次の世界へ
ドラゴンを倒し、俺たちは襲われた人達の救出をしていた。目に映るのは瓦礫に埋もれた人、火傷をした人
救出作業は終盤を迎えていた。不思議な事に未だに死体は見つかっていない。三郎さんから覚悟した方が良いとは聞いたが、これ程の被害が出ていながら未だに死者が見つからないのは奇跡なのか?俺は違和感を覚えた。とにかく、救出作業をしないと。俺は見つけた怪我人を背中で担ぎながら医療用のテントに向かった。
「おい!!さんちゃん!!龍ちゃん!!来てくれ!!」
突然長門さんの声が聞こえた。聞こえた場所は…どうやらドラゴンの死体の方からだ。俺は担いでいた怪我人を急いでテントに連れて行き、長門さんの元へ向かった。長門さんがいる場所に着いた時、俺は長門さんが誰かを持ってる事に気づいた。
「え?」
長門さんが担いでいたのは、長い赤髪の少女だった。裸だったのかタオルが体に巻かれている。見た感じ、俺と歳は近そうだ。
「息はあるな。長門、その子は?」
「分からん、たまたまこのドラゴンの近くを通ったら腐敗していた所から手が見えてたから引っ張り出したらこの子が出てきた。」
長門さんが不思議そうに話す。
「食われた子か?」
「にしては目立った外傷がない。それに、この子は何故かコアの部位から出てきた。」
「コアから?」
「そう、コアから。」
「一体どういう事だ…」
三郎さんが少しの沈黙の中、首を傾げ、腕を組んだ。そして直ぐに三郎さんが組んでいた腕を解いて長門さんと再び話しだした。
「一旦、アルフレッドにこの救出作業が終わるまでこの子を見てもらおう。」
「そうだな、俺が行ってくるよ。」
そう言って長門さんはアルフレッドの店に少女を担いで行った。
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俺と三郎さんは救出作業を終え、アルフレッドさんの店に向かった。店に入ると丁度ローズが店裏のドアから出てきた。
「こっちよ。」
「分かった。」
俺と三郎さんは店裏の部屋に入った。ベットの上にさっきの赤髪の少女が寝ていた。隣には椅子に座っているアルフレッドさんがいた。
「その子の様態は?」
「問題ない、疲れて寝ているらしい。」
「良かった。…長門は?」
「さっき用事があるから外に出るわとか言って出ていったぞ。」
「そうか。」
アルフレッドさんが不思議そうな表情を浮かべながら三郎さんに話しかける。
「この子がドラゴンのコアから出てきたと聞いたが、本当か?」
「あぁ、そうだ。その事で疑問があってだな。」
「何故コアからこの子が出てきたか、か。」
「その通りだ。噂でもいい、何か知ってる事はないか?」
「噂ねぇ。」
アルフレッドさんは顎に左手を当て、少し険しい表情をした。そして直ぐに何かを思い出したような表情に変わった。
「…あん時の噂、もしかして…」
「何か心当たりが?」
「最近聞いた話なんだが、生き物をモンスターに変えるという術式が見つかったとかを聞いた。」
「じゃあそれが…」
「いや、実はこの術式、この世界の人達ではせいぜい出来てアリを同じサイズのモンスターに変えるぐらいしか出来ない。人間サイズをあんなドラゴンにするとしたら不可能だ。問題は術式がこの世界の文明より圧倒的に先の物という事。つまりだ、別世界の術式が何かしらの形でこっちの世界に流れ込んだというのが妥当だろう。」
「別世界の術式、先にこっちを調査する必要があるな…」
「だが、手がかりはないぞ」
それを聞いた三郎さんが人差し指をアルフレッドさんに見せた。
「いや、ひとつある。」
「?」
「龍が持っている手帳だ。」
それを聞いた俺はすぐにポケットからあの不思議な手帳を取りだした。
「え、これ?」
「かけてみるか」
「これがなにか?」
すると店の出入口の扉が開いて長門さんが帰ってきた。
「ただいまー」
「長門、丁度いい。龍にこの手帳の使い方を教えてくれ」
「お、まじで?これ見るの楽しみだったんだよなぁ。すんごい気になっt」
「いいからさっさと教えろ」
アルフレッドさんが痺れを切らしている…
「へーい。じゃあ、龍ちゃん。この手帳に触って」
「あ、はい。」
手帳に触る。
「手から魔法が出るイメージをしてー」
「え、は?」
はい、分からない。
「まぁ、なんて教えればいいか分からねぇし、とりまー、目を閉じてそのイメージでファイト」
「えぇ…」
脳筋ですな、もう当たって砕けろだ。俺は言われるがままにやってみた。すると手帳がひかり、勝手に手帳が開き、白い紙から文字が浮かんできた。
「何か出てきた」
「本当に出た…出るもんだな」
