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12.精霊の瞳

 『レオドラ平原撤退戦』開戦3日前。


 エリシアはボーチ平原で移民を魔獣から守る部隊を指揮していた。

 移民が通る開拓されていないルートは魔獣の出現率が高く、昼夜交代で警戒する必要があった。


「エリシア、先程レオドラ平原から伝達が届いたよ。向こうは食料の調達に手間取っていて出発が遅れているそうだ」


「出発の目処は立っているのですか?」


「出発は3日後になるらしい。人族軍がレオドラ平原に到着するにはまだ時間がかかるはずなんだが、どう思う?」


「3日後ですか……。そうですね。心配ですが……、少し考えても良いでしょうか?」


「ああ。わかった。だがもしエリシアがレオドラ平原に行くなら俺も行くからな」


「ええ、ふふふ。ありがとうございます。オルレイ」


 オルレイ・フォリスは最後のメリア大使。彼は『サパースールの戦い』にも空戦団の一員として参加していた。エリシアの指示で戦線を離脱したことで、双星の爆発から生還することができた。



 エリシアは思考を巡らせる。


 人族軍がレオドラ平原に到着するにはまだまだ時間がかかるはずだ。今は移民を守る仕事に集中しなければいけない。


 しかし思い出してしまう。

 『サパースールの戦い』を。

 あの時、エドやサラサ、ボボは全身が深い傷だらけで骨折箇所も多く死こそ免れたが瀕死の状態だった。

 そしてあの戦いで祖父リリウスを含めたたくさんの大切な人を失った。


 エリシアは不安にかられた。



 その夜、エリシアはある魔法に挑戦する。


 レベル6の風魔法『天風 千里眼』である。

 伝承に残るその精霊の瞳は己の魔力を風に乗せて何処までも遠くを見渡す魔法。


 終戦から1年以上、エリシアは魔法や魔力についてずっと研鑽けんさんしてきた。

 そしてアテナは言っていた。レベル6の魔法を使うには精霊と対話ができないと話しにならない、と。


 エリシアは一つの仮説を立てていた。


 それは己の中には全く別の2種類の魔力があるというものだった。


 獣族のように肉体を強化する時に使われるのは自分自身の魔力。そして風魔法を放つ時に使われている魔力は自分とは別の存在、風の精霊そのものの魔力なのではないか、という仮説。


 龍人族、魔創神ベルダンが風の精霊と人族を配合して生まれたのが風の精霊エアリス。

 風の精霊の元々の名、真名まなは『シルフィ』。


 エリシアは己自身の魔力を意志に変える。

 それは魔力で肉体を強化する技術の延長線上にある。


「シルフィ……『……ッ?』」


 魔力を意志にしてその名を呼ぶと僅かではあるが心の中で反応があった。



「風の精霊シルフィ様なのですか?『……あははっ、マナに愛された3番目の子、エリシア」


 エリシアの心に明るく温かい子供のような声が響く。

 エリシアは悟った。これは精霊本人ではなく精霊の遺伝子なのだと。思考や感情はなくこちらの呼び掛けに決められた答えを返すだけの存在。


 それでもエリシアは願う。


「大切な人を守りたい。シルフィ様どうか私にそのお力をお貸しください。『エリシアあなたに力をあげるね』


 …………天風 千里眼!!」





「あ゛っあ゛あああっ、目がッ……やけ るっ」


 エリシアの美しいエメラルドグリーンの瞳はシルフィの強力な魔力に浸食されてみるみる濁っていく。そして光が消え、瞳は深く濃い緑色になった。



 エリシアの脳に何処までも先の視界が次々に飛び込んでくる。


 ゼムリア山脈を越え、レオドラ平原を抜けて、農村の村々を通る。人族軍が視界に入った。だが、それを注視することはできず、視界は更に先へ進む。王都を通り抜けたかと思うと、すぐにサパースールを過ぎていた。懐かしいウィスターから海に出てもまだまだ視界は進んでいく、海は広く何処までも続いている。さっきまで視界の端に見えていたのはアトラス大陸だろうか。それでも視界は止まらない。


