突発!
しばらく二人とクエストをこなしたり、町中を散策したりして遊んでいた時だった。
不意にそれは訪れた。
『グランドクエスト:人外魔境の砦を開始します。グランドクエストとはプレイヤー全員が参加を許されたクエストです。結果次第で今後のマップ環境に影響が出ます。クリア条件1、人外魔境の砦を攻略する。クリア条件2、実態を公表して他国を動かす。詳細は添付されたデータをご覧ください』
そんなメッセージが目の前に現れた。
「ぐらんどくえすと?」
クリスちゃんが不思議そうにその画面を眺めている。
祥子さんは以前データをおくったからか、興味深そうにしているわね。
「説明に書かれている通りマップ環境とかに影響が出るクエストよ。詳細データを見ればどこで発生したとかわかるんだけど……これは南の聖都がある街よりさらに先ね」
ちなみに聖都は常に教会と同じ聖属性エリアが展開されているので私は短時間しか行動できない。
だから時間が空いたときに行くだけ行っておこうかなと思っていた場所なんだけど……。
「私このクエストやりたいです!」
クリスちゃんはすっかり乗り気、まだレベル8だからそんなに無茶できないのよねこの子。
ただそれでもRFBでリアル水準の戦闘力を持っているから……ゲーム換算だとレベル30代の化け物プレイヤーくらいはあるのかしら。
いえデメリット持ってないから下手したらレベル50代のプレイヤーにも届くかもしれないわね。
対する祥子さんはというと……。
「人外魔境……」
その一言が引っかかっているのか、顎に手を当てて動かなくなってしまった。
「私は中立なんで二人で話し合って決めてください」
そう言って一歩下がるとクリスちゃんと祥子さんが見つめ合い、そして軽く頷いた。
「参加しましょう」
「参加する方向で行きましょう!」
あら、意外とあっさり決まっちゃった。
「クリスちゃんはともかく、ミカさんはいいんですか?」
「えぇ、そろそろ怖いのも克服したかったから……」
あぁそういう……。
まぁこのゲームを始めてから少し精神も安定してきたし、よわよわになる場面も減ってきた。
下水道みたいな暗い場所でのドッキリはまだ慣れないみたいでよわよわになってるけど、今までの強気なキャリアウーマン祥子さんに戻るにはいいきっかけかもしれないわね。
「じゃあ飛びますか。ミカさん行けますか?」
「えぇ、飛行に関してはマニュアルでも問題ないわよ」
さすがハイスペックお姉さん。
一番の懸念材料が消えたから、問題はクリスちゃんだけど……。
「クリスちゃん、私達に掴まっていくのとブランコみたいに座っていくのどっちがいい?」
「なんですかその二択」
「いえ、掴まってもらうなら手を掴んで宙づりになるのよ。この場合私達は動きやすいけれどクリスちゃんの負担が大きいの。逆にブランコみたいにするには私とミカさんがロープを掴む必要があるから、クリスちゃんの負担は減るけれどミカさんの負担が大きくなるかなって」
「それならミカさんに聞くべきでは?」
「マニュアルで飛べる人に聞いてもどっちでもいいっていうに決まってるから。特にこの人はね……」
祥子さんその辺結構適当な人なのよね。
以前ロシアで一緒にお仕事した時に銃を持ち歩く機会があったんだけど、何がいいかって話になった時に適当に選んでたわ。
目についたからってトカレフを持って行った辺り、まぁその勘は悪くないと思うけど。
ちなみに私は浪漫の塊であるデザートイーグルをチョイス。
あの反動は気持ちよかったなぁ……お腹にずしんと響く感覚、お腹が減る感じがしてたまらないのよ。
「じゃあせっかくなんで楽させてもらいたいです。いざという時はどちらかがロープ放してくれたら自由に動けるじゃないですか。それで私がロープ掴めばいいだけですから」
「そう、じゃあ行きましょうか」
インベントリから取り出したロープはパンドラから出てきた物体。
呪われた首つり紐という名称のアイテムで装備品としての性能はそれなりの代物。
鞭として使うんだけれど、攻撃が命中した相手にランダムでバッドステータスと、何かしらのステータス減少効果をもたらすんだけれど装備している間はあらゆるバッドステータスとステータス減少効果を受けるという酷いもの。
まぁ装備しなければいいだけだから、かなり長いこれを束ねて掴んでクリスちゃんに座ってもらい二人で飛び上がる。
「うわっ、これ結構バランス感覚必要ですね」
「あ、やっぱり? こっちもミカさんが相手じゃないとうまく合わせられないかなと思ってたんだ。たぶん適当な人と一緒にやっても乗ってる人が落ちると思う」
「……それ、普通検証してからやりません?」
「検証する時間と、イベントに割く時間どっちのがいい?」
「イベントです!」
はいちょろい。
クリスちゃんはねぇ……なんというか扱いやすいのよ。
思考がどこかしら私と似ているからこういえば納得するかなぁ、って内容を言えば本当に納得してくれる。
その点祥子さんは理屈で行動するから感覚派の私が言いくるめるのは難しい。
「それで、フィリア換算でどのくらい時間かかると思う?」
「そうですねぇ……経験上そんなに時間はかからないと思うんですけど、だいたい10分くらいでしょうか」
「結構近いのかしら」
「いえ、今の速度で飛んでいるから10分です。普通に歩いたらゲーム内時間で明日になりますね」
森の中を進むのと空を飛ぶの、どちらが早いかという問題もあるけれど途中で敵にエンカウントする確率とかを考えるとね。
南の森は敵が少ないとはいえ入り組んでいるし、あの巨大な湖がある。
妲己のいるあれね、あそこを通過するには船を使うか迂回するかなんだけどそれで大幅に時間を使うことになるでしょうね。
さらに水辺や水上はエンカウント率が上がるらしいから、消耗を避けたいならかなり早い段階で迂回しなきゃいけないから相当遠回りになる。
下手したら一度白銀の塔に行ってから南下する方が早いまであるわ。
どちらにせよ日をまたぐけれどね。
「わぁ、すごい湖」
「ここは隠しクエストがあるのよ。ミカさんは初期の性能的に何かしら対策しないと挑めないかもしれませんけど、クリスちゃんならいけるんじゃないかしら」
妲己の瘴気は聖属性プレイヤーにとっては毒だからね、天使は人間よりも瘴気に弱い種族だから多分鏡の中に入る前にリスポン。
精霊もそこそこ瘴気を苦手とするけれど、デメリット積んでないなら時間制限があるくらいかしら。
「へぇ、それってどんなクエストですか?」
「種族追加系のクエストよ。これこれ」
狐の尻尾を装備から出してちょいちょいと指さしてみる。
「わぁ、もふもふだ」
「ちなみにこういうのもあるわ」
そう言って出すのは人狼の尻尾。
「こっちももふもふ! でも色が違いますね」
「最初に出したのが狐の尻尾ね、妖狐って種族なの。後に出したのは人狼の尻尾よ」
「あぁ、もふもふにいやされるぅ……」
クリスちゃん、勝手に人の尻尾に顔うずめて満足しないでほしいんだけど……この子の前で尻尾出したのが失敗だったわね。
今下手に尻尾しまうとバランス崩されそうだからこのままにしときましょう。
ちょっとこしょばゆいけど。
「……いいなぁ」
「……ミカさん、あとで触ります?」
「触る!」
この二人、案外似た者同士かもしれないわね。
そんなことを考えていたら湖が終わり、そして真っ白な建物が並ぶ立派な街並みが見えてきた。
ヒント:南にいる問題児、だーれだ




