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恋愛・ヒューマンドラマ

アリス公爵令嬢の執事の独白〜愛が重すぎる王子の偽りの姿〜

作者: 二角ゆう

 はじめまして、私はアリス公爵令嬢の執事のジョセフと申します。名字もありますが、あまり意味はありません。なぜなら偽名だからです。


 先に申し上げますと、私はこの国の第1王子のジョン=ウェルスなのです。


 なぜこんなことをしているかと申しますと、私は転生者でこの世界に原作があり、お話の結末まで知っているからです。


 原作があるという事はお話が進むのに欠かせない事柄が起こるためのフラグというのがございます。


 このお話には第2王子のネイサンがアリス公爵令嬢と婚約を結ぶ直前にネイサンから一方的に破談をつきつけられ第1王子である私と結ばれるのです。


 大事なことなのでもう一度言いますね。


 アリス公爵令嬢は第1王子のジョンと結ばれるのです!


 まぁ、当たり前の筋書きだと想うのです。なぜなら私はアリスがこの世で1番大好きだからです。


 私は彼女との出会いからすべてのフラグを回収し、着々と距離を縮めているのです。


 それに飽き足らず、婚約前にもっと彼女に近づきたいと彼女の執事をやりたいと王様に申し出ました。もちろん王様は驚いた顔をしました。


 そのすぐ後に「何を馬鹿なことを言っているんだ」とでも言いそうな呆れた顔に変わりましたが、王子の外交、お茶会、狩り、交流会などのイベント参加などの責務を果たすことを約束しました。


 すると王様は「勝手にせい」と仰ってくださいました。まあ、それは私の意訳ですが。


 晴れて私は彼女の執事になったのです。そのことを知っているのは王様とアリスの父親である公爵だけなのです。



 ■



 いつも彼女の部屋を訪れると、正式な場と違いリラックスしていて軽口なんかも叩いてくれるのです。


 ある時、彼女の部屋を訪れるとドレスの試着をしているようでした。入っても構わないということなので入室しましたが、自分の瞳をカメラのごとくアリスの頭からつま先まで詳細を脳内に収めようとしました。


 金髪の髪に映えるような深紅の薔薇のごとく、曲線と柔らかさのバランスが良いドレス。高い身長を活かしたドレスは薔薇の咲き乱れる庭園のように贅沢なあしらいだ。そのすべての要素がアリスの美しさを強調している。


 うおぉぉ、アリス可愛いぃぃ! 今度あるダンスパーティーのドレスなのか? それは俺も参加するやつだな。


「アリスお嬢様、とても素敵ですね。深紅のドレスがよくお似合いです」

「そうかしら、ネイサン王子とジョン王子は気に入ってくれるかしら?」

「もちろんでございます。薔薇の妖精かと勘違いなされるでしょう」

「ふふっ、言い過ぎじゃないかしら」


 アリスは茶目っ気たっぷりな目をジョセフに向けてくる。


 はーい、俺はとっても気に入りました! そんなに気を使ってくれるなんてアリスは優しいなぁ。あぁ、もうすぐそんな会話にも王子として参加出来るのかあ。楽しみだなぁ。


 そうなのである。もうすぐネイサンとアリスは顔合わせをする。その後、縁談は雲行きが怪しくなり婚約破談になるのだ。



 その頃いい感じになっていたジョン王子は婚約破談を聞きつけて、傷ついているアリスをなんとか元気付けようとする。それがきっかけで、2人の距離は縮んでゆきそのまま婚約、そして結婚するのだ。


 俺はフラグ回収以外は積極的に行わなかった。もし猛アタックをかけてネイサンとの顔合わせに影響が出て、俺が当て馬になったら敵わない。着実に婚約破談というフラグを回収してからアリスとの婚約に臨みたいのだ。



 ■



 今日はネイサンとの顔合わせの日だった。帰って来たアリスにそれとなく聞いてみた。


「アリスお嬢様、お疲れ様でございます。顔合わせはいかがでしたか?」

「まあね⋯⋯普通かしら。会話もそこそこしたわ」

「そうでしたか」


 よしよし、これは原作通りだ。これでこのあと会うこともなく1ヶ月後、婚約破談になるのだ。アリス、もうちょっとだけ待っててくれよ!


