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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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国家機関お墨付き

「特に問題は見られませんね、毒を受けたとかそういう感じはないです」


 研究機関で色々調べてもらった結果、たったそれだけの言葉ですべてが終わってしまった。


「本当になにもないの? はっきり言ってこの子異常だけど、あんな毒受けて平然としてられるとは思えないわ」


 祥子さん……酷い言いぐさ。


「こちらとしても信じられませんよ。でもデータがそれを実証しています。ご覧になりますか?」


「見せてちょうだい」


 何かのデータをつらつらと見ていく祥子さんの表情は真剣そのものだ。

 下手にちゃちゃ入れると後が怖いので黙っておこう。


「おかしい……本当に何の異常もない……病気すらなく血糖値も脂肪率も含めて全部平均かそれ以下⁉ せっちゃんあなた何でできてるの⁉」


「なにって言われましても……」


 漫画ネタ持ってきて水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素ですとか言ったらぶん殴られそうね。


「せっちゃん、レシートは持ってるかしら。さっきまで食べ歩きしてたんでしょう?」


「あ、はい」


「出して、今すぐ、全部!」


「はい!」


 鞄の中から何回も折り曲げて束になっているレシートを出す。

 お財布に入りきらないのよね……食べ放題だけだとメニューが足りないから追加注文していくんだけど……。

 というか食べ放題って時間長すぎると思うわ。

 30分も食べ続けたらお店から「もう食べ放題で提供できるお肉がありません」って言われちゃうし。


「これは……」


「せっちゃん……肝臓刺された後でお酒飲むとか正気?」


「焼肉屋さんに行ったらお肉、ご飯、ビールは三種の神器じゃないですか!」


「いやだからって……この量はどうなの?」


「健康に配慮していつもよりも少なめですが?」


 今日はさすがに控えようとほろ酔い感覚で済ませたんだけど……そういえばどのくらい飲んだかまでは覚えてないわね。

 量よりも感覚で飲んでるから。


「軽く見積もっても……30合は飲んでますね。血液中のアルコール濃度は平常値なんですが……」


 そんなに飲んだかしら……いつもならその半分でほろ酔いになるからやめるんだけど。


「レシート見る限り最後に飲んだのは……2時間前⁉」


「どうりでほろ酔い感覚も抜けてきたわけですね」


 私の言葉に祥子さんががくりと肩を落とす。

 何か変なこと言ったかしら、2時間もあればお酒は抜けると思うけど。


「毒が効かないわけだわ……」


「……他のデータも出たみたいです。確認されますか?」


「えぇ、一応見せてもらうわ」


「どうぞ」


 再び祥子さんがモニターとにらめっこを始めるけれど、その表情がどんどん異物を見るような目に変わっていく。

 例えるならそうね、お父さんがお祓いに行った時に妖怪化していた人間を見たような表情。


「この肝機能と胃の働きについて聞きたいんだけど……」


「それはこちらとしても非常に気になる所です。何が何やら、原因不明としか言いようがありません」


「だけどこの数値はおかしいでしょ。それにこの子の血って……」


「えぇ、正直に言ってしまえば今すぐここに隔離して外部との接触を禁止しつつ研究させていただきたいくらいですよ」


「それは許可できないわ……いえ、わかって言ってるんでしょうけど」


「さすがに人並みの倫理観はありますよ。しかしそれでも少量の血液サンプルを頂けたらと思いますね」


「だったら今はあきらめなさい。先日手術を受けた際に輸血されてるから」


「そのうえでこの数値ですか……だとしたら、相当我の強い細胞の持ち主ですね」


「本人も我の強さでは右に出る者がいないレベルだからね」


 何やら難しい話をしているみたいだけど……私置いてけぼり?


「祥子さん、何がどうしたんですか?」


「んー、せっちゃんには話しておいた方がいいかしら」


 白衣の研究者さんと顔を見合わせて頷き合い、そしてため息をついてから祥子さんは語り始めた。


「まずせっちゃんの肝機能と胃の働きだけど、常人とは別次元よ。そこは自覚あるかしら」


 肝機能と胃……?

 普通の人よりご飯を多く食べるけどそのくらいよね。

 あ、毒に関しては他の人よりも強いわね。

 その辺のことを言っているのならまぁ……でもそこまで突出したものじゃないと思うけれど……。


「あのね、普通の人間は50軒もお店をはしごして全店舗の料理を食べつくすなんてしないから」


「知り合いのとーてつさんはその倍行けますよ?」


「だまらっしゃい! どこで見つけてきたか知らないけれど、自分より上を出さない! 話がややこしくなる!」


「あ、はい」


「それにアルコールが2時間で完全に分解されるとか普通ありえないから! この量を飲んでそれってもはや人間の常識をはるかに超えているわよ! というかこの量はもはや毒と変わらない!」


「はぁ……私の知り合いは……」


「せっちゃんの知り合いはもう結構! 人外みたいな人ばっかりなのはわかったわ、だけどあなたは人間としては並外れているのよ」


「んー、でもいたって普通の人間ですよ?」


「それはどうかしら?」


 なにやら勝ち誇ったような表情で祥子さんが腕組をする。

 つつつと椅子を引っ張ってモニターの前に連れていかれた。


「これを見て、血液サンプルの研究データなんだけどあなたの血液反応よ。毒蛇の毒も効かず、一酸化炭素を無視して酸素と結合する赤血球、自棄を起こした研究者が開発中の細菌兵器をぶち込んでみたけど完全に無害化されたわ。この意味が分かる?」


