リアルサイド
本日2回目の投稿です。
ゲームサイドでは主人公が大立ち回りをしていますので、詳しくは前の話をご覧ください。
「………………はっ、ははっ、はーっはっはっははははははは」
「主任?」
「いやすまん、せっちゃんから貰った書類見ていたが……こりゃすごいな。人類史が変わるぞ」
そう言って無造作に書類を投げる祥子。
彼女の表情こそ笑みを浮かべているが、その頬には冷たい汗がつたっていた。
「人類史の変革……産業革命みたいなものですか?」
「ある意味では近いな。そもそもの産業革命とはどういうものだか知っているか?」
「えーと、機械工学の発展で人類が豊かになった……?」
「阿呆、産業革命の時代は児童労働が盛んで富裕層と貧困層の差が最高潮だった時代だ。その隙を縫ってギャングどもがやりたい放題やってた時代でもある。産業革命ってのはな、文字通り時代を変えたんだよ」
「時代を変える?」
「そう、始まりは紀元前。神と共に暮らす神代の時代ともいうべきかな。そんで某宗教の神の子が地上に降臨して神と共に歩む時代から神に祈る時代へと変貌した」
そこで言葉を区切り、祥子は煙草に火をつける。
久しく吸っていなかった、そう思いながら祥子は書類をもたらした友人の顔を思い出す。
彼女は煙草を嫌っていた、嗅覚も味覚も鈍るし食事に似合わないと言って。
だからだろうか、久しぶりのたばこは祥子にとって酷く不味いものだった。
顔をしかめながらも、久しぶりのニコチンとタールで肺を汚しながら言葉を続ける。
「日本でもそうだが、お偉いさんってのは神の系譜やら英雄の系譜の末裔なんだよ。うちだって陛下は太陽神の系譜だろ? その真偽はともかく、海外でも英雄の末裔だのなんだのと言って威張り散らしていた貴族どもを駆逐するきっかけになったのが産業革命。神に祈らず人が自立する時代の訪れだ……といっても神への祈りが消えたわけじゃないけどな」
信仰というのは常に存在するものだ。
姿かたちを変えたとしても、何かしらの形で存在し続ける。
たとえるならば畏怖も過ぎれば信仰へと変わる、それは祥子が研究してきた文献の中でもよく見受けられたものだった。
怨霊を神として崇める事で鎮めるというのは常套手段である。
「じゃあこの書類に書かれていることが現実になったら、どんな時代が来ると思う?」
山積みになった書類を前に祥子が煙を吐きかける。
「えーと、人間が自立する時代の終わりってことは……あれ?」
「そう、人類の滅亡だ」
「ちょっ、いきなりスケール大きすぎませんか⁉」
「いや冗談抜きで。そもそも人間って貧弱なんだよ。素手で檻に閉じ込められたら犬猫相手でも負けるってのは有名な話だろ? 例外もいるけどさ」
再び、友人の顔を思い出す。
以前ロシアに行った際シベリア虎と鉈一本で殺し合いをして無事に帰ってきたものの、二度と消えない傷を負った彼女を。
そして二度と消えないと言われたはずの傷が半年後には奇麗に治っていた人体の神秘もついでに思い出した。
「そんな人類がだ、例えば人魚のように水中で行動できたら? 鳥のように自力で飛びながらもその筋力や骨密度を変えることなく生活できるなら? ヒグマすら子ども扱いできるような力を手に入れたら? それはもはや人類とは呼べないよな」
「ま、まぁ……」
「ここに記されてるのはごく一部だが、遺伝子配列の変換と多種の遺伝子の注入によって人体を改造する方法だ。それも数千通りにわたる」
「まさか……そんなのうまくいくわけが……」
「あぁ、今の技術でやったとしても100回やろうが数万回やろうが人類が滅びるまでやろうが全部失敗する。だけど仮にだ、この改造を小さいところから始めたらどうなる?」
「小さいとは……?」
「例えばそうだな、水中でもクリアな視界が保てる手術とか。そういうのはこの書類を見る限り実現は簡単だ。目の構造にちょっとメスを入れるくらいのもんだよ」