「そうそう、次回の約束もしたわ」

「えっ?」



 ななな何? つつ次の約束なんて原作にはないぞ⋯⋯



 俺は心の中で子どものように手足をじたばたさせて暴れた。唇の端を引きつられながらも平然を装った。


「⋯⋯そそそうでしたか。お約束はいつでしょうか?」

「1週間後よ。王室植物園を見てまわる予定よ。その後お茶をして終わりなの」



 なんてことだ。



 原作と話が変わっているのだ⋯⋯心配だ、何か胸騒ぎがするぞ。もしこのままネイサンとの話が続けば、俺は出遅れてしまったことになる。



 ジョンは慌てて王室に帰ると5日後にアリスと会う約束を取り付けて貰うように手配した。ネイサンの2回目の顔合わせの前に会うことにしたのだ。食事をした後、庭園を散歩するという内容だ。


 アリスと会って食事もすんなり進んだ。会話も雰囲気も悪くなかったし、庭園に誘った時も笑顔を向けてくれた。そしてかなり緊張したが、また会いたいことを伝えた。


 その日はそれが終わると大急ぎで着替えて公爵家へと戻ってきた。すると馬車が玄関をついたようで、程なくしてアリスが帰ってきたようだった。


 アリスは疲れているようだった。食事をして湯あみをした後、着替えをして自室にいるようだった。俺は明日の予定を伝えるためにアリスの自室へ行った。するとちょうどお茶を飲んでいるようだった。


 それとなく今日のことを聞いてみた。


「うん、悪くはないと思うわ。ジョン王子も悪い人じゃなさそうだもの。ただ明後日はネイサン王子と会うでしょう? 予定が詰まって少し疲れてしまうわね」

「そうですよね! お気づきになりませんでした。このあとはゆっくりお休みください」


 そうだよなあぁぁ。俺は焦るあまりアリスの状況を無視して予定を隙間に詰め込んで、事を進めてしまった。アリス、ごめんな!


 まるで当事者のような口ぶりにアリスはきょとんとした目でジョセフを見たが、少しして笑い始めた。


「ふふっ、あなたが気にすることじゃないわ。でもありがとう」


 あああぁぁ、天使からの思し召し感謝いたします!!


 俺はアリスの部屋から出ると反省の意味も込めて、王城へ戻ると徹夜で仕事をした。


 そうそう、ここで言っておきたい。弟のネイサンは悪いやつじゃない。それどころか最愛の弟だ。ちゃんと話も聞けるやつだし、思慮深い。ただ俺がアリスを愛しているだけだ。アリスだけは諦めてほしいのだ。あれ⋯⋯そう思うと人格者のネイサンと俺だと分が悪いな。


 アリスはネイサンとの顔合わせも終わったようだ。また、探りを入れてみると初対面と同じような答えが返ってきた。


「次はダンスパーティーがあるからその後会いましょうって話になったわ」

「えっ?」


 ななな何? まままたネイサンと会うのか?


「あらジョセフ、あなた顔色が悪いけど大丈夫? もう自室で休んでいていいのよ」

「いいいえ⋯⋯あっはい、おお気遣いありがとうございます」


 ジョセフはそうそうに部屋から退出した。眉間を触りながら考え始めたのだ。なぜなら原作が早くも崩れてしまったのだ。ネイサンとの顔合わせは一度きりのはずだったのに、また約束しているようだ。