「これが…」
「あの男が言っていた通りだな、何て書いている?」
「「出雲と合流する」って書いてます」
それを聞いた長門さんは凄く嫌な顔をした。
「げ、出雲と合流?嘘だろ」
「出雲と合流すればいいらしいな。」
「あの、出雲って?」
「長門の姉だ。」
「いや、妹だろ。俺が兄だ。」
「何故威張る…」
「へーんだ」
どうやら長門さんは出雲さんを嫌っているようだ…。凄い険悪な顔をしている。
「はぁ…」
「だが、問題は出雲の居場所だ。」
「もう100年以上はあっていないからな…」
「ん、あれ?まだ何か字が…」
先程の文字の下に更に新しく文字が浮かび上がってきた。
「あ、ほんとだ」
「読んでくれ。」
「「荒野の街ロメ、そこに出雲がいる」って書いてます」
「ロメか、分かった。すぐに列車を出す準備をしてくる。」
三郎さんが店から出ようとした時、突然少女が目を覚ました。
「ここは…」
「!!」
「目を覚めたぞ!!」
アルフレッドさんが三郎さんにそう言うと三郎さんが急いで戻ってきた。
「気がついたか」
「あの、貴方達は…」
「三郎だ」
「アルフレッドだ」
「龍です」
「ハイパーメガ盛りアルティメットボンバーm」
「…。」
三郎さんから殺意マシマシオーラが…
「長門です、すいません。」
あ、オーラが消えた…
「貴様の名は?」
「…私の名前は…無いです…」
「無いのか?」
「はい…」
「記憶を失っているのか?」
「何も覚えていないです…」
「オーマイガー」
「記憶喪失か」
「ほとんど覚えていないのですが、名前は元々何も…」
元から名前が無い人なんて聞いた事が…
名前が無い事で引っかかっているのか三郎さんは先程と同じく、腕を組んで悩んでいた。
「…。」
突然、長門さんが少しデカい声で話し出した。
「だったら、この子の名前を決めようぜ!!」
「てめぇな」
「名前ないと悲しいじゃん?」
「はぁ…」
アルフレッドさんが呆れた表情でため息が出る。
「じゃあ、思いついた人、言っていこー。ちな、一人一つね。俺はもう思いついた。」
「勝手にやってろ」
長門さんに左手でシッシッとするアルフレッドさんにウザイ顔をしながら長門さんが近づいてきた。
「名前気になる?」
「は?」
「君から聞いてくれるかぁそうかぁ。それじゃ教えるしかないよねー」
「何も言ってねぇよ、うぜぇ…。」
「じゃあ、俺が考えた名前発表しマース。サイクロンジェットサンダー…」
あ、さっきの殺意マシマシオーラが俺の後ろから…
「長門、貴様表出ろ」
そのまま長門さんは三郎さんに表に強制連行され、その絵面を俺とアルフレッドさんは目を点にして見ていた。
「…。」
「おい、龍」
「は、はい」
「てめぇは何か思いつかねぇか?」
「え、えぇ」
何か良い名前…髪が赤い…美しい…あ、そうだ。
「髪が赤くて美しいから「赤美」はどうですか?」
「赤美…」
「…どうだ?」
「気に入ったわ」
気に入ってくれた様だ。
「ただいま」
丁度長門さんと三郎さんが帰ってきた。
「おかえりなさ…え、大丈夫ですか?」
長門さん怪人顔面じゃがいもになって帰ってきなすった。
「安心しろ、フルボッコのフルコースを味わっただけだ。」
「安心とは」
「名前は…決まったようだな」
そう言いながら三郎さんがベッドの隣で腰を下ろし、左膝を床につけた。
「何にしたんだ?」
「赤美です」
「良い名前だな、大事にするんだぞ。」
「はい!!」
「それでは、今から出発の準備をする。赤美も来てくれ。」
「は、はい!!…え、え?」
突然、三郎さんにお姫様抱っこをされて赤美さんは困惑した様子で連れていかれた…。
「…おい、龍」
「は、はい」
「言い忘れていたんだが、てめぇに渡した武器はまだ未完成だ。現段階ではこれが限界だが、まだまだ強くできる。どう強くするかはてめぇの使い方次第だ。それを覚えておけ。」
「わ、分かりました。」
「おーい、置いていくぞー?」
店の出入口付近から長門さんの声が聞こえる。俺は急いで店の出入口まで行ったところで振り向いてアルフレッドさんに礼を言った。
「はい、あの、色々ありがとうございました!!」
それを聞いたアルフレッドさんが微笑みを浮かべた。
「おうよ、達者でな。またどこかで会えたら、旅の話を聞かしてくれ。」
「はい!!」
俺は手を振りながら店を出ていった。店のテーブルからローズさんとアルフレッドさんが微笑みながら手を振り返していた。俺が見えなくなるとアルフレッドさんとローズさんは手をゆっくりと下ろし、お互い店の外を見ながら話し出した。
「…なぁ、ローズ」
「なに?」
「久しぶりに、一緒に外に出かけないか?」
