年収の壁引き上げの3党合意に「不満」のこれだけの理由
◇今回の「3党合意」の内容
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は自民、公明、国民民主の「3党合意」について個人的な不満点を述べていこうと思います。
質問者:
「3党合意」と聞くと、つい2012年にあった「消費増税の3党合意」について思い出してしまうのですが――今回は減税に関する合意と言うことで良いんですよね?
筆者:
僕も一瞬ヒヤッとしたのですが、今回は減税の合意という事で大丈夫です(笑)。
自民党、公明党、国民民主党の3党で合意した内容と言うのは、
・「年収103万円の壁」は2025年から「178万円」まで引き上げる。
・ガソリンの旧暫定税率は廃止。
・特定扶養控除の年収要件の引き上げ(額は130万又は150万円と不透明)。
と、以上の3つです。
質問者:
あの減税をしない政府が3つも事実上認めるだなんて、国民民主党は大きな仕事をしましたね……。
このお話のどこに不満点があるんですか?
筆者:
確かに「合意した内容」を見れば成果を出したように思えます。
30年間動かせなかった「103万円の壁」を動かしたことは凄いことだと思います。特に控除の引き上げは「実質的な恒久減税」でもありますからね。
旧暫定税率についても1リットル当たりガソリンの25.1円と軽油の17.1円の減税となります。(いわゆる“トリガー条項”の部分)
特定扶養控除の年収要件の引き上げをすることは学生の皆さんにとってはそこまで働けるラインが上がる(これを上げないとご両親の控除などにマイナスになる)ために非常に有用です。
これらの実質減税は今後の消費減税などに向けての「蟻の一穴」になる可能性もあります。
しかしながら、「合意できなかった内容」に非常に不満と懸念点があるという事です。
◇今回の合意の懸念点は5点ある
質問者:
そんなに深刻な穴があるんでしょうか?
合意した約束が財務省などの影響で履行されないことでしょうか?
筆者:
意外と約束は守ると思いますよ。
ですが僕としては履行はされるものの“骨抜き“になることを恐れています。
まず1点目としては「財源」についてです。
今回話題になった3つとも「とうの昔に」見直されなくてはいけないお話でした。
年収の壁や特定扶養の要件については30年ほど変わっていませんし、
時代に完全に取り残されていました。(他の欧米の国では170万円ぐらいの控除の水準が当たり前になっています)
旧暫定税率については、1970年代にあった道路整備計画のための財源で、2009年には廃止になりました。そのために名前が「旧」暫定税率となっているわけです。
これらは「日本国民に理不尽にも長年不利益をもたらしていた」とも言え、真水国債(返済不要の国債)で賄っても問題ないと思うのです。
質問者:
確かに、いつまでも政治の失態によって変わることができなかったり、根拠が乏しいまま残っている暫定税率を廃止することについて「財源」とか言われても困りますものね……。
「幅広く負担」とかだと無意味になりますし……。
筆者:
本当にそうですよね。
2点目は、壁の引き上げにつきましても「103万に決まった」時代の最低賃金を基準として1.7倍引き上げたまでは良いと思うのですが、今後もその基準を使って「変動制」にしていくべきだと思うんです。
例えば最低賃金が年度末時点を起算として自動的に引き上がるシステムです。
全国最低賃金1500円になったのなら、「壁」を250万に自動的に引き上がることなどが出来れば、毎回壁引き上げの議論に不毛な時間をかけずに済みます。
質問者:
確かに、この議論に毎回時間を浪費するのは生産性が無いですよね……。
筆者さんは「序の口」とまで言われる程度の改革に過ぎませんし……。
筆者:
消費減税や社会保険料減免が「本丸」であり、今回のは「城外戦」レベルですよ。
3点目は、「178万円に引き上げ」に住民税が含まれるかどうかも言及がありません。
各紙報道では地方財政の補填のために「所得税の壁のみ引き上げ」の可能性も報じており、「住民税の壁の引き上げ動向」についてしっかりと明記して欲しかったというのがあります。
質問者:
確か、住民税の引き上げを行わないと低所得者への恩恵が薄いというお話でしたね……。
減税予算が半分になったのに低所得者の減税効果が3分の1になるそうで……。
筆者:
「住民税の壁」も同時に引き上げて無力化はされないで欲しいですね。
4点目はガソリンの暫定税率は「ガソリン補助金とトレードオフ」になる可能性があるという事です。
現状ガソリン補助金によって175円になっていますが、この冬から随時減らされて行きます。
そのために、補助金が終わりと同時に暫定税率を廃止することで「減税してやった感」を出すことも可能だと言うことです。
