対談
そうして数日、仕事をこなしながら化けオンで適当に遊んでた。
例えばそうね、あの王様をサクッとやった国の名前が「グンダ王国」というらしいけれど、正直どうでもいい事。
なんか聖剣を鍛えた鍛冶師がその手腕を認められて貴族の地位を得て、だけど平民が貴族になることを嫌がった純正貴族が「鍛冶師なら木が欲しいだろ? 鉱石もとれるあの土地やるよ」と言って森と鉱山しかない土地に追いやった結果鍛冶師を慕った人がどんどん集まって一大都市に。
そしてなんやかんやあって元の国と戦争になってあっさり勝利を収めて、元の国を吸収してできた国らしい。
話だけ聞くと貴族馬鹿じゃないのと思うけど、もともとこの土地は無茶苦茶硬い木と、鉱山から流れてくる鉱毒で作物が育ちにくい土地だったとかで人が生きていくのが不可能ともいえる土地だったのよね。
だけどそこは伝説の鍛冶師、あっさり木を切り倒せる斧を持っていたから家を建てて住む場所を確保。
ついてきた弟子とかそういう人たちが鉱毒に耐えられる木を研究して農作もできるようになって、更には鉱山から採掘した普通に加工しても武器にできない銀類をアクセサリーや特殊な製法、今は失われたと言われているそれでミスリルに変質させて武器として売りさばいたことで周辺諸国との間柄も良好となっていって、それを快く思わなかった本国から裏切りのレッテルを貼られぶちぎれた人たちが反旗を翻した。
持ってる武器の性能が最初からやばかったからあっさり勝てたらしいけど、私も正面から乗り込んでいったらずんばらりんされてたかもしれない。
そんな国なんだけど、今現在はというと良質な銀が今でも採掘できるという以外利点のない国らしい。
何なら他の国から銀鉱山目当てに狙われている節もあるけれど、銀鉱山に一番近い街が首都だから狙うの面倒くさいという事で放置されているとかなんとか。
つくづく、過去の威光に囚われているだけというのがわかるわ。
まぁそんなこんなで化けオンの話は終わり、正式に化けオン運営と私、そして祥子さんを交えた対談の場が作られた。
場所はなんと国会議事堂、の地下にある秘密の会議室とのこと。
道中の移動は全部国の持っている戦車砲の一撃すら耐える特殊装甲車リムジン風。
それを何台か並べて、警護の人間を同伴。
化けオン運営と私と祥子さんがそれぞれ分かれて乗る感じになった。
なお移動中にはお酒以外はなんでも出すと言ってくれたので積載してあるご飯とドリンクをしっかり堪能させてもらったわ。
「えー、というわけで我々としましてはそちらを全面的にバックアップする体制があります。その対価として研究結果のコピーを頂き、こちらが用意したスタンドアローンの機器以外での研究、ならびに研究結果の保存を行わないでいただきたく」
「ま、その辺りは一向にかまいませんよ。どのみちこちらも研究結果は自前で用意したものに突っ込んでいましたしネットにつなぐ機会はほぼありませんでしたから」
それでもハッカーみたいなのはちょいちょい来ていましたがね、としゃれにならないことを言う化けオン運営のトップの人。
名前は美空恭平さん。
「さて、ここまでですが伊皿木さん」
「あ、はい」
コーヒーをお替りすること17杯、ようやく私の番が回ってきた。
珍しくかしこまった祥子さんだけど、その眼はこちらにわかっているよねと伝えてきている。
「伊皿木さんには今まで通り運営との橋渡しをお願いします。我々が行ってもいいのですが、美空さんとしても国家の人間が何度も訪れるのは気分がよくないでしょう」
「……すみません、それなんですが」
私が返事をする前に、美空さんが手をあげた。
「伊皿木さん、今後ウェルカムドリンクは普通のものでいいですか?」
「え? 別にかまいませんけどなにか?」
以前出してもらったキビヤックとかすごくおいしかったけど、毎回あのレベルを用意するのは無理でしょう。
そもそもこちらは出されるなら拒まないけれど、強要はしないつもりだし。
「そう言っていただけると助かります。実はあの後社内でボイコットが発生しまして……」
「そんな……どうしてですか!」
「匂いです。シュールストレミングやキビヤックのにおいが換気扇に乗って社内に広がる事故が発生しまして……」
「あ、それででしたか」
「それで、とは?」