 向こうは縁談の話が出ている。端から見たら、ジョンの方が部外者だ。


 あああぁぁどうしよう⋯⋯。とにかくダンスパーティーで仲良くなるしかないな⋯⋯



 ■



 煌めくシャンデリアが天井から下がり、その下には春をよんできたような花が咲き乱れるように、色とりどりのドレスを来た令嬢がホールに溢れていた。


 ダンスパーティーでは前に見たドレスをアリスは着ていた。俺はアリスが入場するのが見えると椅子から立ち上がり急ぎ目に歩いていった。


 真っ先にアリスに会うとドレスを褒めた。本当はアリスのことを1時間ほど愛でたい⋯⋯褒めたかったくらいだ。


 ダンスは順調に進んだ。エスコートも上手くいったし、アリス自身も上手かった。ダンスが終わるとアリスはジョンに顔を向けてにこりとした。


 ああぁぁ可愛い。アリス、天使の微笑みをありがとう! あと100曲くらいアリスと踊っていたい⋯⋯


 ジョンは満足そうに王室の者が座る椅子へと戻っていった。すると事件が起こるのである。ネイサンがアリスにダンスを申し込んでいるのである。


 アリスは頷くと2人のダンスが始まった。


 ななな何が起こっているんだ⋯⋯


 俺は手に持っていたグラスを落としそうになった。俺はその場にいられなくなり、バルコニーへと向かった。途中に知らない令嬢に声をかけられダンスに誘われたが断った。その後別の令嬢にバルコニーへ誘われたが1人になりたいと断った。


 バルコニーへつくと俺は手すりに寄りかかり盛大なため息をついた。このあと婚約が破談になるまでに目ぼしいイベントはないのだ。知らない間に仲良くなっていくネイサンとアリス。


 こんなはずじゃなかったのに⋯⋯俺は当て馬なのか⋯⋯。うわぁ、どうしたらいいんだぁぁぁ!


 ジョンは悲しみに明け暮れて手すりに頭を打ち付けていた。



 ■



 俺はその日、王城へ帰ると徹夜で仕事をした。


 次の日も雑念を取り払うために王城に籠もって仕事をした。


 ジョンはアリスに合わせる顔がなかった。会ったらすべてを話してしまいそうだったからだ。その間にアリスはまたネイサンと会っていたようだ。ジョンは布団をかぶりながら仕事をしていた。


 しばらくすると珍しくネイサンが部屋へとやってきた。


「兄上、最近体調でも悪いのですか? 私に何か出来ることはありませんか?」


 あぁ、ネイサンはなんていいやつなんだ⋯⋯。何か出来ることなら、アリスに会わないでくれと思うが、そんな器の小さいことは言えない⋯⋯。


「お前は良いやつだな、さすが俺の最愛の弟だ。俺が令嬢なら真っ先にお前を選びたいくらい素晴らしいよ」

「兄上、そういうことは心に決めた令嬢に言ってくださいよ。でもありがとうございます」



「⋯⋯そうだ、アリス令嬢とのお茶会はどうだった?」

「⋯⋯順調に終わりました。ただ、最近執事が顔を出さないようで心配している様子でした」


 ジョンはそれを聞くと布団から飛び起きた。


「しし執事ってジョセフのことか?」

「兄上の知り合いですか?」


 ジョンはネイサンに握手をすると廊下を走りはじめた。向かう先はもちろんアリス令嬢のいる公爵邸だ。


 急いで馬車に乗ると公爵邸を目指した。馬車は公爵邸より少し手前に止まった。ジョンは不思議に思い執事に聞くと王城の馬車でジョンの姿だが、大丈夫かと聞かれた。ジョンは慌てて着替えるとそこから徒歩で公爵邸へ向かった。


