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トホホデート

 サイズが同じくらいの犬とイルカがオレにケツを向けて去って行く……。犬の方が腹這いのイルカに歩幅を合わせやり、イルカは汗を流しながら必死に犬の速度に付いていこうとする。べたついた夕方に目撃した平和な光景そのものだった。道に立ち並ぶ電柱の腹に巻かれたブラックイエローの警告縞が今にもはがれかかっている。ゴム製品特有のカスみたいな汚れが模様に蝿をたからせている。オレは道路に腹をつけて横たわっていた。まともな考えがいっさい浮かばなくなる、顔の横半分をぶ厚い壁に押しつぶされているみたいなあの感覚にも慣れてきた年ごろだった。朝から今の西日まで日の光を浴び続け熱された道路に頬ずりをすると垢みたいな毛糸が剥がれてきた。熱の交換による物質の状態変化。あるいは毛糸みたいな垢なのか、オレには判別がつかなかった。妄想の壁に押しつぶされていた。イルカも犬もまだケツを振って歩いている。早くどこかへ行って欲しかったが遠近感、やつらのサイズがいつまでも萎んでいかない。いつまでもリンゴサイズのままそこでケツを振っている。あの二匹はぬいぐるみか。ぬいぐるみだったとして、ひとりでに動いていることは見過ごせと言うのか。一体誰が言った?


 質問すれば必ず答えが返ってくる環境で育ったんだなアイツは。恵まれた環境の中暮らした過去は何かと批判の対象になるのだった。というか貧乏だったことを、意味ある経験としたいのが世の常なのだった。だから決まって偉人伝の奴らは貧乏な家の出だった。キュリー夫人を除けばみんな金にも食うのにも困っていた。挿絵付きで困っていた。最近では漫画のコマ割りでワンシーンごとに困っていた。黒い壁に空いた穴から顔を出してトホホなんて言って終わる時代のリバイバルだ。あえての選択肢を取りまくることで、優位性を感じている奴らの、快楽でしまらなくなった口から垂れたよだれが川の流れのようだった。すでにアヤメやナマズが住んでいる。塩焼きになるためにそこを泳いで、水面ごしにこっちを見据えウィンクしてくる。すると奴ら川魚にもマツゲが生えてくる。エクステの甲斐あってだ。市に黙って外来種を放ってやると奴ら途端に大人しくなりやがる。外来種はやっぱりデカいから運んでくるのも一苦労だ。腕で汗をぬぐう。休む暇もなく田舎のトラックをヒッチハイクする。今日はデートの日だった。あくまで自然体が重要視される。気張り過ぎないよう気張って行くんだ。乗せてくれたトラックのおじさんの横顔が新幹線みたいでかっこよくて、見惚れているうちに待ち合わせ場所についていた。トラックを降りてからトラックが行ってしまうまで、おじさんの方ばかり見ていた君はオレとのデートをすっぽかしてそのまま家に帰ってしまった。目的地についてお互い顔を合わせてからでもドタキャンはできるということを、完全にオレは見落としていた。僕の落ち度は会ってすぐ彼女に声をかけなかったことだ。画面を叩いてかけまくるが、もはや連絡もつかない。一体これからどうすればいい? 一旦落ち着くためにコーヒーでも? いやもうダメだ。ああ僕は大切な人を失ってしまったんだ。この悲しみから目を逸らすことはできないだろう。黙って悲しみを見つめ続ける。眩しすぎる西日が沈み行くその寸前、空全体が暗転し光だった太陽は闇に空いた穴となり、その奥から知らない誰かが顔を出して冴えないセリフを口にしようとした瞬間、夜になった。

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