光について
「猫も一緒に住んでるんだ」
初めての電話で最初に聞こえたのは猫の鳴き声だった。
「猫となら言葉が無くても分かりあえるから」
言い訳みたいな声。
「言葉を大事にするあなたが、そんなこと言うんだ」
「言葉なんて。無いほうがいいよ」
あなたの言葉が好きだった。
幾千幾万の砂粒の中、顔も知らないあなたの光に目を灼かれた。
にゃあ。猫が割り込んで返事をする。
「月が見えるでしょう。きっと二人とも日本に住んでるから」
夏の青さの真ん中に、
「確かにあった」
輝くよりだいぶ前の月。
「二人で同じ光を見る。きれいだねって二人で感じる。ほら、」
「距離なんてゼロ、誰よりも隣どうし」
どうして言っちゃうの。
あなたは笑う。
「多分誰も気づいてないよ、光がここにあるって」
だからきっとありがとう。
二人で月を見る。
青い空、赤い空、黄金色の空。
時々思い出したようにあなたは歌う。僕は歌う。猫は歌う。
体温も身体も言語もない、
ここにはあなたの光だけがある。
「二人同じ世界を見たい。違うことを考えながら、ただ綺麗だねって」
例えば僕らが猫と人ならそれで十分なのに。
「月が、」
「きれいですね」
言葉だけが重なり合って夜に溶ける。
本当にそれ以外、何もいらないのに。