 ジョセフになったジョンはアリスの部屋をノックする。すると途端に緊張してきた。少しすると侍女が部屋から顔を出した。侍女はジョセフだと分かると部屋の中へと通した。


 部屋の中にはアリスが座っていた。振り返ってジョセフを見ると立ち上がった。ジョセフはアリスに近づいて手をのばした。


 そして王子でないことを思い出すと手を引っ込めて頭を下げた。


「ジョセフ、体調は大丈夫なの? しばらく見なかったから心配しちゃったわ」

「申し訳ございません。もう体調は大丈夫です。お嬢様のお優しいお心遣い痛み入ります」


「本当に大丈夫なのね。もう、ちゃんとそばにいてくれなきゃだめじゃない」


 ジョセフは頭を勢いよくあげるとアリスはイタズラっぽく笑いかけてきた。


 ああぁぁぁ、可愛すぎて心が痛い⋯⋯俺こそずっとそばにいたい! 俺はこのままアリスの執事になろうかな? ⋯⋯かなり本気で思ったのだ。


「そういえば最近はネイサン王子とも仲良くされているそうですね。この先どうなさるおつもりなんですか?」


 アリスは意味ありげにジョセフを見てきた。


「私は⋯⋯どちらとも結婚したくないわ⋯⋯」


 ななな何? 原作のフフ、フラグはどこに行ったんだ?


「まぁ、どちらかといえばネイサン王子かしら?」



 ネネネネイサンだと? おお俺のフラグ折れてないか? 詰んでないかこれ⋯⋯?


 俺はクールな執事のジョセフを演じてきたが、そんな化けの皮は被っていられなかった。アリスに近づくと俺にとっては重要な事を聞いた。


「しっしかし、アリスお嬢様は王族と結婚するのでしょう。ネイサン王子はどこが気に入っているのですか?」

「いや、悪い人じゃないのよ。気に入ったから選んだわけじゃないの」


 ”気に入ったから選んだわけじゃないの”ってどういうことだ? 俺には可能性さえもないのか⋯⋯これじゃあ当て馬どころかモブだ⋯⋯


 ジョセフはがくっと肩を落とした。目の前が真っ暗だった。アリスが何言っている気がしたが、そのまま扉を開けて部屋から退出した。とぼとぼと重い足取りのまま玄関に向かう。そこでペンを忘れていることに気がついた。


 あのペンはアリスからもらった大事なペンだ。戻りたくないが取りに帰るか⋯⋯。


 ジョセフはアリスの部屋をノックしようとすると中から声が聞こえてくる。だめだと思いながら耳をそばだてた。


「⋯⋯お嬢様、大丈夫ですよ。きっと分かってくれると思いますよ」

「そうかしらでも王子じゃない人をお慕いしているなんて受け入れられないことじゃないかしら」


「私はアリスお嬢様を応援しています」

「ふふっ、ありがとう」


 まままま待て⋯⋯アリスは好きなやつがいるのか⋯⋯うううそだ⋯⋯えっ? ⋯⋯学校のやつか? どどどこのどいつだ、ひっ捕らえて拷問にかけてやる! いやいや、それはやりすぎか⋯⋯それなら、そいつにアリスがどんなに素晴らしいか俺が説法を10日間くらい説こうか⋯⋯えっうそだろ⋯⋯うそだよな⋯⋯ぐすん⋯⋯


 ジョセフはペンのことも忘れて走って出ていってしまった。それからの日々は地獄だった。アリスには、あの時の会話を聞くことも出来ない。しかも内偵に学校を探らせてみたが、それらしい人物がいないのだ。俺は王子としてちゃんと会う必要があると思いアリスにお茶会を申し込んだ。



