カジノ
不夜城についたころには日も暮れて、ライトアップされた街並みがはっきりと目に映る。
蜃気楼の類かなとか考えたりもしたけれどどうやら実在する場所みたい。
「あ、おじさん。ここってどんなところ?」
通りすがりのNPCに声をかけてみる。
ちらほらプレイヤーもいるから私が最初に到達したというわけではないみたい。
「ここは砂漠の街、ナイトメアタウンさ」
「悪夢の街って、結構な呼び方ね」
「まぁそれには理由があってな。まずこの街を治めているのが夢魔なんだわ、領主さまとでもいうべきかもしれんけどそれが一つ目」
「いきなりつっこむけど、いいのそれ?」
「あぁ、領主さまの好物が人間の悪夢なんだよ。だからこの街に住んでいる限り悪夢は見ない、そういう夢に困った人間が行きつく街でもあるね」
まぁ大半は途中の砂漠で死ぬけれど、とあっけらかんと笑って見せるおじさん。
なるほどね、夢にも味の違いがあるのか……でもこの街で私が下手に夢を食べると混乱招きそうだから自重しましょう。
あくまでも自重するだけで、食べないとは言わないけれど。
「それで他には? その口ぶりからするといくつか理由があると思うんだけど」
「あぁ、単純にこの街が悪夢を生み出す元凶でもあるからだな」
そう言っておじさんが指さした先にあるのは二つの建物。
一つは豪華絢爛と言った様子の奇麗な建物で、もう一つは頑強さのみを追求したようなシンプルなもの。
「あれは?」
「キラキラしてる方がカジノ、各国の貴族や王族もお忍びで通うほどの場所なんだが……かける金額によっては国が崩壊することもある危険な場所さ」
「そんなにお金持ってないけど、私も参加できるの?」
「あぁ、そういうお偉いさんは裏のVIPルームで賭けをするからな。俺達みたいな一般人は表でちまちま遊ぶだけだから破産するような奴はめったにいない」
「それでも破産する人はいるんだ」
「そういうやつが行くのが隣の建物だ。あそこは武器工場でな、それも人間の負の感情をカジノから吸い上げて剣に付与して人工的に魔剣を作っているんだ。その剣をいろんな国に売りさばいて得た金を元手にカジノを回している。よくできた仕組みだろ」
なるほど、確かに奇麗な循環をしている。
ただ、どちらが先にあったのかを考えると少し怖いわね。
「ちなみにカジノでは専用のチップを使うが、後で換金できるから心配はいらないぞ。やろうと思えば金を借りることもできるが利子が酷いからやめといたほうがいい。それとチップは景品と交換できるが、誰が好んで交換するのかわからないものもあるな」
「へぇ、ありがとおじさん。これお礼ね」
そう言って少額のお金を手渡す。
この手の街だとこういうのは必要経費だったりするのよね。
ラスベガスに行ったときに教わったわ。
「おう、嬢ちゃんはわきまえてるな」
「まぁね、それなりに経験豊富なのよ」
「はっはっはっ、ならカジノでカモにされることもないだろうよ」
そう言って去っていくおじさんの背中を眺め、どうしようか迷う。
まずカジノがあるこの街はそれなりの発展をしている。
たぶん砂漠を超えるための方法がいくつかあるんだろうけれど、一般人はそれを知らない。
私みたいに強引に突破するという手段もあるけれど、その結果死ぬかもしれないというのはおじさんが言っていた通り。
まぁその辺はあまり深く考えないけれど、ここも一応グンダの街がある国の勢力圏内……いえ境界線上なのかしら。
地図みたいなのがあればいいんだけど……その辺りも聞いておくべきだったわね。
武器売買をしているという事はグンダ関連かもしれないけれど、中立という可能性だってあるわ。
うーん、深く考えても時間がもったいないしまずはカジノに行ってみますか。
と、途中で屋台によって適当に料理をつまみながらカジノに入る。
中ではお金をチップに換えるんだけど、とりあえず3万リルくらいでいいかしら。
チップ換算で300枚だから1枚100リルってところね。
景品は最低が1000枚からとなっているのを見るにお金に換算すれば10万リルスタートとなるけれど……置いてある景品見てもパッとしないわ。
一つ気になるものがあるとすれば5000枚のチップで交換できる「不思議の箱」というアイテム。
フレーバーテキストは自由に読めるようになってたので見ると「箱を開けた者のみが使用できる武器、あるいは防具が手に入る。ただし今後同名の物を手に入れることはできない」となっている。
ユニークアイテムよねこれ……ちなみに桁をあげるたびに「不思議の箱EX」とか「不思議のパンドラ」とかそういうのがあって最高額はチップ500万枚。
多分レアリティや性能に直結しているんでしょうけど、私は小手があるから必要ないのよね……。
でもまぁ久しぶりに遊ぶのもいいか。
スロットに、ポーカー、ルーレットにバカラにブラックジャック、他にもいろんなゲームがあるわ。
じゃあまぁ王道のスロットから行きますか。
えーと、この台はダメね。
こっちもダメ、あの台はいいけれど人が座ってる……お、これね?
