幽霊船の噂
「おーい、起きろー!!」
客車の中で長門さんの声が響き渡る。
「zzz…」
「zzz…」
俺と赤美ちゃんは瞼が眠気で開かない。
「起きろー!!」
「zzz…」
「zzz…」
俺と赤美ちゃんはそれでも起きない。すると長門さんが天井に指を指し、
「あ、顔にゴキブリが!!」
と大声で叫んだ。
「!?!?!?」
「!?!?!?」
俺と赤美ちゃんは飛び起きて寝ぼけた頭で真っ先に逃げようとした。
「え、どこどこ!?」
「嘘だよ」
「( '-' )」
「( '-' )」
やったなコノヤロウ
「起きれるじゃねぇか」
「なぜこんな早くに…まだ外は暗いですよ?」
外を見ても真っ暗。窓には俺と赤美ちゃんが反射で写っている。
「あー、それはだな、この世界は空間が不安定なんだ。出来るだけ早くこの世界から出ないと。下手したらあれに巻き込まれる。」
「アレ?」
「あれってなんですか?」
「これを見たら分かる」
そう言って長門さんは窓を開け、フレア弾を外に打ち上げ外を照らした。そしてそこにはそこが見えない巨大な崖のようなものがあった。
「!?」
「崖?」
「いや、崖では無い。」
「え?」
「これは爆発跡。大規模な爆発によってできた言わばクレーターだ。」
「これが!?」
「そそ」
「一体何が…」
「原因は分からないが、過去に旅をしていた時、このクレーターを何度も目にした。そしてその世界ではその爆発がたまに発生してきた。と、言ってもそこまでの規模ではなかったけどな。それでもやばかったよ。」
長門さんが淡々と話す。
「…。」
「ま、それに巻き込まれたくなかったらさっさと支度するこった。」
「はい…」
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「それでは飛ぶぞ。しっかりどこかに掴まっておくんだぞ。」
三郎さんがそう言った直後、汽車の鈍い汽笛の音がして、すぐに巨大な爆発音が聞こえた。それと同時に車体は揺れ、車内の照明が不規則に点滅していた。揺れが収まり外を見るとそこはだだっ広い荒野だった。
「荒野に出た…あれが荒野の街ロメ?」
「いや、ここはまだ中間の街だよ。
この先からは海になってる。その海にひとつある小さな島が俺たちの目的地、荒野の街ロメだ。」
すると車内に三郎さんの声が聞こえてきた。
「長門、貴様の船を準備しておいてくれ。」
「あぁ、それならとっくに出来ているよ。」
長門さんが微笑みを浮かべながら片手にキューブを握っている。
「そうか。なら丁度いい、儂は少し情報収集をしてくる。龍と赤美は長門と一緒に街を見るなり時間を潰していてくれ。長門、2人を頼むぞ。」
「あいよー」
「龍、赤美、はぐれないようにな。」
「はい」
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列車が街に着き、俺は列車から降りて三郎さん達に着いて行って乗ってきた機関車の前を通り過ぎたその時だった。
「…ん?」
突然周りが白黒になり機関車の隣にフードを被った何者かが立っている。
「誰だ?痛ッ!?」
そのフードの人を見た直後頭に激痛が走った。
「なんだ今の頭痛…」
俺は自然と見上げ、何故か汽車の前方の上部分に設置している車両番号を見た。
「D51…?」
「俺、この機関車をどこかで…」
「…まぁいいか」
目線を下ろした時は既にフードの人が居なくなっていた。
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約2時間後
「食った食ったァ。美味かったな、あの料理。」
「えぇ。」
俺は顎に手を当て、歩きながらさっきのフードの人はなんだったのかを考えていた。
「なんだ、何か悩みでもあるのか?」
「え?あぁ、いえ、何も…」
「?」
ちょうど三郎さんが帰ってきた。
「お、三郎ちゃん!!何か情報あった?」
「いや、大した情報はなかった。」
「だが、不気味な話を聞いてきた。」
「お?なになに?」
「どうも近海で呪われた幽霊船が出るというものだ。」
「なにそれこわ」