質問者:
実際はとうの昔に無くなっても不思議ではない税金なのに、その扱いはちょっとおかしいですよね。その上「財源」を言い出すんですから……。
筆者:
旧暫定税率を廃止したとしてもガソリン代については結果として今の状況から変わらないというオチが待っていそうです。
最後の5点目は壁が「いつどれだけ」引き上がるのか? 旧暫定税率がいつ廃止されるのか? が全く不透明だという事です。
現在、不倫問題で役職停止処分を受けている玉木氏は、「2024年末に178万円で適用したい」と息巻いていましたが、今回の合意ではいつの間にか「2025年から」に変わっており、それも「一気に引き上げる」とは書いてありません。
現状のままだと凄い極端な話ではありますが、
「2025年から毎年1万円ずつ壁を引き上げて75年後に達成」
などと言うふざけた言い逃れが「合意の解釈」で可能だという事です。
質問者:
しっかり明記しておかないと何とでも解釈が可能だという事なわけなんですね……。
筆者:
特に自民党と財務省の皆さんは狐と狸の化かし合いみたいな詭弁がお得意ですからね。
例えば、政治資金規正法の解釈を自分の都合の良いように捻じ曲げて「法律に則ってやっている」とか「社会保障費は税金ではない」などと平気な顔をして述べてくるような人たちです。
このように、「書いていないことについて」でいくらでも自分に有利なことは「拡大解釈」、自分に不利なことは「最小限の解釈」をしてしまうのです。
質問者:
確かにこれまでの傾向からするとそんな解釈もあり得ますよね……。
筆者:
僕としては国民民主党は「このレベルで合意して欲しくなかった」というのが正直なところです。
煮詰めて言い逃れが出来ない文言での合意が望ましかったですね。
国民民主党としては結局はほとんど何も変わらない酷い有様になっても「自民党に裏切られた!」と騒ぎ、「成果を強調」するだけで終わりかねないのです。
その時、国民としては「合意の時点でヤバかっただろ」と指摘する必要があります。
国民民主党は他の増税一辺倒の政党よりは頑張っているとは思いますが、
言説が変化しないかどうか「減税の状況」も含めてこの点は注視した方が良いと思いますね。
◇「野党の見せ場」を失い補正予算が衆院通過
質問者:
確かにしっかりお話を聞くと、この合意が「全然ダメ」という事が分かってしまいますね……。
空手形を与えてもらったみたいなそんな感じです……。
最悪は“骨抜き減税”で「財源」だけ要求されそうです……。
更にこの空手形で国民民主党は補正予算まで賛成して、衆院通過したみたいですね……。
※空手形とは実際に商取引が行われていなかったというのに相互に振り出されていたという手形。
社会においては、政治家などといった要人による公約が、有言実行されていない事を空手形と言うことがあります。
筆者:
報道では「28年ぶりに野党の求めで予算修正」とまるで凄い事のように書いてありますが、自民党案と比べて能登半島の被災地復興関連予算を1000億円増額しただけのようです。
確かに復興予算を増やすことは大事だとは思いますが、他の法案と違って予算は「衆議院の優越」で衆議院の意見が尊重されるので、自民党が比較第一党とは言え、もうちょっと野党は粘って欲しかったですね。
元の求めているレベルが僕からすると低過ぎます。
もっとその党ごとの「特色のある主張」を要求して自公に妥協点を探らせるぐらいしないといけなかったと思います。
「いつも通りの日程」で補正予算を通すようじゃお話になりません。
質問者:
確かに、自公過半数割れで衆議院の予算と言う見せ所なのに、野党の見せ場があまりにも無さすぎですよね……。
筆者:
こんなことは言いたくないですけど、与野党の「とんだ茶番のプロレス」を見せられたような気分ですよ。
与野党ともに「国民目線の政策を行う」と言うより、「国民にしょうもない実績をなるべく大きく見せる」ことに終始しているような気がします。
これはマスコミの報道の仕方にも問題があり、上記のような課題点について全然分析してくれていません。
質問者:
これだから筆者さんに「既存政党は全て駄目だ」と言われてしまうわけですか……。
筆者:
これも選挙にお金がかかりすぎるために「上級国民」しか当選できないためですね。
国民目線の政治家が大多数になるまで、国民側がしっかりと手綱を握り締めなくてはいけないと思いますね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は、
・自公国の3党合意は5点ほど問題があることから「骨抜き減税」になってしまう可能性が高いこと。
・「見せ所であるはずの予算」をあっさりと通過させてしまったこと。
をお伝えしました。今後も政治と経済について個人的な意見を述べていこうと思いますのでどうぞご覧ください。