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15.話し合い



「つまり、コンラートに私を渡した人が私の母親だった可能性が高いってことなんですね。

そして、もう母は亡くなっている」


念のために問うと、王は眉を顰め頷いた。


不謹慎だが私はそんな王を見てほっとした。


母のことはわからない。

だって会ったことも見たこともないのだ。


でも王は今もちゃんと母のこと愛してくれている。

王妃じゃなくて、私を産んだ私の母を愛してくれているんだ。

だから私は安心した。


「これは難しいね。アリシアの母を殺したのが王妃だってことは推測できるけど証拠がない」


むぅと悩むアルベルトに、私は思考を切り替える。


共有した情報はこうだ。


私の母は平民だった。

でも神の愛し子で、証拠がアリシアのバラの花びら。

あれが愛し子という証拠だと王は言った。

でも母が公言していないため、母が神子であったことも愛し子であったことも知る人はいない。


王都を離れるといった母と別れる前に一夜を過ごして授かったのが私。

すでに別れていたため、子供がいることを知らなかったといっていた。

だから血縁検査で他の男ではなく、王の血を引いていることを知れて安堵したと。

だから私は正真正銘、二人の愛の間で出来た子。


別れた後の母が所属する旅芸人の団体に寄付をしていた王はその後の活動を追っていた。

だけど急に解散を告げられ、母の消息が分からなくなった。


怪しいのはここ。

王の話では活動はこれからも続けていくといっていたのに、急に解散することになったのには絶対に裏に事情があるはず。

王はせめて母の行方だけでも追うため、王族の影を使おうとしたが前王に許可されなかったらしい。

その為、母が幸せにいられるように国の発展に力を注いだ。

もし、ここに王妃が圧力をかけていたことを証明できれば、と考えるが当時の団員たちはもういない。

怪しいことに誰一人として残っていないのだ。

でも誰もいないなら母や団員たちを殺した人物の特定をすればいいと考えたが、公爵家には王家までとはいかなくとも優秀な人材がそろっているらしい。

しかも忠誠心が異常なほど高い。

つまり外部の力を借りている可能性が低いのだ。


私の母アリエルに王妃が関わっていることを証明する手立てがなにもない。


「そういえば、私のこと娘かもしれないと思ったのはなにかきっかけがあったんですか?」


沈黙が流れる中、私は気になっていたことを尋ねた。

一度目の人生では言及されていなかったことが、今回の二度目の人生ではあったのだ。

なにか一度目とは違う要因があるのかもしれない。そう考えた。


「見た目がアリエルに似ていたのもあるが、それだけなら他人の空似の可能性もあった。

だが、お前の名前を聞いてアリエルの子供なのではないかと、そう思ったんだ」


「名前、ですか?…私の名前は神官長につけていただいた名前なんですけど…」


「そう、なのか…。だが、そうだな。お前に名を付けられる余裕があれば、お前はもっと幸せに生きていただろう。

…アリエルはな、子供が出来たら“アリシア”という名をつけたいと、そう言っていたんだ。

だからお前が名を名乗ったとき、アリエルの子なのではないかと、そう思ったんだ」


どこか懐かしそうに、でも少し悲しげに話す王を見て私の胸が切なくなる。


「それでお前が歌ったとき、アリエルの姿と重なった。

そして同時にアリエルはこの世にはもういないと、察した」


何故母がもういないと確信したのか、それは王が話してくれた王だけに伝わる秘話だ。


この国がある大地はもともと荒れ果てた土地だったという。

草木が生えることなく、雨も降らないため作物も育たない。

だが一人の人間がこの土地で歌を歌ったといわれている。

