砂漠の不夜城
西に向かって飛ぶことしばらく、緑が減り茶色が増えてきた。
具体的には木が無くなってきてるのよね。
それに草原だったのに徐々に草が減って、荒れた土が見えている状態になっている。
うん、なかなかどうして見るからに……。
そう思っていると唐突に草原は終わりを迎えて、一面の砂漠が広がっていた。
日傘をさしながらの移動だったからそんなに速度は出してなかったけれど……これは人力徒歩だとゲーム内時間で二日くらいかかるんじゃないかしら。
もちろんそういう移動方面を補うための馬みたいな騎乗動物もいるんだけれど、私は使っていない。
というかうちの家系は代々動物に怖がられるから乗れないのよ。
お父さんもお母さんも、お爺ちゃんたちもお婆ちゃんたちも、私達兄弟もみんな揃って怖がられる。
道を歩けば散歩中の犬がお腹を見せてくるし、猫がこちらを見かければ脱兎のごとく逃げ出す。
カラスをはじめとした鳥はうちに近寄らないし、狸やイノシシも他の家では被害が出たというのにうちだけはなんのトラブルもなし。
最終的にクマが山から下りてきたという事件があったんだけど、その山と町をつなぐ直線状に実家があったことで迂回しようとしていたところをズドン。
他にも縁日で金魚すくいに行ったら私を中心に金魚が逃げて空白地帯ができたり、せめて命の大切さを知るためにとお父さんが買ってきたグッピーが家に入った瞬間死んだ。
それを機に私達は動物との触れ合いを避けるようになった。
学校行事で動物園とか行かなきゃいけない時もあったんだけど、野生の勘というべきか当日になって動物たちが全員何かにおびえるようにして震えてしまい急病の可能性があるため全面検査となって中止になったりもした。
そんなこんなでゲーム内でもその例にもれず、私も気になって馬を売っているお店に行ってみた。
大体10万前後スタートなんだけれど、馬屋に入った瞬間全ての馬が暴れだした。
唯一暴れなかったというか、居眠りしていた白い馬が私の顔面につばを吐きかけてきたくらいね。
豪胆な馬で、名馬なことに変わりはないんだけれど相当偏屈、しかも人を蹴るという事で高額なのに被害を与えかねないという事からプレイヤー間では不人気の馬だと聞いたけど、いい感じの肉質で美味しそうとか考えた瞬間に顔面に蹴りがとんできたわ。
あの馬は大物になるわね……。
馬と言えば競馬とかのギャンブルだけど、そういうのを主軸とした街が見つかっていない。
もしかしたらこの先にあるのかなーなんて思いながらも、草原の終わり、そして砂漠の始まりに向かって手を差し入れる。
予想通りというかなんというか、じゅっという音と共に右手から先が消滅したわ。
ゲーム特有の突然環境が変わるこれ、砂漠だから日差しも強いのかなと思ったけどやっぱりだったわ。
太陽光を一定時間無効化する太陽嫌いの称号だけど、その称号すら貫通するという事は上位称号があるという事。
街についてリスポン地点が更新されたら日光浴でもしようかしら。
とりあえず草原内では太陽光にも触れて大丈夫みたいなので日傘を砂漠地帯に突っ込んでから左足をその下に差し出す。
……よし、やはり日傘は正義ね。
太陽光を遮断してくれるから左足は無事、裾をめくってみるけど火傷のあとみたいなのもない。
これならいけるでしょうけど、念には念を重ねて予備の日傘を4本だす。
それを蔦でつかんで、飛行中の私を完全に守るように展開。
「さて、傘が翻らない速度でというのも難しい注文だけど……」
ふわっと身体を持ち上げる感覚で飛ぶ。
精密な操作を要求されている今、蔦だけでなく翼もマニュアルにしてある。
少しずつ練習してはいたんだけれど、何度かマニュアルで飛んだ時壁にめり込んで石の中にいる状態になって死んだりしたわね……。
姿勢制御とかよりも速度制御の方が難しかったわ。
それにすごく気を使うからお腹が減る。
ゲームではなくてリアルで。
まともにうごけるようになるまで丸一日リアル時間で練習したけど普段は5食なのがその日は倍食べたからね。
あれは太るかなぁと思ったけど案外平気だった。
思えばあれ以来ね、食欲が増したの。
それ以外で変わったことはなかったはず。
せいぜいがフレイヤさんにB級映画を何本か送り付けたお礼として、紫色の液体が入った小瓶を貰ったのよね。
なんだったかしら、にーずなんちゃらの……まぁなんかそんな感じのことが書かれていたんだけれど調味料にちょうどいいと言われたのでチャーハンにして食べたくらいかしら。
独特の風味だったけどおいしかったわ。
後日お礼の電話したら本当に食べたのかしつこく聞かれたから味のレポートを送り付けたらテレビ通話越しに首をひねっていた。
そんな変なものを送り付けたのかと聞いたら、私なら大丈夫だと思っていたと言われたけど……何だったのかしらね。
もし私以外が食べたらだめなものだったら大変だったのに、フレイヤさんもうかつよね。
天然のフグくらいなら丸呑みできるけれど、カエンタケくらいになると調理しないときついのよ。
さすがにあれはお腹が痛くなるから。
そんなことを考えながらじっくりゆっくり飛ぶこと数十分、日が傾き始めたので私も傘の方向を変えようとして復活した右手を動かすと死角になっていた箇所が開ける。
そこに見えたのは、夜であればこれ以上ないほどに素晴らしい造形だと思わせる、不夜城ともいえるような光景だった。
……昼間なのにライトアップしているのはなんなのかしら。
というかどういう技術よ。
主人公は特別な訓練を受けていません。
フグを丸ごと食べる人はいないと思いますが、カエンタケには絶対に触らず見かけても近寄らないようにしましょう。
ニーズヘッグの毒をチャーハンにするなどの行為をはじめ、よい子は真似しないようにしましょう。