「それは……まぁできそうですね」
「生まれる前の子供にそういう因子を埋め込むこともできなくはない。国際法で禁止されているだけで人間を好みの能力や外見にすることは今の技術でもできるんだ」
「……そう、ですね」
「公になってないだけでその実験例もいるが、そんなのよりもよっぽど化け物な女を知っているからなぁ……いまいちピンとこないだろうけど、具体的に言うとこの方法を繰り返して世代を重ねるたびに進化を重ねさせればいずれは人類が淘汰される。たとえばここに書いてある吸血鬼って種族の家畜になるかもしれないな」
「そりゃまた、人類滅亡と言ってもいいくらいの地獄ですね」
「名づけるなら化け物の時代か地獄の時代ってところかね。中には宇宙空間でもスーツ無しで行動可能な上にビーム吐ける種族にもなれるらしいぞ?」
「うっへぇ……仮になれるとしても俺はごめんですね。だったら人魚の方がいいっすわ」
「ついでに農作物だがな、3日で成樹となって4日で実をつけるリンゴとかも書かれていた。地球の環境問題も改善、食糧事情すら凌駕した話になる。七日でリンゴをってのがまた皮肉だけどな」
「そうなんですか?」
祥子が大きくため息をつく。
煙草を咥えなおして、本棚から一冊の本を取り出して手渡す。
「聖書くらい読め。神は7日で世界を創造したという。正しくは6日で創造して7日目は休んだという話だが、その際にアダムとイブ、最初の人類を作りリンゴによく似た果実を知恵の実と呼んで食べてはいけないと言った。常識問題だろ」
「あ、おれ宗教関連はさっぱりなんで。もともと護衛とかのために筋肉だけで生きてきました」
「これからはそうは……いや、せっちゃんの護衛につければ行けるかもしれんが……あの子の護衛は胃が持たないんだよな。いろんな意味で」
「主任?」
「あぁ、ともあれだ。ここにある書類、あの企業が持っているごく一部の末端でしかないだろうブツだが、そんなものでも世界がひっくり返るレベルだぞ? 全部が揃ったら世界が変わるだろうな。病気や老いから解放された飽食の時が来る」
「それはいい事では?」
「それだけで済むならな。食糧問題が解決しても人類は様々な問題を抱えている。一点が解決すればそこに注がれていた力が他に流れる。最悪のパターンは戦争だな」
「戦争って……飛躍しすぎっすよ」
「そうかもしれない。だが食料があって人手があるんだ、戦争したい奴らに武器を売りたいブローカーがいて、戦場を求める傭兵がいて、そういう世界の大物がそそのかせば一発だぞ?」
「うへぁ……」
「なんにせよ、この書類は特A級機密として皇居の地下保管庫にしまっておくべきだ。お前も口外したら話した相手含めて親類縁者全員死ぬと思っておけ」
「了解しました」
下手くそな敬礼をする男に、祥子はため息交じりに煙を吐き出して煙草をもみ消した。
「お疲れっすね」
「お前も1週間あの部屋に住んでみたらわかるよ。お守りが無ければ発狂していたところだ」
「はぁ、なんかの葉っぱの瓶詰でしたっけ?」
「よくわからないけどな。見たことのない種類だった。もしかしたら新種かもしれないけれど、身の安全放り出して研究機関に回す気にはなれんよ」
「そんなもんすか?」
「そんなもんだよ」
そして大きくあくびをした祥子は一言、寝るとだけ言ってそのまま机に突っ伏して眠り始めてしまった。
男はそれを見届けて書類を封筒にしまい、そして厳重に保管するのだった。
懐には銃を携えたまま……。
注釈として、私本人は宗教関連に対して何かしらの意図を持っているわけではありません。
また天皇陛下やそれにまつわる系譜、海外の貴族や宗教神話などに口出しする気は一切ありません。
本作品は人種差別や宗教といったあらゆる物事に対する視点をフラットにして執筆しております。
なおたまにガンダムネタぶっこんでくるのは作者の趣味です。
今回もとあるブリキ野郎のネタをぶっこみました。