「…良いわね。どこに出かけるの?」
「君の好きな花が咲いている草原にな」
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「よし、全員乗ったな。」
「乗ったおー」
「乗りました」
「私も」
「分かった、それでは出発するぞ。」
機関車の汽笛が響き渡る。そして列車がシュッシュっと音を出して動き出し、森の中を走り出した。
「いやー、しっかし本当にこいつに乗るは久しぶりだなぁ。」
「あのー、長門さん」
「なんですかい?」
「出雲さんってどんな人ですか?」
それを聞いた長門さんが凄い形相で答えた。
「ブスとブスの盛り合わせ、つまり最悪野郎。おけ?」
「えぇ…」
少し走った所で森をぬけ、何故か広い草原に出た。
「あれ、何故かこの列車、さっきまで森を走っていたのに突然広い草原に出ましたね。」
「あぁ、時空を超えるために助走をつけれる場所を探しているんだ。今丁度見つけたって感じかな。」
「え、時空を超える?どういう事ですか?」
長門さんが指でグルグルしながら答えた。
「えっとだな、この列車は三郎ちゃんの能力で別の世界に飛ぶことができるんだ。」
「え!?別世界に飛ぶことができるんですか?」
「実際君も最初にあった場所からここに来た時、1度は体験しているとは思うんだけど…」
「多分、その俺は気を失っていたかと…」
「あ、そゆことね」
「なら、丁度良いや」
長門さんが赤美さんに視線を移す。
「赤美ちゃんにも話を」
「はい?」
「この列車はさっき言った通り、別世界に移動することが出来る。だけど、ただ普通にワープする事は出来ない。」
「はぁ?」
「つまりだな、この列車のスピードが時速500kmになった瞬間、ワープが可能になるんだ。」
「時速500km!?そんなにスピードを出せる列車なんて見たことないですよ!!それにこの列車機関車ですよ!?」
「それができるから言ってるんだ」
「(꒪꒫꒪ )」
「まぁ、今話している事は本当だから。てか、今から分かるから。」
外の風景の流れが徐々に早くなってきている。
「三ちゃんには元々空間を移動する能力はなかったんだが、何とか移動する方法を大昔に習得したんだ。だが、その別世界につなぐポータルが1秒しかもたない。つまり、1秒たったらすぐに閉じてしまうんだ。」
「は、はぁ…?」
「そこでこの列車を使って時速500kmで通過したら行けるんじゃねってなってやった結果、出来ちゃったという訳。ちなみに客車を6両にしたら最後の客車のケツがスッパリ切れてどっか行っちまったよ。マジで綺麗に持ってかれてたね、うん。」
「…」
「…まぁ、この話は置いといて。丁度良いスピードになってきたし、1つ言うぞ。」
外が目に追いつけないほどの背景の流れになった時、少し重めの汽笛が響いた。その汽笛の直後、同時に長門さんはこう言った。
「死ぬ気でどこかに捕まれ。」
「え」
次の瞬間、まるで花火の時に感じの衝撃波と強烈な爆発音と共に列車がかなり揺れ、俺は椅子から転び落ちた。
「うわっ!?」
「ワァーイ(棒)」
そしてさらに追い打ちをかけるようにブレーキがかかっているのか金属が削れるような高い音と共に一気に減速し始め、俺は前の椅子に押さえつけられた。少しそれが続いたがすぐに開放された。
「痛ァ…」
「ほら言ったじゃん」
「早く言ってください!!」
「無事ならよきよき」
「良くないんですが」
「赤美ちゃんも大丈夫?」
「は、はい…」
突然、ノイズが聞こえてきた。
「…聞こえるか?聞こえるなら返事をくれ。」
「聞こえるよー三郎ちゃん」
「次の空間移動ができるまでこの世界で停車する。次の空間移動は約8時間後だ。日はくれてる、日の出までに寝るなりしていてくれ。」
「あの、長門さん」
「はい、長門です」
「1回で目的地に空間移動は出来ないのですか?」
「あー、出来ないね。2つの空間を飛ばせるのが限界かな。1回空間移動をするとこの機関車の動力部分がオーバーヒートするんだ。それと、どの空間も全てが1回で行ける訳ではないんだよ。分かりやすくするとだな、それぞれABCの空間があるとしよう。AからCの空間を移動したい時は必ずBを通らなくてはならない、つまり、駅から駅の間にある駅を必ず通過しないといけない、って感じかな。」
「なるほど?」
分からん。綺麗さっぱり分からん。
赤美さんは興味なかったのか隣の席でぐっすりと眠っている。
「深く考えるな、そのうち分かる。とりあえず今日は寝よう。」
そう言われ、俺は外の景色が夜で真っ暗の中、俺は目を閉じて眠りについた。