隊長
錆びた巨大な客船、突如降ってきた戦艦大和の着水によって発生した波に揺られ、船体が大きく傾き、あちこちから鉄の悲鳴が聞こえてくる。俺たちは必死に船の部品にしがみつきながら揺れが収まるのを待った。30秒ほどしてようやく少し揺れが納まってきた。
「一体、何が落ちてきたんだ?」
ベルンハルトさんがゆっくりと掴んでいた船の一部を手放し、右手でズレたガスマスクを直しながら降ってきた戦艦大和を見た。
「こいつは一体…」
ベルンハルトさんの様子からしてどうやら初めて見たらしい。俺はなぜ戦艦大和が降ってきたのかが気になり、つい、独り言のように口に出した。
「空から戦艦大和がなぜ…」
「せんかんやまと…あのでかい船が?」
「えぇ」
「…あれに乗ってきたのか?」
「はい。」
「…。」
俺とベルンハルトさんが会話していると大和の方から長門さんと船員が話している声が聞こえてきた。
「いてて…この船はいつから潜水艦になったんだ…なんだあれ?幽霊船じゃね?初めて見た!!…でも思ってたより小さいな」
「艦長、幽霊船が小さいのではなく本艦が大きすぎるんです。」
その会話を聞いていたベルンハルトさんは少し呆れた声で言った。
「まともな奴ではないな」
「多分あの人だけです」
すると大和の甲板のハッチの一つが開き舞奈佳さんと三郎さんが出てきた。三郎さんの右手には俺の銃を掴んでいた。俺はハッチから出てきた2人を見て大きく両手を振った。
「舞奈佳さーん!!三郎さーん!!」
俺の声に気がついたのか舞奈佳さんが鎖の柵から顔を出した。
「龍くん!!そこにいたの!?龍くん、赤美ちゃん無事!?」
「俺と赤美ちゃんは無事です!!」
それを聞いた舞奈佳さんは安堵し、ほっと息を吐いた。
「良かった、今助けるから!!ネット取ってくるからちょっと待ってて!!」
すると隣にいる三郎さんがベルンハルトさんと目が合い、少し無言の間があった後、三郎さんが口を開いた。
「誰だ貴様ら!!」
「ベルンハルトだ!!そしてこの4人は私の部下だ!!そんな事より、今すぐこの空間から脱出した方がいい!!さっきから不穏な音が聞こえる!!」
「なに?」
突然、再び幽霊船と大和が大きく揺れ始めた。その直後、ザバーと海から何かが飛び出て幽霊船の船尾と俺たちの目の前に何かが乗っかった。
「なんだ!?」
しかもそれはカランカランと音を立てながら、動いている。よく見てみるとそれはまるで巨大な骨の手だった。しかもその手はこの幽霊船を握りしめている。もしかして…
俺は嫌な予感がした。幽霊船の中央からギギギと音が聞こえてくる。それと同時に板が割れるような音も聞こえてくる。
そしてその嫌な予感が段々と確信に変わっていった。
この船を真っ二つにへし折る気だ!!
すると、大和の甲板から繋がったネットが幽霊船に降りてきた。
「皆さんこれを掴んで登ってきてください!!早く!!」
舞奈佳さんがネットを用意してくれたようだ。
俺と赤美ちゃんを先頭にベルンハルトさん達と一緒にネットを登って行く。下を見ると無数の手が俺たちを捕まえようと手を伸ばしている。俺たちは急いで登っていると、幽霊船が後ろで大きな音を立てながら真っ二つになった。その衝撃で大和は再び揺れ、幽霊船の部品が飛んできた。しかも不運な事に部品の一部が赤美ちゃんの手にあたり、赤美ちゃんは手を滑らして悲鳴をあげながら頭から海に放り出された。
「赤美ちゃん!!」
俺がそう叫んだ直後、ベルンハルトさんが手を離し、自ら飛び降り、水面ギリギリのところで赤美ちゃんを掴み、ネットに片手で掴んだ。おかげで赤美ちゃんは助かったものの、ベルンハルトさんの足には既に無数の手が掴んでいた。
「アルバン!!」
突然、ベルンハルトさんが叫び、赤美ちゃんを片手で投げ、アルバンさんにキャッチさせた。
「隊長!!早く!!」
ベルンハルトさんは無数の手に掴まれた自分の足を見た後、アルバンさんに顔を向けた。
「…アルバン、この部隊の指揮権を君に譲る。」
「…何を言ってるんですか?諦めないでください!!」
隊員達がベルンハルトさんを呼び止めている。アルバンさんは急いでベルンハルトさんを助けようと降りようとしている。
「…良い部下だ、本当に、良い…弟だ。」
そう言ってベルンハルトさんはナイフを取りだし、ネットから手を離した。
「隊長ぉぉぉ!!!」
アルバンさん達の声も虚しくベルンハルトさんは海に落ち、ザバンとなった後、白い泡が出来ていたが段々と赤い色の泡が浮き上がってきた。
「兄さん…」
アルバンさんはこの光景に呆然としていたが隊員達に励まされながら甲板に登りきった。背景では幽霊船が轟音を立て、巨大な泡をふかしながら沈んでいた。
「ベルンハルトさん…」
俺は静かにベルンハルトさんが沈んだ場所で黙祷をした。
「…なに、あれ?」
舞奈佳さんが後ろで呆然とした表情で空を見上げながら指を指している。甲板にいる乗組員達全員がそれを見て驚愕した。舞奈佳さんが指さしている先にはあまりにも巨大なスケルトンが赤く目を光らせ、こっちに不気味な顔を向けていた。
…どうやら、ベルンハルトさんの命だけでは物足りないようだ。