日本だとパチンコとかもそうなんだけど、こういうスロット台には結構隠されたポイントがある。
特定の台だけ出やすいとかそういうの。
なんでそんな仕掛けをするかというと、他のプレイヤーに夢を持たせるため。
基本的に良い台にはカジノ側のサクラがいるんだけれど、大勝できるようなのには座らせないのが原則。
だって、お給料よりもそのサクラで稼いだチップの方が多いってなったらトラブルの元だから。
だから普段はそういう台に座るのはカジノの元締めとか、あるいは接待するべきお偉いさんなんだけれど今日は運よく空いていたので座る。
チップを投入していって300枚全部入れる。
外れても問題ないからね、そのまま数回回すと7の字が二つ繋がった。
あとは最後の一つを並べるだけなんだけれど……演出がくどくて疲れるわ。
適当に買ってきたおやつを食べながら結果を待つと予想通り7の数字がぴたりと止まる。
はい、777倍頂き。
じゃらじゃらと落ちてくるチップがどんどん光の粒子になって私の手持ちになっていく。
はい、次。
じゃらじゃらという音を何回も聞き、そしてそろそろカジノ側が手を打ってくるかなという頃合いでチップを全て手元に戻して席を離れる。
周囲を見るとスーツ姿の男性やバニー姿の女性がこちらを注目している。
……なんというか古典的よね。
賭博の基本は場を読むこと、そして勝ちすぎると目を付けられるという事。
このまま帰ろうとしたら後をつけられる可能性が高いわ。
少なくともこれだけ大勝ちしてしまった手前、向こうが許してくれるかというとちょっと難しい。
資金源が他にあるとはいえ、ここでの出費は大きいはずだからね。
えーと、持ってるチップの枚数が49万6300枚……結構稼げたわ。
じゃあこのチップを元手に、もうちょっと遊んでから帰りましょうか。
せっかくだから不思議のパンドラでも狙ってみましょうかね。
あ、マンドラゴラの瓶詰なんてのもあるわ。
あっちの毒盛セットというのも気になる……。
でもこの身体脆いのよね、特に毒に対して。
リアルだったら毒ぐらい平気なんだけど……弱点持ってるからなぁ。
どこかの国で毒蛇に嚙まれたときは周囲が大慌てだったわね。
蛇の種類を正確に伝えるため捕獲して、だけどその血清がある病院まで3日かかるから私の命はもう短いという事で御馳走を用意してもらって最後の晩餐としけこんで大いに歌って踊って食べて騒いだわ。
そしてその三日後のこと、三日三晩苦しんだ末に毒蛇だけ死んだのよね。
私は三日間平然と過ごしてた。
あの時は周りの「なんでこいつ生きてるの?」って視線が痛かったわ。
私も経口摂取できる毒なら平気なのは知ってたけど、まさか毒蛇に噛まれても問題ないとは思わなかったから……病院で検査しても異常なしって言われちゃったし。
その辺りもフィードバックしてほしいものだわ。
毒蛇に噛まれたらすぐに病院へ、主人公がおかしいだけです。




