襲い来る影
服屋を出て、みんなで笑いながら通りを歩いていた。
ミアはまだ赤いワンピースの話をしていて、ベルは買い食いの残りを頬張っている。
レティーシアは、さっきの白いワンピースのことを思い出しているのか、どこか照れたように視線を落としていた。
その横顔を見るだけで、胸が少し熱くなる。
――その時だった。
風が止んだ。
街のざわめきが、ふっと薄くなる。
「……あれ?」
誰かの声が聞こえた。
見上げると、空の端が赤く染まり始めていた。
最初は夕焼けかと思った。
でも違う。
赤は広がり、滲み、空を塗りつぶすように変色していく。
街の人たちも足を止め、次々と空を見上げた。
「な、なんだ……?」
「赤い……空が……」
「不吉だ……!」
ざわめきが恐怖に変わる。
胸がざわついた。
嫌な気配が、肌を刺すように広がっていく。
「みんな、下がれ!」
気づけば俺は剣を抜いていた。
隣でレティーシアが息を呑む。
「セート……来るわ」
彼女の光が揺れ、次の瞬間――
レティーシアは両手を胸の前で組み、結界を展開した。
黄金の光の膜が街を包み込むように広がっていく。
「ミア、エリン、ベル、キャス、ヴァルティア!街の人を避難させろ!」
俺が叫ぶと、みんな一斉に動き出した。
「こっちです!走って!」
「落ち着いて!押さないで!」
「ベル、そっちの子供たちを頼む!」
「任せてっ!」
仲間たちが街の人々を誘導していく。
その間にも、空の赤は濃くなり、
まるで裂け目のような黒い線が走った。
レティーシアの結界が光を強める。
「セート……何かが来る……!」、
仲間たちが避難誘導を終えて戻ってくる。
「セート!歌うよ!」
ミアが叫ぶ。
「結界、維持するわ……!」
レティーシアの声が震えている。
みんなが横一列に並び、息を合わせる。
この歌さえあれば、どんな敵にも立ち向かえた。
ずっとそうだった。
だから――
今回も、きっと。
「いくぞ!」
俺が合図を出す。
その時……。
「神性の干渉は許可しない。」
男の言葉と同時に、歌が――消えた。
声が出ているはずなのに、口が動いているのに…。
神性……?
レティーシアが小さく息を呑んだ。
「セート……恐らくあれは『言霊』による力。私も聞いたことしかないんだけど……」
「言霊……?」
日本で聞いたことがある単語だった。
けど、こっちの世界でも同じ意味なのか。
レティーシアは震える声で続ける。
「言葉そのものに力が宿るっていう、古い時代の魔法……。
歌魔法よりも、もっと根源的で……
男はただ立っているだけなのに、空気が重く、冷たく、まるで世界そのものが男の味方をしているような気分。
レティーシアが唇を噛む。
「歌は神の力だから……。」
神性ってそういう事か。
だから……言霊で『干渉禁止』って言われたら……私たちの歌は……全部、消される……」
そんな……
じゃあ、俺たちの力は……。
胸がざわつく。
嫌な汗が背中を伝う。
「セート……」
レティーシアが俺の袖を掴む。
その指先が震えていた。
「歌えないなら……私達、勝てない……」
その言葉が胸に刺さる。
男を睨みつけた。
「言霊……神性……そんなもん知らない。でも――。」
レティーシアの手をそっと握り返す。
「大丈夫、今までだってやって来れたんだから。」
俺は何だってやる」
レティーシアが俺の手を強く握り返す。
「セート……!」
俺は全力で手を伸ばした。
その時だった。
レティーシアの手の感触が無くなった。
気付いた時にはレティーシアは、男の腕の中に居た。
「「「「「「レティーシア!!」」」」」」
皆が叫んでいた。
「神性回収完了」
男はそう口にすると、レティーシアと共に消えた…。
レティーシアが消えた。
俺の目の前から。
膝が崩れ落ちる。
『守れなかった…!』と……。




