編まれるように形成。
足元に大地の力が集まり、茶×金のロングブーツが装着される。
砂粒の光が髪を包み長い髪が自然に三つ編みに編まれ、金色の土の紋章飾りが結び目に浮かぶ。
最後に茶色の天使の輪が頭上に浮かんで、変身完了
その時、地面が盛り上がる。
キャスは結界を張って防ぐ。
偽物のキャスだった。
偽物は口を開く。
「あなたは自分に役割も無いから、仲間に疎まれているのに気付いてますか?。」
キャスは確かにお荷物かもしれない。
攻撃魔法も防御も治癒も、全てレティーシアに劣っていた。
自分だけ強いものが無い。
それでも……。
「確かに私はみんなのお荷物です。でも、レティーシアが助かるのなら、微力でも私は私に出来る事をします!」
そう言った瞬間、キャスの偽物は消えた。
キャスは三つ編みをかき上げながら「ミッションコンプリートです。」と言うと、拳の中に「レティーシアの茶色の治癒の魂」を手に入れた。
:sideヴァルティア:暗黒の間。
ヴァルティアは心地よい闇の部屋に足を踏み入れた。
「……試練か……。」
つまらそうに周囲を見渡すと、闇の槍がヴァルティアを襲う。
それを叩き落としてそちらを見る。
偽物のヴァルティアがそこに居た。
ヴァルティアの偽物が口を開こうとした瞬間にヴァルティアは闇弾を撃って偽物を破壊した。
会話が隙になっていたからだ。
「私が信じるのは闇神のみ。」
信じる心が強いヴァルティアは、他の力を信じなかった。
レティーシアの「黒き魔力の魂」を手にさっさと戻った。
side:セート:黄金の間
白い部屋に入ると、椅子に腰掛けて足をぶらぶらさせている少女が居る。
その姿は間違いなくレティーシアだ。
「……っ!レティーシア!」
「セート…。来てくれたのね。」
「そ、そりゃ、レティーシアを生き返らせるためなら……!」
「私を殺したから?」
「っ……!」
確かにそうだ。
殺したのは俺だ。
言葉に詰まって涙が出て来る。
「泣かないでセート。殺したのは貴方なんだから。」
苦しい…もう駄目だ……。
「俺は辛さに勝てず、その場に力無く崩れ落ちる。
レティーシアは俺に近付き、俺の頭を撫でる。
俺はレティーシアを見上げる。
「さようならセート。貴方も死んで!」
その瞬間俺はレティーシアの偽物を白き魔法で消していた。
「俺が好きになったレティーシアは…言わないんだ……そんなことを……。」
白い愛の魂を握り締めてみんなの元へ戻る。
試練を終えたみんなが集まると、エイリシュは元の場所へと転移させてくれた。
「レティーシアを頼むよ。」
冥界が視界から消える直前、兄としての言葉が聞こえた。