「多分怖がらせるための作り話だと思うが…どうやらその幽霊船は昔、この街の中では1番巨大な旅客船だったらしい。ある日、いつも通りこの港を出港してすぐの時、乗客の1人が木箱の漂流物を発見した。よく見るとその木箱に誰かがしがみついていた。どうやら漂流者だった。声をかけても反応はなく、その場にいた人達が協力してその木箱ごと船に引き上げた。そしてその場にいた人達はその漂流者を見て絶句した。漂流者は既に白骨死体だったからだ。しかもそれは白骨化しているにも関わらず、木箱を手放そうとしない。それを不気味がった1人の乗客が木箱を蹴ってしまった。その時、悪夢が始まった。突然、白骨死体が口を開け、頭を左右にガタガタ、骨のカラカラ音を奏でながらゆっくりと木箱を開けた。その木箱からは大量のどす黒い血のような液体が溢れ出て船から海に流れ出した。その直後、周りが濃い霧に覆われ、錨を降ろしているのにも関わらず、船が勝手に進みだした。パニックになった乗客は船がこの街にまだ近かったため、泳いで逃げようと次々に海に飛び降りた。しかし、飛び込んだ乗客は浮いてこない。残った乗客と全員が声をかけたが誰1人浮いてこない。すると徐々に周り1面の海が赤くなってきていることに気づいた。船を止めようにも舵も効かない。船体から鈍いゴゴゴという音が聞こえてくる。突然、何かにぶつかったのか船が急停止した。反動で乗っている全員が床に転んだ。起き上がった矢先、1人の乗客が船首の近くに巨大な物体を見つけ、不気味だが気になったのかその物体を凝視した。そしてそれは妙な音を出しながら徐々に海面から上がってきていることに気づいた。そして同時に息ができないほどの恐怖を体験した。」
「それは巨大な頭蓋骨だった。」
「それは目がなく、空洞になっている目の部分より上を真っ赤な海面から出しながらこっちを見ていた。それを見た乗客が急いで船裏に周り、救難ボートで1人で脱出した。気づいた時には海は元に戻っており、巨大な旅客船は姿を消していた。後に街の漁船が救難ボートに乗っている乗客の1人を救助し、事情を聞いたところこの事が判明したらしい。」
「…」
「…」
「…」
皆えげつい表情をしていた。
「どうした?」
「思ってたより怖いんだけどこれ」
「儂も少し怖いと思った。」
「しかし、なぜこの話をいとも簡単に街の人が信じたんだ?」
「それはだな、港で旅客船を見送っていた多くの人が霧に映った巨大な影を目撃していたらしい。それと同時に海も赤くなっていた。街中パニックになっていたこともあって信じせざる負えない状況だったとか。」
「なるほど…」
確かにこの街、港があるのに船が1隻も無い。もしかしたらそれが原因で…
「ちなみにその乗客はこのことを話した後、自殺した。」
「え…」
「原因は不明だ。だが、自殺した直後、その乗客は体から赤い霧を出しながらすぐに白骨化したらしい。」
「追い打ちやめてー(涙)」
「未だその旅客船とその他の乗組員と乗客は見つかっていないということだ。」
それを聞いた長門さんが三郎さんの方を掴んだ。
「なぁ、三郎ちゃん、ルート変えれない?」
「ロメへのルートはこれ以外ない、諦めろ。」
それを聞いた長門さんは膝から崩れ落ちた。
「幽霊船覚えてろ…」
「と、言ってもただの噂話だ。もう100年以上前の話らしい。この街でその怪奇現象を見た人はもう居ないからもしかしたら嘘かもな。」
「嘘であってくれ。」
長門さんの肌からは尋常ではない冷汗の量が出ていた、
「とにかく、このルートしか出雲に会えない。長門頼んだ。」
「幽霊船いたら怖いなぁ…、でも、出雲よりはマシ…」
「長門」
「分かったよ!!龍ちゃん達下がってろよ?」
そう言って長門さんは持っていたキューブを海に投げ込んだ。少し経ってから突然、海面が一瞬海面が青白く輝いた。
その直後、海面から巨大な船が浮上してきた。その船は船首に着いている巨大なバルバスバウと甲板にある巨大な主砲が特徴的だった。
「でか!?これで航海を?」
「そうだ。」
船から軍服を着た男性一人が出てきた。
「お久しぶりです艦長…誰?」
「俺だよ、オレオレ」
軍服を着た男性が腕を組みながら首を傾げ、やがて驚いた表情を見せた。
「もしかして長門艦長!?」
「だからそうだって…」
「色々変わりましたね、色々と…」
軍服の男性が苦笑いをしながら長門さんの腹を見ていた。
「色々あったんだよ…。まぁそんなことよりなんだか嬉しそうじゃないか副艦長」
「久しぶりの航海ですのでね、ワクワクが止まりませんよ。」
「それはさっきまで俺もあった…」
「何かあったので?」
「それが…ゴニョニョ」
副艦長が血相を変えて三郎さんに質問をした。
「…引き返しても?」
「ダメだ」
「ですよねー」
「とにかく副艦長、すぐに出航する。先に司令室に戻って船員に指示を出していてくれ。」
「了解しました。」
副艦長は急いで司令塔に裏にある階段を登って行った。
その後、突然長門さんが両手を1度叩いてから話し出した。
「さて、それでは改めて。ようこそ戦艦大和へ、歓迎するよ。」
「この船はかつて世界最大にして最強と言われた戦艦、戦艦大和だ。」