 ■



 アリスは水色の可愛らしいドレスを着ていた。少し色味の違う薄い生地が重なりマーメイドさながらの可愛さがあった。


 今日も王城に来てくれたのだ。ジョンににこりと笑顔を向けてくる。はじめは茶葉の話や花の話をした。そしてジョンは話を斬り込んだ。


「アリス令嬢はどんな人が好みなのか?」


 アリスはそれを聞くと目を伏せた。言葉を選んでいるようだ。ジョンの心臓はうるさく鳴りはじめた。このままだとうるさすぎてアリスの言葉を聞き漏らすかもしれない。


 ジョンは肩を大きく張り両膝の上に乗せた拳を強く強く握りしめた。


「細かいことに気がつく人、飾らず私の目を真っ直ぐに見てくれる方です。いつも側にいてくれて、たまに冗談も言ってくれる⋯⋯そんな方がいいですわ」



 ぉおいいぃぃぃ! 今絶対に誰かを思い浮かべて話してたよな⋯⋯そ、そんなに四六時中アリスといる学校のやつは一体誰なんだよ⋯⋯


「⋯⋯俺じゃだめか⋯⋯?」

「えっ?」


 ジョンは思わず言葉を漏らしたのを、アリスに聞かせてしまった。一瞬、頭が真っ白になった。このあとは何を言ったのかよく覚えていない。


「いやっ、何かアリス令嬢の心のつかえをとる協力は出来ないか?」

「ふふっ⋯⋯本当ですか?」


 アリスはそこで話を切ってジョンを見た。ジョンが頷くと、いつものにこにこと可愛らしい姿から打って変わって真剣な顔を向けてきた。ジョンも正面から受け止めるしかない。


「それでしたら⋯⋯私の身分を没収して辺境の地へ送って下さいませんか?」


「えぇ、分かりまし⋯⋯辺境の地??」

「えぇ、そうですわ。辺境の地です。⋯⋯うん、王子のおかげで決心しましたわ! 私、お慕いしている方がおりますの。協力して下さいませ」


「えっ⋯⋯はい⋯⋯」



 なんでこうなってしまったのだろう⋯⋯



 ジョンはアリスと辺境の地へ行くための打合せの日取りを決めた。ジョンは元々真面目な性格であったため、身分没収の過去の事案、その人の末路、身分没収後の移動先などを調べた。


 そしてジョンは王子を辞めて本当のアリスの執事になろうかと思い、王様に相談した。すると王様は「前の倍くらい仕事をしているお前の仕事ぶりは大変よろしい」と評価したが、アリスの執事になることについては今度ばかりは直接「馬鹿者」と一喝された。


 ジョンはアリスに会った時に調べた情報をアリスに説明した。その旨の書類も渡した。するとアリスは満面の笑みをジョンに返してきた。


「ジョン王子、ありがとうございます。王子には心から感謝していますわ。これをもってお父さまにお話してみます」

「それは良かった⋯⋯」


 アリスが部屋を退出すると、ジョンは耐えきれずに手元にあったお茶を自分の頭からかけた。心配して駆け寄ってきた執事の胸を借りると、両手で顔を覆ってめそめそ泣いた。


 今日はこのあと公爵邸に行く予定だった。湯あみをして執事の格好に着替えると公爵邸へと向かった。玄関を開けると階段を登る。アリスの部屋は2階にあるのだ。


 ジョンは王様に何と言われようとアリスの本当の執事になる事を決意したのだった。


 2階に着くとアリスがどこかへ向かっているところに鉢合わせた。


「ジョセフ、良かった。あなたに話があるの」

「アリスお嬢様、私は辺境の地だってついていきます」

「本当? 嬉しいわ⋯⋯私、あなたのことが――」


「たとえどんな方を選んでいようと、私を執事として側において下さい!」

「えっ? ⋯⋯私が好きなのはあなたなのよ」

「えっ?」


 なななななー? いい今アリスはなんて言ったんだ? 俺? 俺って誰だ?


「ジョセフ⋯⋯わわわ私ですか?」

「あなたしかいないじゃない」


 俺かぁぁぁあ! フラグを引っ掻き回した張本人だったのかぁ。おのれぇ、俺ぇぇぇ!


 ジョセフは壁を頭でゴンゴンと叩き始めた。アリスは心配そうな目をしている。


「ジョセフ大丈夫? ⋯⋯私じゃ、だめかしら?」


 アリスは照れたような顔で下からジョセフを見つめてくる。


「だめじゃありません! 問題はそこではないのです。ただその前にお話することがあるのですが、聞いてくれますか?」


 ジョセフはアリスをアリスの部屋へと連れて行くと正面に座った。いつもなら口を大きく緩めるくらいだが、この時ばかりは自分が王子だと分かるとアリスから拒絶されるかもしれないと心中穏やかではなかった。