何故歌ったのか、何故荒れ果てた土地にも関わらずやってきたのか、理由は不明だ。

だがその歌声を聞いた神が恵みをもたらした。

それがこの国が出来たきっかけ。


普通の人間には使えない些細な力を持つものが現れ始めた。

その中でもまるで恵みをもたらしているかのように幻想的な力を使うものが現れたのだ。

私のように光を降らせるもの、母のように花びらを舞い散らす者、雨を降らせた者、周囲を光で照らした者、様々だった。

だた一つはっきりしているのは、その不思議な現象を起こしながら力を使う人は一人のみ。

同時に複数現れることはないことだけ。


だから私の力を使うところを見て、もうアリエルはいないと確信したと告げたのだ。


でもそうか。

見た目は似ている部分があるかもしれない。

だけど他人の空似である可能性もある。

それに私はあの時アリシアという名前ではなかった。

だから一度目の人生の時、私は母の子だってわからなかったんだ。


理由があったことに、少しだけ納得する。


_______心からそうは思わないけれど…。



「アリシア様、失礼ですが神官長はどのような理由で名前を付けたかご存じでしょうか?」


手を軽く握り、人差し指だけ顎に添えた格好をしたジョセフさんが尋ねる。


「はい。昔…母が踊っている姿を見たことがあるようで、その時に舞っていた花の名前を付けたそうです」


私の返答に「花…」と呟くジョセフさんはまだ疑問があるのか、考える姿勢を崩さない。


「……不思議ですね」


「そうだな」


ジョセフさんの呟きに王が返答する。

なにがおかしいのかわからず、他に目をやると、アルベルトはわかっているように私に微笑み、コンラートは首を傾げジョセフさんを見ていた。


「神官長ですよ。あの方が踊っているとき、確かに花は舞っていました。

ですがそれは花びらで、花の形を保ってはいません。それなのに何故“アリシア”だったのでしょうか?

神官長は花びらから特定できるほど花に詳しい方なのですか?」


その質問に対して私は答えられず、思わずコンラートに視線を向けた。

だけどコンラートもわかっていないようで首を振る。


「ごめんなさい。そこまではわからないです。

神殿内でも育てているのは薬草や食べられる野菜とかで、ただ見栄えのために花を育ててはいません」


「まぁ、良識ある人間なら私物化はしないものですが…」


「ならさ、実際に聞いてみればいいんだよ!」


アルベルトが明るい口調でそう言った。

私含む他四人はそれぞれ顔を見合わせる。

そんな私たちの様子にアルベルトは楽しそうにニッと笑う。



「考えても答えは出ない。今のところアリシアの母の手がかりを知るものはいなく、知っている可能性は神官長のみ。

アリシアに授けたかった名前を与えたところを考えてみても、神官長は王妃側の存在じゃないことはわかる。

ならさ、実際に会って聞けばいい。なんらかの事情で今までアリシアにも話してこなかったとしたら、僕たちが敵じゃないことを示せば話してくれるさ」


ね。と笑みを向けられると、色々と複雑に考えていた自分が考えすぎに思えてくる。


「うん。そうだよね。

神官長はいい人だって私も知っているし、ここを出たら神殿に戻るんだもの。

私聞いてみるよ」


「そうだね。僕も一緒に聞きたいけど、アリシアだけの方がいいかもしれない。

あ、でもアリシアが伯父上とアリエルさんの子供だって分かるように、伯父上に手紙とか書いてもらった方がいいかもしれないね」


「そうだね。

……あの、お願いできますか?」


アルベルトから王へと視線を移し、手紙を書いてもらうことをお願いすると、吹き出すような笑いが隣から聞こえた。


「アルベルト?」


「アハハハハ!ごめんね!アリシアに笑ったんじゃないんだ!

ただ伯父上がね『アリシアの夫となるものは父親の俺が決める!』とか言ってたくせに、すっごい他人行儀で…!

