別れの引き金
鉄臭い廊下、サビで割れた隙間から雨漏りで1滴、また1滴、ポツンポツンと地面に落ちている。俺は今、奇妙な軍人に銃口を向けられている。ポツンポツンと雨漏りが音を立てる度、俺は呼吸を乱した。
「質問だ、答えろ。」
ガスマスクでごもった声が聞こえた。
「君はなぜ、ゾンビになっていない?」
ゾンビ?なんだそれ。俺は首を傾げた。
「あの、どういうことですか?」
ガスマスクの軍人は銃口を俺の額に押さえつけ、声を荒らげた。
「何故ゾンビになっていないのかと聞いているんだ!!ゾンビにならないということは、あの石を持っているのか!?」
「石!?なんですかそれ!?」
急すぎて頭の処理が追いつかない。するとガスマスクの軍人が俺の顔を少し見つめた後、ゆっくりと拳銃を下ろし、ボソッと言った。
「奇妙だ…」
「え?」
「本当にあの石を持っていないのか?」
「ですから、なんですか?その石って言うのは…」
突然、ガスマスクの軍人の背後からガスマスクをつけ、ヘルメットを被っている武装した5人組が小走りで駆け寄ってきた。
「隊長、このフロアは掃討完了しました。」
どうやらこのガスマスクの軍人は隊長のようだ。
「よくやった。…おい、あと一人足りないのだがどうした?」
それを聞いた隊員の1人が少し取り乱した。
「隊長、それが…」
すると隊長は何かを察したのか、少し重い息を吐いた。
「案内しろ」
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隊長と隊員達と一緒にライトを照らしながら先に進むと、隊長達と同じ武装をした人が1人、壁に寄りかかりながら倒れていた。辛うじて生きているが所々噛まれたような痕跡が残っており、首にはアルバンと刻まれたペンダントをかけている。どうやらこの人の名前のようだ。すると、さっき取り乱しながら報告していた1人の隊員が話し出した。
「僕を庇ったせいで、彼はゾンビに襲われて…」
「…そうか」
そう言った直後、隊長はアルバンさんの頭に銃口を向けた。
それを見た報告してきた隊員の1人が動揺した。
「ま、まってください隊長!!」
すると隊長がまるで怒りが籠った声で喋りだした。
「何故始末しなかった?」
「それは…」
「君は知っているだろ、見てきただろ?この7日間、この船に閉じ込められてから、20人もいた我々の軍隊、そのうちの半数以上が死んだ。それもゾンビになってだ!!そして我々で始末した。同胞をだ。何故だか分かるか?我々を襲ったからだ!!」
「…。」
7日間もこの船に閉じ込められていたのか、それに20人以上もいたのにゾンビに…俺がそう思った時、隊長は冷静な口調で喋り始めた。
「噛まれればゾンビになる、そして我々に危害を加える存在になる。彼はゾンビに噛まれた、君は見たんだろ?」
「…はい。」
「なら、やる事は一つだ。」
そう言って再びアルバンさんに銃口を向ける。引き金に人差し指をそえた時、アルバンさんがゆっくりと右手を動かし、ペンダントを掴んだ。
「隊、長、おねが、いが、ありま、す」
アルバンさんはペンダントを外し、隊長にペンダントを差し出した。
「これを、つま、に届け、てくださ、い」
差し出されたペンダントを見た隊長は違いな回答を返した。
「断る」
それを聞いたアルバンさんは少し笑った。
「やっぱ、り、冷た、い、少、し安心し、ました」
「喋れる体力があるなら、己で妻にペンダントを渡してみたらどうだ?」
「それ、は、むり、で、すよ」
「…そうか」
俺はただ見ていた、アルバンさんの最期になろう会話を。
ふと、ズボンのポケットに違和感を覚えた。ポケットに手を突っ込むと何かが動いている。取り出すとそれは手帳だった。しかも何もしていないのに手帳が震えている。すると突然、勝手に手帳が開き、紙に文字が浮かび上がった。
あるばんにふれろ かれをたすけろ
そう書かれていた。
「では、さらばだ。我が部下よ。」
顔を上げると隊長が引き金を引きかけている。俺は咄嗟に叫んだ。
「待ってください!!」
隊長は引き金から指を外し、俺の方を見た。
「なんだ?」
「もしかしたら、アルバンさんを助けれるかも」
「なに!?」




