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ひんやり盆栽

作者: 天野水樹

20年モノの作品をどうぞ

 最近家を新築したと聞いて、ひさしぶりに友人を訪ねた。

 暑い夏の日、ふうふぅ言いながら長い坂を上った頂上に、青い空をバックにして古い洋館調の建物があった。


 少し痩せたように見える友人に案内された居間にはひんやりとした空気が漂っている。

 庭に面した広い窓から強い日差しが差し込んでいるのにこのひんやり感。夏の暑さにまいりぎみな所にとってもありがたい。

 うちの旦那の給料じゃ、夜寝るときにクーラーを入れるのが精一杯だもの。


「冷房の効いた部屋で一日過ごせるなんて贅沢~。電気代を気にしないでいいなんて、お金持ちと結婚しただけあるわよね」


 お土産を渡しながらちょっと嫌味まじりに言う。


「いえいえ~、別にクーラーは入れてないわよ~」


 どこか間の抜けたしゃべり方は相変わらず。結婚式の時にあったお相手も同じように変な人だったので「お似合いの夫婦」なのだと思う。


「そうなの。じゃぁなんでこんなに涼しいの?」


「それはね~、これのおかげなんだって」


 と、友人は答えて居間のすみっこにおいてある盆栽を指差した。

 ものの善し悪しはよくわからないけれど、黒い鉢に小さな枝垂れ柳が植わっている。

 風のない部屋の中で、なぜだか枝がさらさらと揺れている。言われて見ればなんとなくそこから冷気が漂っているような感じだ。


「エコロジーとか緑化とかの効果なのかな?」


「う~ん、かずちゃんが言うにはこの鉢を作った人の幽霊さんが憑いているんだって」


「幽霊?」


「うん。幽霊さん」


 おもたせのケーキを皿に載せながらの返答。


「夜はライト代わりにもなって便利よ」


 平然とした顔でお茶を飲む友人。


「他の部屋にも別の盆栽があるのよ。桜の下に死体が埋まってたのとか、採るときに人が転落したのとか、丹精込めすぎて食うや食わずで死んだ人のとか。あたし霊感ないからよくわかんないけど、涼しいからいいかな~って」


 友人越しに枝垂れ柳の盆栽が見える。その枝の下に作務衣姿の小さなおじいちゃんが見えるのは気のせいか。


 見ないで。こっちを見ないで。

 ……確かに涼しいんだけどさ。


    ─了─


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