アハハハ!全然好かれてないじゃん!!!」


そんなに面白いのか、よくみると涙が溜まり指で掬い上げている。

ちらりと王を見ると、ぶるぶると体を震わせていた。


「アルベルトよ…」


「アハハハハ!ヒーー!可笑しッ!!」


重低音が室内に響く中、アルベルトの笑い声がそれをかき消す。

隣に座っている私は居心地が悪い。

そしてガタンという音が聞こえたと思ったら、席を立った王が扉を開けていた。

いつの間に扉まで移動していたのか。と疑問に思いつつ、私は王とアルベルトを見守った。


「…アルベルトよ、…この部屋から今すぐ追い出されたいか?」


目は鋭く睨みつけ、口元はあくまでも弧を描く。

とても恐ろしい表情に、さすがにアルベルトも笑いが止まったようだ。


「ごめんなさい」


「…まったく、お前は本当に……。

アリシアよ、男は空気を読む男にしなさい」


「え、あ、は、はいっ」


いきなり話しかけられ、内容を把握する前に返事をしてしまったが、思い返しても問題にならない内容だったから気にしないことにした。

それになんだか変な感じ。

ずっと王様だって思っていた人に、父親のように話されるなんて。


王はそのままデスクまで進み、腰を下ろす。

どうやらアルベルトの提案通り、手紙を書いているようだ。


「これで神官長が情報を持っていれば話は進むね。

もし何も知らなかったとしたら、アリシアと伯父上には申し訳ないけど、アリエルさんのことは諦めてほしい」


「わかっている」


手紙を書きながらも返事をする王に、アルベルトは少し困ったように微笑んだ。


(なんだか、本当に不思議な人…)


私はアルベルトを見てそう思った。


さっきまでは子供のように笑っていたはずなのに、真面目な話になると急に大人びたような表情に変わる。

今だってそう。

王の方がずっと大人な筈なのに、まるで王の傷を理解しているかのような目で眺めている。

本当は諦めたくないのに、それでも諦めてほしいとアルベルトが願ったから、大人として受け入れた王に、まるでごめんと訴えているかのようだった。


(アルベルトがそんな表情を浮かべる必要なんてないのに…)


私の視線に気付いたのか、アルベルトが小さく音がなるように手を叩く。

だから部屋に響き渡ることはなく、だけどもみんなの視線を集めるには十分だった。


「さ!あとはアリシアのことだね!こっちには当事者であるアリシアと、コンラートがいるから証言は揃っている。

建物も保管済みだし、人物特定の証拠はある…っといっても状況証拠でしかないけど。

出来れば確実に追い詰めれるように物的証拠が欲しいところだけど……」


「神の愛し子という存在を蔑ろにした、というのは弱いでしょうか?」


「弱いね。そもそもアリエルさんがいつ死んだのか。アリシアがいつ愛し子になったのか。そこがわからない。

それに王妃の従者がアリシアを虐待していたと訴えても、王妃が関わっていた事の証拠はない。

こちらの証拠を提示しても、最悪実行した従者を捕らえて終わり。という可能性だってある。

……というか、今更だけどなんで王妃はアリシアを捕らえていたんだろう?

伯父上が愛しているアリエルさんの子供だから憎いー!嫌がらせしたいー!っていうのはわかるけど、何年も隠してずっと生かす理由にはならないよね?」


んー、と頭を悩ませるアルベルトに他の人たちも悩みだした。


「アリシア様は何か聞いていたりしていませんか?」


捕らえられていたのは私で、従者だけど接触していたのは私だから聞かれるのは当然の事なのに、急に尋ねられ私の体はビクついた。


聞いてはいない。

だけど、知っている。

でもそれは一度目の人生があったから。

話すには昔の話もしなくてはいけない。


(でも信じてもらえるの?)


人生をやり直し、そしてこの先の未来が書かれた本を読んで知っただなんて、そんな人が作った物語のような話。


胸が、心臓がドキドキと大きく鼓動する。

信じてもらえるかわからない。

でも早く解決する為には話したほうが早い。

そんなのわかってる。


でも、___怖いんだ。


____信じてもらえないかもしれない。


____頭がおかしくなったと思われるのかもしれない。


____いい加減なことをいうなと、冷たい目を向けられるのかもしれない。


膝の上に置いていた手をぎゅうと握りしめた私の拳に、そっとアルベルトの手が重ねられた。






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