一家団欒(阿鼻叫喚)
本日2回目の投稿です。
なんか筆が乗ったのでそのままの勢いで。
数時間、それがお父さんのお説教の時間だった。
最初は1時間くらいで終わりが見えていた。
けれどそこに帰ってきた永久姉の顔を見た瞬間にお父さんの表情が般若のそれに変わった。
私も久しぶりに背筋が寒くなった。
怨念の塊を乗せたような、いやそれどころか着ぐるみでも着ているかのように怨念に包まれた永久姉の姿に。
そしてそれを普通に迎え入れつつも、こめかみに青筋を浮かべるお母さんに。
加えて仏間へとつながる襖の隙間からじっと永久姉を見つめるお爺ちゃんとお婆ちゃんに。
なにより、般若を通り越して顔面が先祖返りしているのではないかと思うほどぶちぎれていたお父さんに。
結果、私のお説教は永久姉へのお説教と重なることとなり地獄のような時間が過ぎていった。
お母さんが笑顔でご飯ですよと言ってくれるまで続き、そして私達は解放された……と思った。
「続きは飯の後だ」
その言葉に私も永久姉も失神したくなってしまった。
「まったく、永久姉は……なんであんなになるまで対処しなかったの」
「そういう刹那だって、結構被せてたじゃん。今度はどんな部屋なのよ、うちの九十九ちゃんいじめたらしいじゃない」
「今は祥子さんが管理してるから今度行ってみたらいいんじゃない?」
「ん? あー、公安本家の主任じゃーん。なに? 刹那を嫁に貰いに来た?」
そんな軽口をたたく永久姉。
祥子さんの性癖は知らないけれど、私はノーマルなので……いやでも祥子さんお金持ってるよな。
私を養えるくらいには……。
「あのですね」
祥子さんが恐る恐るというか、耐えきれずと言った様子で口を開く。
「ん? なーに?」
永久姉は空気を読まない。
我が道こそが人生、そんな感じの人だからこそ強欲に全てを欲するし、自由気ままだ。
そんな永久姉に勝てる人はほとんどいない。
「この家、13人家族なんですよね」
その言葉に不思議そうに首をかしげる。
当然と言わんばかりに永久姉が頷いて見せる。
「あー、紹介がまだだった? 婆ちゃん二人に、爺ちゃん二人、父さんに母さん、弟の刀祢、刹那に私こと永久、妹の一会、末の妹の緑、優秀な方の弟の羽磨、んで糞兄貴の辰男」
「いえそうではなく……」
みんなのことは順次祥子さんにお爺ちゃんたちが紹介したらしい。
私がお説教くらっている間にね!
「なんですか、このご飯の量」
「え? 8割刹那の分。あ、もしかして主任ちゃんも結構食べる人だった?」
「いやいやいやいや、それなりに食べるほうですけど常人の範疇です! この量はどう見てもおかしいですよ!」
そういう祥子さんだけど、そんなに変かしら。
普通の夕飯なんだけど……お母さんが作ったって意味じゃ特別なのよね。
「なんで満漢全席3周分くらいあるんですか!」
「おぉ、満漢全席の量を知っているとは博識ね!」
「普通の家庭で出すものじゃないし準備間に合わないでしょう!」
「それはね、母さんに秘密があるのよ……実は母さんは時間を操る能力者でね、自分の周りだけ時間の流れを変えて……あだっ」
「はい永久、次変な冗談言ったら今度はお母さんからお説教よ?」
「ごめんなさい!」
うちで一番頭が上がらない相手、それは誰でもない。
みんなの胃袋を掴んでいるお母さんだ。
「えっと……一応聞いておきますけど、本当に時間を操るとかできないんですよね」
祥子さんがおずおずとたずねる。
「もちろんよ、単純に刹那が帰ってくるっていうから前々から準備しておいただけよ」
「そうですか……そうですよね……いやまった、この量の料理を下ごしらえしてたとしてどこに保管していたんですか?」
「あぁ、それなら地下ね。あそこはいつも気温が氷点下だから刹那が帰ってくるときに準備したものを保存するにはうってつけなのよ」
「地下って……」
ギギギとゆっくり首を動かす祥子さん、その視線は私に向けられている。
あぁ、そういえば話したわね。
うちでとびっきりヤバイ呪具をしまってる地下の蔵。
「安心しんしゃい、あんたにあげた数珠がありゃあれらに直接触れん限り平気じゃて」
そういってにかっと笑みを浮かべるお爺ちゃん。
それを聞いてなぜか顔を青くする祥子さん。
「……あの、失礼なこと聞きますがこのご飯呪われてたりとかしませんよね」
その言葉に私達は全員無言で見つめ合い、そして同時に頷く。
「いただきます!」
居間に家族13人の声が響き渡った。
「ねぇ! ちょっと! 誰か答えて!」
「あ、祥子さん。そのスープ辛いので気を付けてください」
「いやいや、スープじゃなくて呪いとか!」
「そんなの気にしてたらご飯なんて食べられないわよ、主任ちゃん」
「待って、お願いだから話を聞いて!」
「祥子さん、大丈夫です。親父の数珠があるなら食べたところで害はありません」
「有害か無害かじゃなくて現状を知りたいんです!」
