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零線 Endlessworld  作者: お味噌
9/15

深海へ誘うもの

エンジンの轟音が響き渡る白い廊下の中、俺と赤美は船のだいぶ後ろまで歩いて探索をしていた。ふと、今までの部屋よりも少しゴツい鉄の扉が目に入った。ラムネ製造機や書斎室、様々な部屋を見てきたがこんなにゴツい扉はなかった。

俺は興味津々になり、赤美ちゃんと一緒にその扉を押して開けた。そして開けた先には台車に設置されている緑色の飛行機があった。

「すげぇ…」

俺はつい、好奇心でその飛行機に触ろうとした。その時、どこからか声が聞こえてきた。

「こらぁ君!!それは塗装が終わったばっかりなの!!触るとペンキが付くよ!!」

「!?」

俺は咄嗟に触ろうとした手を引いた。

カツンカツンと触ろうとした飛行機の反対側から足音が聞こえてくる。そして現れたのはズボンは作業服だけど上半身は水着を着ている青髪のポニーテールの女性。塗装の時に付いたらしき緑のペンキが服と手と顔に少し付いていた。

「君が龍くん?」

「は、はい!!」

「長門艦長から話は聞いているわ。私の名前は舞奈佳(まなか)、ここの格納庫と対空砲の担当者よ、よろしく。」

舞奈佳さんはそう言って俺と握手を交わした。すると舞奈佳さんは俺の後ろを覗き込んだ。

「もしかしてこの子が赤美ちゃん?」

初めて会ったから怖がっているのか、赤美ちゃんが俺の服を掴みながら後ろに隠れていた。それを見た舞奈佳さんは少し慌てながら優しい口調で話し出した。

「ごめんなさい、怖がらせてしまったようね。お詫びにこれあげる。」

そう言って赤美ちゃんにジャラジャラとなる缶を手渡した。赤美ちゃんはゆっくりと貰った方の手を開くとそこには飴玉があった。赤美ちゃんは飴玉を食べたことが無いのか首を傾げた。

「なにこれ?」

「これは飴玉、私の好物よ。口の中で舐めて溶かしながら食べるの。」

それを聞いた赤美ちゃんは恐る恐る飴玉を口に入れた。そして少してから笑顔になり、ピョンピョン飛び跳ねた。どうやらとても美味かったようだ。

「これ美味しい!もっと欲しい!!」

「良かった、気に入ったようね。じゃあこれをあげる。」

舞奈佳さんが笑顔で何かを持ってきた。それはまるでペンキの缶に似た物だった。赤美ちゃんは貰ってすぐ缶の蓋を開けた。そこには大量の飴玉が入っていた。それを見た赤美ちゃんは再び飛び跳ねていた。

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「えぇ、食べ過ぎないようにね?」

「はーい」

まるで姉妹のようだ。なんだか見ているだけで楽しい…。そう思っていた時、どこからかジリリリリと音が聞こえてきた。その音を聞いた舞奈佳さんが急いで伝声管の蓋を開けた。

「はーい、こちら舞奈佳です。…機関長ですか。はい。はいはい。分かりました、連れてきますね。」

舞奈佳さんがゆっくりと伝声管の蓋を閉める。

「龍くんと赤美ちゃん、今からちょっといい?」

「?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー戦艦大和のかなり下ー

「…着いたわ、ここよ」

俺達はどうやら機関長という方に呼び出されたようだ。そして目の前にはでかい扉、扉の上には機関室と書いてある。どうやらここが機関室らしい。

「音には気をつけてね?結構うるさいから。」

そう言って舞奈佳さんがゆっくりと扉を開く。すると突然、とてつもなく大きなボイラー音が響き渡る。あまりの大きさに俺と赤美ちゃんは両手で耳を塞いだ。すると、扉から体つきがごつく、上半身裸でスキンヘッド、そして頭には白いタオルを巻いている身長2mを超えてそうな巨体の男が出てきた。

「よぉ、君が龍くんで君が赤美ちゃんか。ワシは鬼林(きばやし) 太山(たいざん)、この機関室の最高責任者の機関長を務めている者だ。趣味は釣り、好物はいちごだ、よろしく。」

そう言って鬼林さんは俺と握手をした。すると舞奈佳さんが赤い箱を鬼林さんに渡した。

「はいこれ、持ってきたわよ。」

「あぁ、ありがとな、まなか。助かったよ。」

「えぇ。しかし、たいざん、貴方が物を無くすとか珍しいわね。」

それを聞いた鬼林さんが腕を組んで困り顔をしながら答えた。

「それが、さっき外で工具箱を置いていたのに何故か急になくなってしまったもんでよ。新品だったのに…全くどこに行ったのやら。」

「海に落としたとか?」

「ちゃんと落ちないように対策はしていたのだがなぁ…」

「じゃあ、海に引きずり込まれたとか」

「まさかな、とりあえず仕事を終えたらワシがそっちに返しに行くわい。」

「分かったわ」

「それじゃあ龍くん達、話したい事は山ほどあるが、残念ながらワシらは今から仕事なんだ。仕事が終わったらゆっくり話をしような。それじゃあ」

そう言って鬼林さんは機関室に入って鉄の扉を閉めた。

それから数十秒後、突然、船の汽笛が鳴りだし、さっきよりもボイラーの音がでかくなった。どうやら出航したようだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今、俺たちは廊下を舞奈佳さんと赤美ちゃん達と一緒に歩きながら格納庫に戻っている最中だ。

