レティーシアの死
side:レティーシア
何もない白い部屋。
椅子がひとつ。
光も影もない。
私はあの男――他の星から来た星の王、そう名乗った――に連れられてここに来た。
特に拘束も無いけど、脱出は無理そう。
膝の上で手を握りしめていた。
「……みんな、大丈夫かな。」
胸が締めつけられる。
さらわれる時、一瞬見えたセートの顔……思い出すだけで泣きそうになる。
「さらわれて……心配かけてごめんね……。」
セート……
気づけば、口が動いていた。
赤子の頃に母が歌ってくれた、あの子守歌。
セートと一緒に歌った歌。
優しくて、温かくて、胸の奥の“光”を揺らす歌。
歌が響いた瞬間、私の身体から淡い光が漏れ出した。
空間が歪み、王が現れた。
「……不快。なのに……心の蔵が……熱い……理解不能。だが……もう一度……“歌”とやらを……発して見せよ」
命令ではない。
求めている声だった。
迷いながらも、再び歌う。
その瞬間、王の瞳に、色が灯った。
「……これは……これが…感情……?」
震える声で王は動揺している。
初めての“心”に触れた存在の声。
「これが…歌……。」
私の歌は母神と繋がる歌。
今は天との道は閉じているけど、母と繋がっているのがわかる。
「歌に…神性……。温かい……。」
王は初めて感情というものを知った。
side:セート
みんなの居た場所に、レティーシアを連れて男――王は現れた。
「レティーシア!!」
みんなの前に現れた王へ、魔法を使おうとした。
「待ってセート!この人に悪意は無いわ!彼は私をサンプルとして欲しくて連れ去ったの。彼は感情が無かったから、私を連れて行くことが悪い事だと思っていなかったの。…でも、もうわかってくれたから、今こうしてみんなの所に私を連れ戻ってくれたの。」
王はゆっくりと立ち上がり、名を名乗ろうとした。
「済まなかった……我が名は――」
その瞬間。
空間が裂けた。
王の背後から、黒い槍が突き出た。
反応する間もなく、王の身体は串刺しにされた。
「……あ……」
声にならない声を漏らし、
王はさらりと崩れ落ち、消えた。
俺達は構え直すが――速い!速すぎる!
変身する暇もない。
素早さが高いベルだけが反応できて風の結界を張る。
ただベルの結界はレティーシアやキャスと違って自分しか守れないので、俺達を護るようにみんなの前に出る。
次の瞬間、槍が俺の方に向かっていた。
ベルの結界範囲外に、俺が反応出来ない速さで。
その時誰かに体当たりされて俺は倒れ、レティーシアが俺ごと倒れ込んだ。
レティーシアの身体は槍に貫かれていた。
「セート……無事……に……。(口から血を流しながら苦しそうな笑顔でそれだけ言うと、俺の上で流血を増やして、そのまま鼓動を止めた……。
一瞬俺の中に温かい何かが流れ込んだが、今はそれどころじゃない。
「レティーシア!嘘だろ……目を開けてくれ!」
きっと敵の攻撃が速過ぎて、結界を張る余裕が無かった。
俺を身を張って守ってくれた……。
みんなもレティーシアに駆け寄りたいのを我慢して、敵に対処してくれてる。
「れ……レティーシアぁぁ!!」
腕の中のレティーシアは、もう温かいのに反応しない。
揺すっても、叫んでも、返事はない。
その事実が、胸の奥を焼き切るように痛かった。
でも容赦なく敵が迫っている。
仲間たちの声が飛ぶ。
「セート無理だよ、もう!」
ミアの悲痛な声が聞こえた。
世界の音が全部遠ざかっていく。
ベルの結界が砕ける音だけが、やけに鮮明だった。
(ああ……俺は死ぬんだな)
不思議と怖くなかった。
むしろ――
(それでいい。レティーシアの元に……逝ける)
そう思った瞬間だった。
空が裂けた。
赤い空を、黒い闇が切り裂いた。
その闇は渦を巻き、世界の色を奪い、青空を取り戻す。
次の瞬間――青い光へと変わって落ちてきた。
地上に触れた瞬間、青い光は爆ぜるように広がり、敵を一掃した。
俺達が全く敵わなかった敵の集団を、あまりにもあっさりと。
光が収まると、そこに一人の男が立っていた。
青みがかった銀髪、深い青の瞳。
人間離れした静けさと威圧感。
その男は、レティーシアの身体をそっと抱き起こした。
「……誰だ、お前……?」
声が震えた。
俺達より恐ろしく強いのがわかったから。
男は静かに名乗った。
「俺はウェルナート…と名乗っておく。今はそれどころじゃない。レティ……レティーシアを救う気はあるか?」
男――ウェルナートは、多くを語らず尋ねくて来る。
確かに俺も自己紹介とか出来る余裕は無かった。
「救い……たい。」
泣き声でそれしか発する事は出来なかった。
「ど、どうやって!?」
「まずはお前たちを冥界に送る。」
ミアの言葉に答えるように返事をするウェルナート。
互いに多くは聞かない喋らない。
まずはレティーシアを助けるのが優先だから。
「一緒には行かないんですか?」
「…俺はここでレティーシアの遺体を保存する魔法をかけ続ける、動かすわけにはいかないからな。」
それだけ言うとウェルナートは道を開く。
多分冥界への入口を。
「…ウェルナートさん、レティーシアを頼みます。」
この男が誰であれ、俺達が敵わない敵を一掃する強さ。
レティーシアを助ける事に協力してくれるのは確かだ。
この男が誰かはわからないけど、安心してレティーシアを預けて大丈夫だと、心の中で感じていたから。
俺達は冥界に向かった。




