刹那の実家と家族
ふー、やる事やってすっきり。
これから行動拠点となる国がきな臭いと私も動きにくいからね。
お掃除はしっかり、前の部屋でもお掃除は欠かさなかった。
部屋の隅から隅まで掃除機かけてから拭き掃除して、壁からはえてくる髪の毛引っこ抜いて、その跡をパテで埋めて、お風呂の鏡とか窓にべったりついた手の跡を拭って、勝手に飛んで行ったテレビのリモコンを定位置に、奇麗に研がれ並べられた包丁を収めて、忙しかったなぁ。
今の家は広いから別の意味で大変だけど。
あ、前の家だとボロボロになってたお札みたいなのを処理したこともあったっけ。
丸めてゴミ箱へぽい。
なーんで部屋の真ん中にあんな真っ黒になって焦げたみたいな穴の開いたお札が落ちてたのかしら。
高校生時代の友達に話したら「相変わらずねぇ」とか言われたけど……奇麗好きってことかな?
実家でもよくやってた掃除の一つなんだけど、実家だと蔵の掃除とかもあって結構大変だったのよね。
家族総出で家じゅう奇麗にしたっけ。
まぁその頃は学業とか、お父さんの全国行脚なよくわからないお仕事の手伝いとか、兄の学年女子全員恋人事件とかで物凄く忙しかったから月一回が限界だったんだけどね。
いやぁ……まさか高校3年生になって同級生全員と恋人になって浮気を継続するとか頭おかしいわ。
そりゃ刺されるわけだと思ったけど、お父さん曰く亡くなったひいおじいさんの方がすごかったらしい。
お父さんの仕事はよくわからなかったけど、変なのを刀で切ったりお札はってお経みたいなのを唱えたりしてたかしら。
何センチあるかわからない封筒を謝礼金としてもらってたから何かすごい事をしていたのはわかるんだけど……。
お母さんはその点結構普通の人だったわね。
宝くじとか、抽選とかそういう運が絡むもので結構色々手に入れてたけれど。
思い出したら実家が懐かしくなってきたし、今度時間できたら帰省しようかしら。
前の部屋は7日以上空けると家の中がしっちゃかめっちゃかになってて掃除が大変だったけど、今の部屋は平気でしょうから。
妹とか弟にも会いたいけれど、あの子たちちゃんとやってるかしらね。
結構わがままな妹だったし、弟は怒りっぽかった。
よくない友達との付き合いもあって、弟が小学生の頃なんかは町の外れにある悪ガキ集団で突撃して肝試しして、それから……なんか大きな事件になったのよね。
悪ガキ集団の一人がパニックを起こしたのかなんなのか、意味の分からないことを言い出しておばけがいるって騒いで、怒った弟がそのおばけのいる場所を聞いて消えるまでシャドーボクシングしたとか。
でも弟は確かに何かを殴る感触があって楽しかったとか言ってたから……悪い子になってないといいけれど。
……いや、だめね。
確か一度町を出て普通に就職したと聞いたけれど、いろいろハラスメント行為が酷かったらしいその職場の主犯たちを纏めて殴り倒して会社を丸っと潰してしまったとかなんとかお母さんから連絡あったから。
それが原因で出戻りして、お父さんのお仕事を引き継ぐことになったらしいけれどちゃんとやれてるのかしら。
お兄ちゃんにも早く結婚してほしいけど、今あの人何股しているんだろ……。
お母さん曰く最近は落ち着いて2桁でおさまっているとか言ってたけれど……。
あー、思い出したらお母さんの料理の味が恋しくなってきた!
お父さんが焼いてくれたおせんべいの味とかも恋しい!
お兄ちゃんがいろんな女の人から教わったっていう料理もまた食べたいし、弟の憤怒のスープとかいうわけのわからない冷蔵庫の材料何でもぶち込んでひたすら辛く味付けしたあれもまた食べたい!
妹の傲慢ステーキとかいう分厚いお肉のステーキも食べたいし、お姉ちゃんの肉じゃがも食べたい!
最近は簡単な料理しか食べてなかったからなぁ……お父さんがどこからか貰ってくるラベルの付いていないお酒も飲みたいし、蔵にしまってあった古いレシピ本とかも現代語訳して出版社に持ち込みかけたらちょっとは食費の足しになるかもしれない。
うん、居ても立っても居られないわね。
ある程度町の様子も見たしログアウト!
そして祥子さんに電話!