「あの⋯⋯王子じゃだめですか?」

「何を言ってるの? 私は⋯⋯あなたがいいの!」


 アリス⋯⋯可愛すぎやしないか⋯⋯ごふっあなたがいいのって⋯⋯もう一度聞きたい⋯⋯あっ、聞きたいと言えば⋯⋯


「そういえばネイサン王子といい感じだったんじゃないですか?」

「ちっ、違うのよ! ⋯⋯お慕いしている人がいるって打ち明けたら、自分とは契約結婚をして、その人と一緒になってもいいって言われたから、相談していたの⋯⋯」


 ⋯⋯と言うことは、ネイサンはアリスに協力してくれようとしていたんだな。ネイサン、我が愛する弟よ! 疑ってごめんなぁ、心から謝るぞおぉぉ! 帰ったら思いっきり抱擁させてくれぇぇ⋯⋯


 ジョセフは唾を喉を鳴らして飲み込むと、拳をぎゅっと握り決心をつけた。


 そしてジョセフは頭からそっとウィッグを取った。その姿はジョンに変わる。ジョンは緊張しすぎてアリスの目を見れなかった。そしてそのまま頭を下げた。


「騙してしまって本当にごめんなさい」

「⋯⋯あなたはジョン王子? ⋯⋯ジョセフのフリをしていたの?」


 自分がフラグを変えてしまったことは十分分かっていた。そのアリスの気持ちに対する嬉しさと申し訳無さがせめぎ合う。


「⋯⋯そうです。初めからジョセフという男はいなかったんです。少しでも君と一緒にいたい自分勝手な俺が執事をしていたんだ。罰ならいくらでも受ける。ただ君がそばにいてほしいんだ」

「⋯⋯ばかっ⋯⋯ばか、ばかっ⋯⋯もう⋯⋯こんなに悩ん出たのが馬鹿みたい」


 ジョンはアリスが混乱しているようで、心配になり顔を上げた。ジョンの目には愛らしく頬を上気させた少女のようなアリスの姿があった。アリスは両手で髪の毛を掴んでいる。そしてジョンに向けられた顔は怒っているような、目が潤んでいるような様々な感情が入り混じっているようだった。


 身分を捨ててまでジョセフの姿だが、自分と一緒になりたいと言ってくれた世界で一番愛しい人だ。どんな罰をつけようと、どんな形でもそばにいたい。


 それでもアリスを引き寄せる自分の手が止まらない。アリスを自分の腕の中に引き寄せる。自分の腕の中にすっぽり収まったアリスはぽつりと言葉を溢した。


「私はジョセフのことはよく知っています。でもジョン王子のことは知らないわ」

「これから知ってくれないか? 俺はアリスの綺麗な瞳もそれを飾る長いまつ毛も綺麗な色の唇も、煌めいている長い髪の毛も、繊細で柔い手もすべて好きだ。君の可愛らしい声で何度も名前を呼ばれたくて、君の魅力的な笑顔を何度も向けられたくて、君の目線の先にいるのが俺だったらどんなにいいだろうとずっと思ってきた。俺を知るのは少しずつでいい。ただ君が俺の隣にいてくれればそれでいいんだ」


 ジョンはアリスの顔を見つめる。


「⋯⋯やっぱりジョセフの時と変わらない情熱的な素敵な瞳をしているのね」

「あぁ可愛いアリス、俺と結婚してくれないか?」


「えぇ、でも婚約が先ですわ。それに私はジョン王子の事を知る必要がありますわね」


「もちろんだ。徹夜で仕事を終わらせてくれから明日会ってくれるか? いつもやってるからすぐに終わらせてくるさ」

「まぁ王子そんなことしていたんですか? 今日は隣であなたの仕事ぶりを見ていたいわ」

「もちろんだよ。アリス、大好きだ!!」




 俺はアリスが離してと言うまでずっと抱きしめ続けた。

愛の力で仕事が捗りまくるジョンですね!


すみません、誤字直しました!


お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字がありましたら、ご連絡よろしくお願いします!

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