マラソン
「お、お姉さん。落ち着いて、な?」
「そ、そうだぞ。こんなのよくある子供のいたずらだ」
「その! 子供の! いたずらで! こちとら死んでるんですよ!」
思わず叫ぶ。
えぇ……私か弱すぎない?
マジで貧弱だわ……。
「くそぅ……」
「今更だけど注意しておくとさ、この町って聖水売ってるんだ。値段安いしモンスター除けになるから結構買う人いるんだけど、容器が壊れやすいから町中にこういう水たまりもあるの。だから……その……」
「つまり?」
「地雷原だね」
ちくしょう! このゲームの運営マジで性格悪い!
聖属性弱点とか普通につけるでしょ!
化け物になるのに聖属性攻撃を主軸にする奴はなんなんだ!
しかもご丁寧に聖水に弱い人だっているんだぞ!
そんな状態で最初の町に聖水の地雷原とか作れる状況にするなよ!
「ちなみに水たまりは数分で消えるんだけど、こればっかりは運が悪かったとしか言えないね」
「……お兄さん、デメリットをどうにかする方法しりませんか」
「無いことはないんだけど……あまりお勧めしないよ?」
「言ってください」
「なれる。ひたすらデメリットつけた属性攻撃を受け続けて死にまくる。そうすると聖水の水たまりや教会の聖属性みたいなスリップダメージは無効化できるようになる。ただ直接聖水かけられたりしたら死ぬのは変わらないから注意だね」
「……ありがとうございます」
なるほどなるほど、ひたすら死にまくれと?
よろしい、やってやろうじゃないか!
「まずはお前じゃ太陽!」
日傘をたたんで即死!
リスポン地点で日光浴!
即死!
まだまだいくぞおらぁ!
即死! 即死! 即死! 即死! 即死! 外から見たら私が炎上しているように見えたらしく善意で消火しようとしてくれた人がかけた聖水で即死! リスポンして即死!
何分続いたか、太陽が西の空に落ちていくのを見送る私はついに太陽を克服したのだろうか……。
その答えは目の前にあるメッセージにある。
『称号:太陽嫌いを取得しました。太陽光によるダメージを1日1時間無効にします』
っしゃおらぁ! 太陽克服したぞこらぁ!
これで日傘無しでも歩ける!
少なくとも両手が開く!
一日一時間だろうが十分じゃ!
「ふぅ、ふぅ……」
「だ、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。でもすぐに戻ってくるでしょうからまたお会いしましょう」
ふっ、途中でお兄さんはどっかへ行ってしまったが関係ない。
お礼は言ったし、次は聖属性に耐性をつけてやる。
そうと決まれば教会じゃ!
走る! 教会を見つける! 教会に近づく! うっかり聖水の水たまり踏んでリスポン! 再び教会に近づく! ドアに触れた瞬間リスポン! それを延々と繰り返す!
50回も繰り返したころ、メッセージが届いた。
「っしゃ! これで聖属性のスリップダメージも無効に……?」
『称号:不審者を取得しました。隠密行動にプラス補正、NPCの好感度が上がりにくくなります』
「くそったれぇ!」
触れないとわかっててもメッセージ画面を殴りつけてしまう。
教えてくれ運営、私は後何回死ねばいいんだ……。
『称号:くじけぬ心を取得。特に効果はありません』
「ぶっとばすぞ運営!」
タイミングよく変な称号送り付けてくんな!
しかも効果ないんかい!
『称号:神が鼻で笑う者を取得しました。聖属性の地で10分活動可能になります』
ってあったわ!
一気に三つも称号おくってくるなよ!
しかしこれで教会に入れる。
んー、これ以上は今できる事ってないかな。
聖水を浴びたり飲んだりというのも手段だけど、それにお金をかけるのはもったいない。
毒を摂取するのもありだし、火ダメージを受けるのもありだけど目算50回っていうのはなかなか大変だからなぁ……。
あとペナルティのせいで懐が寂しいんだよね。
幸い私はデメリットとして武器を持てないからその辺にはお金使う必要ないんだけどさ。
「とりあえずおじさん。どこか美味しいご飯食べられる場所ない?」
「え、あぁ教会の手前にある酒場の飯はうまいぞ?」
「ありがとう、そこに行ってみるわ」
よしよし、とりあえず当初の目的を改めて思い出せたわ。
……というかあの死亡マラソン、ずっと撮影してたのよね。
少し気が遠くなるけどまぁいいわ、編集面倒くさいしそのままブログに乗っけちゃいましょう。
それはそうとご飯よご飯!
美味しい食事が私を待っているわ!