サービス回
ご飯を食べてから大量のお皿を業務用食洗器に入れて放置。
ちなみにこれも曰くつきだったもので、どうにもこれを使ってたお店のオーナーがこの食洗器を使って自殺なさったとか。
どうやってという疑問もあったけど、憑りついてた本人に聞く前にここの家の瘴気に触れて消滅しちゃったから聞くに聞けなかったのはいい思い出。
そのあとお風呂を沸かしているというので、私はキッチンでお茶を淹れて縁側に行く。
お爺ちゃんと祥子さんが二人で話がしたいとかなんとか言ってたから。
「まぁなんじゃ、祥子さんは心が弱いのう」
「お恥ずかしいかぎりで……正直心霊関係は平気なんですが、どうにもここに来てからはなぜかあんな風になってしまいやすくて」
「ふむ、あてられたようじゃな。ここには子供の霊もよくいるのでな」
「じゃあこの家を離れたら大丈夫ということですか?」
「残念ながら、これだけあてられてしまえば一生をかけてもどうなるかと言ったところじゃ。まぁ明日の昼に帰ると言っていたが、それまでに祥子さんにあったお守りを渡す故、多少はましになるじゃろうて」
「あ、ありがとうございます!」
「なぁに、こちらの馬鹿孫たちのせいでもある。今回も料金は不要じゃし気にすることでもない」
そんな話を立ち聞きしながら、二人の間にお盆を置く。
「お爺ちゃん、祥子さんってそんなに影響受けやすい人なのかな」
「いんや、単純にここにいるのと波長が合っただけじゃろう。運が無かったな」
「まぁ、祥子さんは運悪そうだよね」
そういうと祥子さんは神妙な顔つきになった。
じっくり私の顔を、そして全身を舐めるように見つめてから大仰に頷いて見せる。
「確かに」
「今なんで私を見て納得したの?」
「いや、せっちゃんとの出会いはいい物だと思うけどさ。せっちゃんに振り回された先で会うのは大体面倒なものだから」
……それは確かに否定できないわね。
少なくとも私経由で祥子さんが出会った人にまともな人は……片手で数えられるくらいしかいなかった。
でもそんな祥子さん経由で知り合った人だってまともな人はほとんどいなかった。
つまりお相子だ! と伝えたところ正面の祥子さんからデコピン、後ろのお爺ちゃんから頭部に手刀をくらうことになった。
まぁなんだかなんだでお爺ちゃんは祥子さんと気が合うみたいで、そのまま縁側でお茶を飲みながら煙草吸ってた。
私は煙草の煙が苦手なので居間でその様子を見ながらお茶と、食後のおやつにコーヒー屋さんヨメダで買ってきたカツサンドを三つほどいただく。
ちなみにこの家にあるVOTに化けオンもインストールしておいたので、私がやることほとんど終わってるのよね。
今は刀君がインストールとアップデートを待っているけど、この調子だとあと10分くらいかしら。
昔はゲームのアップデートに30分、インストールに3時間とかかかっていたらしいからすごい進歩よねぇ。
「お風呂わいたわよ、刹那は祥子さんと一緒に入ってあげてね」
「はーい、祥子さん一番風呂行きましょ」
「え、いいのかしら……」
ちらっとお爺ちゃんに視線を向けた祥子さんだけど、うちは序列とかそういうの関係なく手が空いている人から入っていく。
特にお客さんが来ているとき、それも女性のお客さんの場合はその人に一番風呂を譲るのが様式になっている。
陰陽の話になると女性は陰の気が強いとかで霊を引き寄せやすいから最初に身を清めて対処するという方針なのよ。
もともと住んでいる私達はもうどうにでもなーれ状態。
あとこれが本当に一番重要な事なんだけど長男の辰兄さんがね、色欲魔だから誰かしら見張りをつけつつ、強行突破してきても返り討ちにできる人員を一人用意しておきたいというのが実情。
実際そこまでやる人じゃないし、犯罪になるようなことはしないんだけど……色ごとになると信用がマイナスになる人だから。
さっきからちらちら辰兄さんが祥子さんを見ているのはわかっているんだぞ。
「祥子さんや、ここの湯で身を清めればよってくるものも減るじゃろう。早う行ってくるといい」
「では、お言葉に甘えて」
一瞬びくっとしたのを見逃さず、それでもお母さんが用意してくれた浴衣とタオルを二人分持ってお風呂に向かう。
「……温泉?」
脱衣所と浴場を見て祥子さんが疑問符をつけて声を発する。
多分無意識なんでしょうけど、その意見は正しい。
家族全員が余裕で入れる脱衣所に浴槽だからね、しかもヒノキのお風呂。
毎月お父さんがグラインダーでこのヒノキを削って香りをたたせたり、トゲを潰したりしているんだけど……これどこのご神木を使って作ったんだっけ。