「大丈夫よ、祥子さん。それもちゃんと調理したから」
「やっぱりなんか入ってる⁉」
まったく、祥子さんは何をそんなに気にしているのか。
ちょっと呪われた食材くらい食べたって死にはしないのに。
ベニテングダケだってちょっとなら死なないし美味しい、フグだってちゃんと調理すれば食べられる、カエンタケだってピリリとしておいしかった、そういうものじゃないのかしら。
「お願いだからだれか教えてよぉ……」
あ、よわよわ祥子さんだ。
何か心の支えが折れたみたいになってる。
お爺ちゃんから貰った数珠握りしめて涙目だ。
「祥子さん」
「せっちゃん……」
「トリカブトくらいまでなら私は食べられますから、苦手なものがあったら遠慮なく私に回してくださいね」
「そうじゃないのぉ……おうちかえりたいぃ……」
「あらあら、主任ちゃんはずいぶん可愛らしい本性の持ち主だったのね。もうちょっといじめたかったけど、まぁ本当に呪いとかは平気だから食べても大丈夫よ」
そう言って祥子さんの頭を撫でる永久姉。
まぁ、呪いとかは平気よね。
「ごはんにのろい、はいってない?」
「入ってないわよ、ほらあーん」
「あー……んっ、おいしっ」
一口永久姉から食べさせてもらった祥子さんが顔色を取り戻す。
「……ねぇせっちゃん、取り乱してたからスルーしてたけどトリカブト食べられるって本当?」
「さぁ? 今度試してみます?」
「……やめとく」
「あと永久姉は呪いは平気と言いましたが、怨念くらいはちょっと移ってますよ」
「……なんでそんないじわるするのぉ?」
再び涙目になって私に詰め寄る祥子さん。
隣でクスクス笑う永久姉は、この姿が見たかったのだろうと思ってのカミングアウト。
いや、悪意じゃなくて善意で。
永久姉がやると本当に精神崩壊するんじゃないかってくらいに遊び始めるからね。
この人性格すごく悪いから。
「それでも大丈夫よ、お肉にせよお野菜にせよ大なり小なり恨みとか怨念みたいなのはこもっているの。それを食べる事で浄化する、供養するのが私たち日本人よ。ほら、いただきますとごちそうさまがそれにあたるわ」
そう言って祥子さんを説得するのはお母さん。
けれど私は見逃していない、そのこめかみに先ほど見た物よりもくっきりと青筋が浮かんでいるのを。
「とりあえず永久は後でお説教として……祥子さん、よければ供養のお手伝いしていただけないかしら」
「……こわいことない?」
「大丈夫よ、いつも通り美味しく食べてくれるなら怖い事なんてないんだから」
「……じゃあたべる」
よわよわ祥子さんはそのままもそもそとご飯を食べ始めたけど、食べ進めるうちに顔色が戻ってきてどんどん食べ始めた。
この調子なら大丈夫でしょうね。
「そういや刹姉、面白そうなゲームやってんじゃん」
ふと話しかけてきたのは弟の刀君、お父さんの手伝いをしているけれど鬱憤をためているとか何とか言ってたと祥子さんから聞いた。
「俺もちょっとやってみたいんだけどよ、教えてくんねぇ?」
「刀君、いいけどお父さんのお手伝いに支障が出るならお母さんたちも黙っていないと思うよ」
「そこは大丈夫だって。俺の要領の良さは知ってるだろ?」
むぅ、たしかに刀君は問題児だったけど学校とかで表立って暴れる事はなかった。
ちゃんと理性が本性を抑え込んでいるし、何気に勉強とかもちゃんとしていた。
本人曰く怒りをぶつける矛先を人ではなく勉学や運動、部活などに向けていたとのことだけど入社したというブラック企業ではその発散先が無かった……というか奪われたから爆発したのね。
「まぁそれなら後で家の共有VOTにインストールしておくよ。立て替えておくからそのうち払ってね」
「おう、任せろい」
そう言ってにかりと、お父さんに似た笑い方をするようになってきた刀君。
この家は古いからね、VOTの導入とかも大変だから旧式の物しかないのよ。
それもリミッターがついてなかった頃に中で人が死んでしまったという曰くつきの物。
うちでお祓いしてくれと言われたけれど、敷地に入った瞬間残っていたなにかも霧散したからそのまま使わせてもらってる。
向こうもそれでいいと言ってくれたからね。
「祥子さん、もしよければ刀君たちにも調査手伝ってもらいます?」
「え? あ、うん、そうだねぇ。せっちゃんのかぞくだもんねぇ」
あ、まだよわよわ祥子さん状態だ。
あとでちゃんとした時に話してみよう。
予定としては次の話で弟が化けオン始めて、その次の話で帰宅して祥子さんの胃がマッハになって、その次に新章としてログインすることになります。
注意:カエンタケ、トリカブト、フグ毒、ベニテングダケは決して食べてはいけません。
刹那だからこそ食べられるだけです。
よい子は真似しないでください。
ちなみによわよわ祥子さんはご飯食べたら回復します。
具体的には次話で回復するけど、永久が回復させてくれるかな……?