「白銀の塔なんですけど、どうにもシナリオ面がやっつけ感があったんですよね。AIの挙動もいつもよりも乱暴というか、不安定な感じがしましたし。なによりフラグ管理がガバガバだったので社内で何かあったのかなと思っていました」
「……鋭いですね。シナリオ担当は満足のいくものを仕上げたいと言っていましたが、プロットだけ作って早々にダウン。AI担当はこんな臭いところにいられるか! 俺は家に帰らせてもらう! とリモートワークに入り連絡が取りにくくなり、その他の担当者も大なり小なりダメージを抱えたままのグランドクエストでした……」
「それはそれは……」
「あー、提案なんですがよろしければこちらで新たにオフィスを用意しましょうか。お望みの場所があれば何でも言ってください」
助け舟を出した祥子さん。
まぁ、コンクリの建物から臭いを消し去るよりも新しく場所を変えたほうが楽ではあるでしょうね。
「……スタッフと相談させていただきたく。またその際スタッフや、スタッフの家族の家に関しましても」
「もちろん住まいは用意させていただきます。教育環境に護衛、その他もろもろ全てお任せください」
「それなら安心して相談に行けます。下手な条件で安請け合いすると他のスタッフに殺されかねませんので」
「物騒な職場ですねぇ」
私がつぶやくと祥子さんからお前が言うなという目で見られたので沈黙。
「あぁそれとこちらから一つ注文があります」
ふと一呼吸付いたところで美空さんが手をあげた。
「我々の運営方針や、会社の行動方針、また各スタッフの活動にいっさいの口出しをしないでいただきたい」
これからが本番、と言った様子で美空さんが祥子さんと私を交互に睨む。
「私にその権限無いですから」
まず私が返答、21杯目のおかわりを貰いながらお茶菓子をつまむ。
うん、この大判焼き美味しい。
「国家公安局としては法に反しないならば個人、企業を縛ることはありません」
祥子さんもそれに続いて答えると美空さんは破顔してコーヒーに手を付けた。
「それなら安心です。我々は皆何かしらの才能を持っていましたが、企業内では出る杭は叩かれるという言葉の通り酷い扱いを受けてきましたからね。上から抑えられるのはごめんだという人間が多いのですよ」
「その気持ち、よくわかります」
祥子さんがなんとも言い難い表情をして見せるけれど、私もよくわかる。
もともといたテレビ局とかそういうしがらみが嫌でフリーになったところあるから。
「あぁけれど、人を雇う時だけは面接に同伴させてもらいたく思います。ついでに合否についても、こちらで裏取りをさせてもらってからで」
妙なのが機密情報持ちだしたら困るから、と続けた祥子さんの目は本気だった。
「……いいでしょう。こちらとしてもバグは許容できませんからね。なにより殺せない無能を味方に引き込むのは愚策もいいところですから」
「必要とあれば、うちで引き受けますよ」
「あ、じゃあ私も知り合い紹介くらいはしますよ」
暗殺とか呪殺とか、そういうのが得意な知り合い結構多いから。
「伊皿木さん、あまり法に触れそうな話はしないでくださいね」
黙ってろ、ね……祥子さんの迫力に押されて黙る。
仕方ないからコーヒーもう一杯おかわり。
「話はこのくらいでいいですか? 他になければそろそろ本社に戻りたいと思いますので」
「えぇ、本日はご足労ありがとうございました」
「いえいえ、また何かあれば伊皿木さんを通していただければ」
んん? なんで私を通すのかな。
一応お目付け役みたいな立場だけど……口ぶりからして妙に気に入られた感じがある。
まぁいいけど。
出ていく美空さんの背中を見ながら、そして29杯目のコーヒーを飲みながら祥子さんに声をかける。
「なんか一段落したみたいですし帰省の話でもします?」
「……やめとく、まだ仕事残ってるから今夜電話するわ」
「そうですか?」
「それよりせっちゃん、あなたのご友人ってどんな人達よ……」
「えーと、自称名探偵や自称怪盗、暗殺を生業とする人に、呪殺を得意とする人、後よくわからない人たちがたくさん」
「その中に私がいるのね……はぁ」
なんかお疲れの様子の祥子さん、その背中を軽くたたいてあげるとさらに落ち込んでた。
なんかかわいいわね。
~最終リザルト~
祥子さんの疲労ゲージ63%
主人公の胃袋容量3%
主人公の膀胱2%
美空のストレスゲージ21%
公安の備蓄コーヒー残量0%(なんだかんだで刹那と祥子が他愛もない話をして飲み干した)