「似たようなもんですよ。高尾とかの辺りだと温泉わいているんですけど、この辺りはどうだったかな……まぁ昔、と言っても本当に何世代も前の話ですが旅館もやってたみたいなんですけどね。色々お客さんが持ち込むヤバイ物を引き取っていったら旅館として経営できなくなるくらい酷いことになったので廃業してそっちを専業にするようになったらしいです」
「……それが地下にあるの?」
「それも、ですね。一定ラインを越えたら地下送りです」
「そのラインって?」
「基本的に近づいたら即死レベルですね。一部の人しか近寄れないようなものは地下に、触ったら即死というのは6~12の蔵です。5の蔵は藁人形専用。あとは生半可なのは1~4に突っ込むこともありますんで基本的には入らないほうがいいですね」
「……うん、はいらないしちかよらない」
「祥子さん、またよわよわになってますよ」
「はっ……気をしっかり保たないとすぐに泣きそうになるわ……」
「はい、これシャンプー」
とりあえず二人で服を脱いでから浴場に、そして頭と体をしっかり洗って……ちょっとふざけ合って洗いっこしたりしながらも湯船へ入る。
髪は、本来ならタオルに収めるべきだけど今回はパス、その方が都合がいいからと祥子さんにも言って聞かせたわ。
「はぁ……気持ちいいわねぇ」
「そうですねぇ……」
「そういえばせっちゃん、髪もサラサラだし肌もきれいね……怪我とかもすぐ治っちゃうし何か秘訣でもあるの?」
「んー、この家で使ってるお湯と石鹼の類ですかね」
「特別なの?」
「石鹸は基本的にお清めして、塩やお酒や聖水なんかを用いていますから」
「……ずいぶんと凄そうな」
「今祥子さんが管理している部屋くらいならシャンプーだけで浄化できると思いますけど、残念ながら外に持ち出すとすぐに効果がなくなっちゃうんですよ。この家の中だからセーフみたいなもので」
「へぇ、じゃあお湯は?」
「昔死者をたくさん出したという土地から湧いたお湯を引っ張ってきてます。陰の気たっぷりで女性の肌や髪にいいんですよ」
ちなみに男性陣は効力こそ弱いけれど肌つやとか髪質は良くなる感じがするらしい。
陽の気と陰の気だから相反するんだけど、どちらも人間の中に存在するって言われているからね。
もともと気の流れが陰に向いている女性は効果が顕著なんでしょ。
「……だいじょうぶなのぉ? のろわれてない?」
「そこはちゃんと水道管に浄化のお札みたいなの貼ってますんで」
「……ふかくかんがえたらだめよわたし」
「それより祥子さん、これからのことなんですけど刀君とか永久姉とかにも化けオンの調査手伝ってもらいます?」
「うーん、まぁ個人的には賛成したいところなんだけどまだ上が予算出し渋っているのよね……」
「その予算が出ればいいんですよね、なら永久姉が一声かければ一発じゃないですか?」
「それで永久さんの立場が悪くなったらと考えると、どうしても頼みにくいのよ。それになんか頼み事するのが怖い相手っているじゃない?」
「あぁ、まぁそうですね。でも永久姉なら平気だと思いますよ。私の口添えがあれば」
「無かったらどうなってた?」
「うーん……良くて一生よわよわ祥子さんになってましたかね」
「……とわさん、こわい」
「そうそうそんな感じに。まぁ人手はあって困らないので手伝ってもらいたいなという私個人の願望もあります」
「なら手配しておくわ。そっちは永久さんをお願い」
「わかりました。それとなんですが……」
「なにかしら」
「辰兄さん……うちの長男なんですけど近寄らないでくださいね?」
「なにかあるの?」
首をかしげる祥子さん、うんその表情だけでだめだわ。
辰兄さんが好みのタイプの人。
「この家で一番危険なのは幽霊でも呪具でもなく、辰兄さんなんですよ。女性にとってはね」
「……前に話していた女性にだらしない人のこと?」
「そうです。今は72人と付き合っているとかなんとか」
「……絶対近寄らないわ」
「そう言って落とされた人は3桁にのぼります」
「……近寄ったら逃げるわ」
「そうしてください。とにかく私か永久姉か、お爺ちゃんお婆ちゃん、お父さんお母さんの誰かが一緒にいたら近づかないので」
「まるで悪魔に対する結界みたいね」
「似たようなものです」
あの人はね……どうにもやばい人だから。
なおその経歴や、他の兄弟のこと話していたらいつの間にか長湯しすぎて二人そろってのぼせることになってしまった。
まぁこれだけ言えば祥子さんも気を付けてくれるでしょう。
今日は私の部屋で寝てもらうべきね、私たち兄弟の部屋は鍵がないと入れないから。
曰くつきの代物が沢山ある家+鍵のかかる部屋=???
しょうこさんは よわよわの のろいがかかった。




