ヒーローたちの夏休み!
不動は地球を思い浮かべ集中力を高めて瞬間移動を試みるがその場から移動できずにいた。
空間を殴ってみても亀裂が走ることもない。彼は凶悪な面構えで歯噛みした。そんな弟子の姿を一瞥しながら、スターは優雅にサマーベッドに腰かけてトロピカルジュースを飲んでいる。
常夏の楽園に不動の奮闘は異質であり、スターがくつろぐように勧めるも不動は首を振った。
「俺はガキ共を助けにいかねばならん」
「せっかくのお休みなのだから、地球は彼らに任せてのんびりと羽を伸ばそう!」
「生憎ながら筋肉は休むと衰えるのでな。スターの申し出は断る」
「たまには師匠の顔も立ててくれたまえ。筋肉も適度の休みがないと悪影響になるし、君は働きすぎる。質の良い休息があってこそ最高のパフォーマンスを発揮できるとは思わないかね」
「思わん」
一蹴する不動にスターは高らかに笑って言った。
「私たちがいつまでも手助けをしていれば、地球人は永遠に頼りっぱなしになる。そろそろ、彼らには自分たちの手で守ってもらわないといけないのだよ。
地球のためにもね。
それに、地球の弟子たちも充分に育ってきている。
君はどう思うかね?
私たちがずっと前線に立たないといけないほど彼らが頼りなく見えるのかな?」
朗らかながらも威厳ある師の言葉に不動は空間を殴るのを止め、目を瞑った。
彼の言う通りだと思ったのだ。
不動は大きく嘆息して肩を落としてから、スターの隣のサマーベッドに寝転がった。
ジャドウはホテルのバーで浴びるように酒を飲み、カイザーは趣味のパン作りに勤しんでいる。
星野天使も美味しいカレーパンを作ろうとカイザーといろいろ考えているようだ。
日頃の戦闘とは無縁の平和で穏やかな時間が流れていく。
不動には物足りなく思えても、彼らには必要な体験だった。
きっかけは半月前に遡る。スターの一声により、カイザー、不動、ジャドウの三人は二か月の休みを与えられ、地球から三万光年離れた惑星トロピカルで過ごすことを命じられた。
彼らは半ば強引に地球を離れることになった。
もちろん不動は大反対したのだが、スターは自分たちが休んだ後は交代で地球のメンバーに休みを与えると提案してきたので、渋々従うことにした。
当初から不動は地球が心配で仕方がなかった。自分たちがいない間に侵略を受けていたら?
呑気に休んでいる暇などないと考え、不動はあらゆる方法を試して帰還を試みるが失敗だった。
否、スターが彼を帰さないようにテレパシーも瞬間移動も空間移動も使えないようにしたのだ。
不動は意地になり懸命に抵抗してきたのだが、先ほどのスターの言葉に師の真意に気づいた。
これは、試験なのだ。
美琴やメープル、ムース、ロディなどの地球出身のスター流メンバーが宇宙人である自分たちがいなくても上手に平和を守ることができるのかをチェックするのである。
表向きは休暇だが、弟子たちの育成も兼ねている。
一見自由に振舞っているように見えるスターだが、奥底にはメンバーでさえ驚嘆するほどの知略が含まれていることがある。今回の一件もそうだ。
スターは横にいる不動に微笑んで口を開く。
「思いっきり身体を休めることで、君は今よりもっと強くなるだろう」
「スターの言葉通りであってほしいものだが」
口角を上げた不動は手枕をして青い空を見上げる。
楽しい夏休みはまだまだ始まったばかりだ。