「えーと、頑丈?」


「はい正解!」


 すぱこーんと頭をひっぱたかれた。

 結構いたい……。


「あのねぇ、頑丈すぎるのよ。人知を超えた何かよこれは。あなたの血液で人類が救われる可能性だって出てくるほどにね」


「そんな大げさな」


「大袈裟どころか過小評価よ……それにあなたの体内を調べた結果、癌細胞の欠片も見つからなかったわ。細胞の循環は常人の数倍、本来ならそれに応じた速度で老けていくはずなのにせっちゃんの肌はこの通り」


 今度はほっぺをつねられる。

 むにーと伸ばされて、違和感。

 別に痛くはないんだけど……。


「専門的な立場から申し上げますと、伊皿木刹那さんの肉体は人間と大差ありません。しかしその内臓や血液に関しましては……その、人間離れしているとしか言いようがありません」


「はぁ……」


「せっかくなのでお聞きしたいのですが、今これだけ食べた証拠がありますよね。そのうえでどこかに行こうとしていたようですが……まだ食べられるんですか?」


「ビュッフェに行こうと思ってました。まだ腹半分ってところですね」


「……その半分を埋めるにはラーメン何杯分とかわかります?」


「えーと……ざっくり1000杯は行けるかなと」


「なるほど……常人なら塩分過多で死にますね。余裕で致死量です」


 そうなの?

 祥子さんに視線を向けるとゆっくり頷いてきた。

 へぇ、普通の人ってそんなに脆いんだ。


「まぁ塩分過多になる前に胃がはちきれるわね。文字通りの意味で」


「その前に体が拒否反応起こして吐きますよ」


「それをものともしないって……」


「っと、新しいデータです。採血させてもらった血液から速攻で各種病気に対する薬を作ってみたそうです。こんな面白い機会は今後一生起こらないかもしれないと張り切ったとか書いてありますが……」


「どうしたの?」


「現代でも難病とされているものが数多くありますよね。ガンとか糖尿病とか、精神面に関してはうつ病などもそれに含めていいかと」


「えぇ、それをマウスで試したの?」


「はい、極限のストレスを与え続けたマウスに投与した結果……先日保健所が捕まえた熊を殺しました」


「……後処理は?」


「毒は効かず、催涙ガスで意識が昏倒したところを処理したそうです。残骸も残らぬよう血液採取後テルミットによる焼却が行われたと」


「そう……他には?」


「ガンと糖尿病、脂肪肝のマウスに投与したところ全て順調に回復。今では全快したそうです」


「この短時間で?」


「反動で食事量が今までの数倍から数十倍になったようで、先ほど死亡したと……老衰だそうです。まだ若いマウスだったのですが」


「……絶対人間には使っちゃだめよ」


「そうですね、これこそある種の兵器ですよ」


 何やら酷いことを言われているのはわかる。

 わかるんだけど、私のことだから口をはさむと面倒なことになると思って何も言えない。

 小心者は辛いわ。


「ちなみにこのデータなんですが、興が乗ったとかで馬鹿がマウスに経口摂取させたんですよ。水で希釈した物なんですけどね」


「ほうほう」


「全身の毛が抜けてありとあらゆる穴から血を吹き出して死にました」


「……研究はストップよ、今回のデータは全て皇居地下の保管庫に。いいわね」


 それからは祥子さん達が何やら難しい話を始めたので、私はというとうつらうつら舟をこいでいたら肩を叩かれて目を覚ました。

 そしてそのまま帰ろうという話になったので、豪勢なリムジンに乗って帰宅することに。

 お腹が減ってきたので、せっかくだからスーパーによってもらって食料を買い込んで帰路に就いた。

 いやぁ、広い車でよかったわ。


「あ、せっちゃん。献血とかしたことないわよね」


「はい、注射苦手なんですよ。ナイフとか包丁なら別にいいんですけど、細い針が刺さるのってどうにも苦手で……」


 ちなみに辰兄さんの浮気相手と勘違いされて刺されたことが3回ある。

 さすがに追い出すかどうかという話になったけど、外でやらかされるよりも監視しようという事で今も実家住みしてる辰兄さん。

 私も最初は一人暮らし反対されたっけなぁ……。


「今後献血禁止、それと免許証とかの臓器移植は全部NGにしておきなさい」


「はーい」


 よくわからないけれどいう通りにしておこう。

 ……なんか今日はいつもより体調いいけれどなんなのかしら。

 食欲とかも増してるみたいだし……刺されてまとまった休暇が取れたからかしら。


重要なのは「結果的に毒みたいな反応出してるけど毒じゃない」という部分だったり……。

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― 新着の感想 ―
無限に無得続ける細胞を持つ女とかいましたね…… 未だに各国の研究機関で培養されつづけて皮膚移植とかに使われてるとか…… つーかどこのグルメ細胞ですか?
[良い点] アメコミだったら血に適合して新たな超人生まれる展開のやつじゃないですかコレ。 なんでそんなトンデモキーアイテムじみた血が(自称)人間由来なんですかね。
[気になる点] 蛇が死んだのはやっぱり血が理由なんだ
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