「あ、そうだ!!」

舞奈佳さんが突然、何かを思いついたようだ。

「折角だし、あそこ行ってみようか」

「あそこ?」

「そう、あそこ。絶景が見れるよ?」

それを聞いた俺は赤美ちゃんに行ってみるか聞いたら頷いたので行くことにした。暫く歩くとそこら辺にある同じ形をした鉄の扉の前に着いた。

「ここよ。」

舞奈佳さんが扉を開け、中に入ると薄暗い空間が少し広がっている。奥からは隙間から陽の光が差し込んでいる。俺は扉を閉めて舞奈佳さんについて行った。中に入ると3隻のボートが吊るされている。どうやら船の格納庫らしい。少し進むと今度は少し錆び付いている扉があった。

「少し待ってね、今開けるから。」

そう言って舞奈佳さんが開けようとしている最中、ふと、後ろに何かの気配を感じた。それは何か身に覚えのある気配。最初は赤美ちゃんかと思ったが赤美ちゃんは俺の隣にいる。

俺は恐る恐る後ろを振り返ると、薄暗くてよく見えないが俺と同じ身長の人?のようなものがそこにいた。ここの担当の人か?そう思った矢先「開いた!!」と舞奈佳さんの声が聞こえたと同時に光が差し込む。俺は反射的に目をつぶった。そして次に瞼を開けた時、そこには誰もいなかった。誰だったんだ?疑問を抱きながら考えていると「龍くん、開いたよ?」舞奈佳さんが俺を呼んでいた。

「すいません!!今行きます!!」

俺はそう言って光が差し込んでいる扉に向かった。扉を抜けるとそこには一面海景色が広がっていた。塩の匂いがする海風が吹き付けてくる。さっきまでいた港町はとっくに見えない。

「すげぇ…」

俺は綺麗な海に見とれていると、ふと、違和感に気がついた。

赤美ちゃんがいない。

俺は周りを見渡したがどこにも赤美ちゃんはいない。

「舞奈佳さん、赤美ちゃんは?」

「え、さっきまでここに…」

「まさか…」

俺は急いで船の進行方向とは真逆を見た。そこにポツンと銀色に光る何かを見つけた。それがどういう意味か俺と舞奈佳さんは瞬時に理解した。

「龍くんダメよ!!」

舞奈佳さんが俺を止めようとしたが俺は何も考えず海に飛び込んだ。船がどんどん遠ざかり、大きな波が俺を襲う。しかし俺はお構い無しに息を切らしながら泳いで銀色に光る所までたどり着いた。そしてやはりその銀色はさっき貰った飴缶だった。しかも運良く浮き輪代わりになっており、赤美ちゃんが飴缶を掴んでいた。

「赤美ちゃん!!大丈夫!?」

赤美ちゃんは泣きながら俺にしがみつく。どうやら大丈夫なようだ。俺は安堵した。飴缶が波が来る度、カランカランと鳴り響く。しかし、安堵するのもつかの間、何も考えず飛び込んでしまったから戻り方を考えてなかった。とりあえず帰り方を考えないと…そう思っていると突然、赤美ちゃんが怯えた声で話し出した。

「あのね、足、掴まれて落ちたの。今も掴まれてるの…」

「え?」

それを聞いた俺は青ざめ、恐る恐る海を見ると、そこには大量の手があった。突然、俺と赤美ちゃんは海の中に引きずり込まれた。俺は咄嗟に赤美ちゃんを抱き、浮上しようと抵抗したが、息が持たずそのまま気を失ってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お…て」

「おき…て」

「りゅう、起きて!!」

俺は目を覚まし、肺に溜まってた海水を咳で吐き出した。

咳が落ち着いて顔を上げると飴缶を持ってる赤美ちゃんがいた。

「赤美ちゃん無事か?」

「うん…」

俺は再び安堵した。俺は起き上がり、周りを見渡した。

「しかし、ここはどこだ?」

回り一面、霧が濃すぎて何も見えず、周りからはギギギギギという音が聞こえてくる。地面を見ると木材で出来ているのだが、木材がだいぶ傷んで所々穴が空いていた。

俺は赤美ちゃんの手を繋ぎ、ゆっくりと霧の中を進む。歩く度、床が軋む。すると徐々に霧が薄くなってきた。そして次第に俺たちはどこにいるかが分かった。目の前には錆びて崩れかかっている煙突、壁には濁って何も見えない丸い窓。これだけで俺は今どこにいるかがハッキリわかった。どうやら俺たちは今、噂に聞いた幽霊船に乗っているようだ。

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