「あ、祥子さん? 刹那です」
『おーせっちゃん、こっちは書類の整理がついたけどなに?』
「ちょっと実家に一度顔を見せに行こうかと思いまして、それまでに運営との話し合いを一度進めておきたいので連絡お願いできますか?」
『そういう事なら任せてよ。それにしてもせっちゃんの実家か……もしよければなんだけど、私もついていっていいかな?』
「面白いものとかなにもないですよ? 東京のギリギリ端っこ、このご時世に田んぼと畑と山……あと鍾乳洞があるだけの町ですけど」
『いや普通の町は鍾乳洞ないからね? 面白そうだし、せっちゃんのこともいろいろ知りたいからさ。この辺りでもう一歩交流深めておこうと思ってね』
「まぁ、家族は気にしないと思いますけど兄には気を付けてくださいね」
『お兄さん?』
「えぇ、色欲の化身というべきか……小学校の頃から7股して、中学ではクラスの女子全員と浮気、高校で学年全体、大学では他の学校も含めて100人以上と浮気して刺された前科があります」
『……なんというか、せっちゃんのお兄さんって感じね』
「失礼な」
嫌いなわけではないけれどお兄ちゃんと同類扱いは嫌です。
猛抗議してやる。
「ちなみに刺された後病院で働いていた48番目の彼女によって情報が拡散されて、100人以上の女性が兄の病室に詰め寄せて私と妹で整理券を発行することになりました」
『……妹さん?』
「ちょっとわがままだけどかわいい妹ですよ。強いて難点を挙げるなら私が一番みたいに考えているところがあるくらいで……あぁでもその精神を持ち続けているから1番になるための努力は欠かさない子です」
『色欲の兄に暴食の姉を持つ傲慢な妹……』
「何か言いました?」
電話の向こうでボソッと聞こえた声、ノイズ交じりでよく聞き取れなかったわ。
この感じ、もしかして今は私の住んでいた部屋かしら。
「今あの部屋ですか?」
『え? うん、そうだけど?』
「あの部屋七日以上空けるとものすごく散らかるんでそこだけ覚悟しておいてくださいね」
『え?』
「私が前にロンドン行ってた時は半月くらい空けていたんですが、床一面にお皿とか洋服がきれいに並べられていました」
『は? まって、ロンドンってなんか事件に巻き込まれたって言ってたやつだよね!』
「あー現地の食べ物を取材する目的で行ったらみんな知ってるようなのしかなかったので、家庭料理を教わるために適当な女性に声をかけたんですよね。それで仲良くなってお泊りしたら夜に青い顔してコンビニに行ってくると言うので付いていったらナイフを持った男性に目の前で刺されそうになってたのを助けて、その男性が丹田の辺りしか狙わなかったのであっさりとどうにかできたんですよ。それで捕まえたと思ったら霧みたいに消えちゃったんです」
『……現代によみがえったジャック・ザ・リッパー事件じゃないの』
「あ、そんな呼び名付いていたんですね。でもそんな大したものじゃなかったですよ? ロンドン滞在中7回犯人とあってますから」
『はぁ⁉』
「最初の5回は襲われたんですけど返り討ちにして、残り2回は普通にお話しして仲良くなって連絡先交換しました」
『それ、警察には?』
「話しましたけど、私のスマホ以外からだと相手の電話番号が使用されていないことになってて……結局悪戯として怒られて終わりました。連絡は今も取り続けているんですけどね」
『……ちょっと、今度会う時その電話番号教えてちょうだい』
「別にいいですけど……」
『話を戻して運営への話はこちらで用意しておくわ。あとご実家へのお土産って何がいいかしら』
「基本何でもいいと思いますよ。ただ7人兄弟の両親と祖父母で13人家族なので普通のお菓子だと足りないかもしれませんけど」
『……13人』
「えぇ、結構多いですよね。でも田舎だとこういう家庭も結構あるんですよ?」
『ま、まぁわかったわ。色々用意しておく』
「それはありがとうございます。現地で気を付けるべきことは移動中にでも話しますので、まずは運営の方お願いしますね」
『うん、任せて……なんか今の会話だけでどっと疲れたから一度寝るけど明日には連絡するから』
「お待ちしてます。じゃあ失礼しますね」
そう言って祥子さんの返事を聞いてから通話を切った。
そのままお母さんに連絡を入れて今度帰省することにするというと急いでスーパーまで行ってくると言って切られちゃった。
そんなに慌てなくてもいいのに……。
Q,この通話を終えた後の祥子の心境を答えなさい。(配当20点)