 ――だが。


「ひっ!」


 エリシアは恐くてまぶたを閉じた。


 視界が先に進むのが恐かった訳ではない。

 誰かと目が合ったのだ。いや、女性のような目をしていたが人かどうかも分からない。金色こんじきの瞳に黒い縦長の瞳孔。鋭い目付きで不機嫌そうに此方を睨んだ。


「はぁ はぁ…………。今のはなんだったのでしょうか」


 足が震えてその場でへたりこむ。

 とてつもないプレッシャーを感じ、体からは汗が吹き出た。



 座り込み心を落ち着かせると、目を閉じているのに、周りがよく見えていることに気付く。

 目をあけて見ていた時よりも視界が広く遠くがはっきりと見えた。


 暫くして、(えっ?これ、元に戻らないですね)と一瞬思ったが、それよりも人族軍がいた場所がレオドラ平原に近い農村だったことでエリシアは行動を起こす。



「オルレイ起きていますか?」


「んっ?ああ」


 エリシアはオルレイのテントの前で小声で呼び掛けると、オルレイはテントから顔を出した。


「オルレイ、人族軍の位置が掴めました」


「なっ、……どこなんだ?」


「エソッフ村です」


「近いな。1日もあればレオドラ平原の移民キャンプ地に行けるぞ。けど、とうして分かったんだ?それに……、エリシアなぜ目を開けない?」


「天風 千里眼を使いました」


「なっ!?…………まじかよ」


 オルレイは心底驚いた。

 数千前の記録が残る世界樹フォリスにレベル6の風魔法に成功したという記録がないからだ。

 だが同時にエリシアならいつかやると思っていたオルレイはすんなりそれを受け入れられた。


「それでどうする?」


「明日の早朝、まだ皆が寝静まっているときに私1人でレオドラ平原に向かいます。オルレイ、ここの指揮を頼めますか?」


「ああ、それは構わないが……」


「オルレイも来てくれると言っていたのに、すみません」


「いや、いいんだ」


 オルレイは天風を成功させたエリシアに言葉が出なかった。

 彼女に何かを伝えるには自分が余りにも実力不足だと感じたから。




 翌朝、エリシアが荷物を持って巨鳩に乗ろうとした時、声を駆けられた。


「エリシアーっ!俺達も行くぞっ!」


 エリシアが振り替えるとそこにはオルレイを先頭にエリシアが率いていた巨鳩空戦団エリシア隊28名の顔があった。


 そして。


「久しぶりだねぇ、エリシア!ここはガルレオンの女が留守をあずかる。しっかり守っておくから安心して暴れてきなッ!」


「ボ、ボンバさんっ!?…………本当に……お久しぶりです」


 ボンバに気付いたエリシアは驚き、それから優しい顔になった。


 ボンバ・ガルレオンはボボの母親にしてサラサの乳母。身長は192センチ50代の女性とは思えない、6個に割れた腹筋とエリシアの腰回り程ありそうな上腕二頭筋。

 他にもたくさんのガルレオンの女性がいた。エドの親戚やサラサ出産の時に立ち会ってくれた産婆さんなど皆エリシアがガルレオンの村で大使をしていた時にお世話になった人達である。


「この子は……?」


 その中に2、3歳くらいの男の子がいた。若いガルレオンの女性に抱っこされてエリシアを見ている。


「ああ、あんたは初めてだったね。ボボとサラサの息子だよ」


「やっぱりそうですか……。小さい頃のサラサによく似ています」


 エリシアの目から一筋、涙がこぼれた。


「ふっ、あたしも歳を取ったよ。もうおばあちゃんだ」


「……もし、……サラサが私の本当の娘だったら私もボンバさんと同じ、この子のお祖母さんでしたね。ふふふ」


「何言ってんだい。あんたもこの子のおばあちゃんだよ!あはははっ」


 ボンバが笑いエリシアも涙を拭い笑った。




「エリシアすまなかった。ガルレオンの人達が一つ前の野営地にいる情報が入ったから夜中の内に相談に行ったんだ」


「……オルレイ」


「さぁ、行っといで!あたしらの強さはあんたが一番よく知っているだろう?ここはあたしら任せなっ!」


「はい!ありがとうございます。ボンバさん!オルレイもありがとうございます」


「はははっ。おーっし!みんな出撃だ!」


 オルレイが叫ぶ。


「ふふふ」




 真剣な顔をしたエリシアは皆の前で――。


「これより巨鳩空戦団エリシア隊はレオドラ平原に向かいますッ!今、友が窮地に立とうとしています。私達はガルレオン族と共に人族軍と戦い、私達は……、全員で生きて戻りましょうッ!!」


「「「「「おおおおおおおおおおッ!!!」」」」」


 朝日を浴びたボーチ平原には心地のよい風が吹く。

 そんな中、風族を乗せた巨鳩が次々に離陸していく。


 目指すはレオドラ平原。








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