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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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フィリアの演技

「くそっ! 白銀の塔が落ちただと⁉」


「あそこの責任者どもは何をしていたんだ!」


「わしらに永遠の命を約束しておきながら……」


 口々に文句を垂れ流している老人たちがいる。

 最も奥の席には白ひげを蓄えた老人、とはいえ痩せているわけでも太っているわけでもなくマントなどでわかりにくいだけで筋肉質なのだというのはわかる。


「次の手段を考えなければなりませんな、王よ」


「その通りだが……忌々しい! 誰の仕業だ!」


「聞けば二人の魔の者と、これは残っていた記録からですが堕ちた英雄が関係しているとのことです」


「二人? たった二人に白銀の塔が落とされたというのか⁉」


「え、えぇ。ただここはやはり堕ちた英雄が何かしらの裏工作をしていたとみるべきかと……」


「くっ、あの女……いっそのことあの時に殺しておけばよかったのだ! 悪魔なんぞに魂を売り、聖女と魔女と勇者の力を得た存在など化け物以外の何物でもあるまい!」


「おっしゃる通りかと……」


 王らしき人は傲慢に振舞いながらも、その実態内面は落ち着いているように見える。

 自分の失敗、そして今回の出来事を諸々振り返って次への反省としているのかもしれない。

 だとすれば、相当な切れ者。

 対処するなら一番最初にするべきだろう。

 他の連中は烏合の衆、といっても無能ではないようだ。

 集める情報は集めている、この短時間にだ。

 塔に侵入したプレイヤーの数、そして英雄さんの行動、それらをしっかり把握している。

 だから……。


「こんにちは、そしてさようなら」


 ずぶり、と背を預けていた椅子の背もたれもろとも王の背中を貫いた。


「がっ……」


 おや、まだ生きている。

 手のひらの中で心臓が脈打つのをしっかり感じているわ。

 お年なのに元気なのね。


「なにものだ!」


「陛下!」


 慌てる人は本性があらわになる。

 私の存在を問いかけたのは怯えを含んでいることから身の保全。

 中には純粋にこちらの存在を知ろうとしての質問を投げかけた人もいるから、これは比較的冷静にこちらを探ろうとしている人、でも答えるわけがない。

 王様の心配をした人は……まぁ良い見方をするなら忠信、悪く言うなら腰巾着かしら。


「その質問に答える意味はあるのかしら」


「なんだと……?」


「どうせ死ぬのに」


 そう言いながら王様の心臓を掴み、引きずり出す。

 びくんと体を震わせてすぐに動かなくなった王様の死体、それを蹴り飛ばしてその椅子に腰かける。

 熱弁の中で飲み干したのだろうか、金色の盃は空になっている。

 そこに心臓を置いて、優雅なふるまいを心掛けつつも昔アメリカの大手映画会社に取材に行ったとき意気投合した人たちから教えてもらった魅惑的や煽情的なポーズでこちらに意識を向けさせる。


「死ぬ、とはどういうことだ……」


「堕ちた英雄、あれが大地に住まう者には手出しができず、魔の者のみをうつのは知っているわね」


「あぁ……こう言ってはなんだが、そうでなければ我々の首は落ちていただろう」


「そう、だからこそというべきかしら。世界がしびれを切らしているのよ……限界が来た、堪忍袋の緒が切れた、なんでもいいわ? あなた達みたいな屑を粛正するべく新たな英雄が生まれたのよ」


「新たな……まさかっ!」


「伏して聞きなさい。私は穢れた英雄、魔の者から生まれた悪人を殺すべく送り込まれた天の刺客にしてあなたたちにとっての死神……それも堕ちたのとは違って制約など一切かかっていないわ。だから生かすも殺すも私次第……まぁあなたたちには死んでもらうんだけどね」


 そう言って盃に溜まった血を飲む。

 ……なんだろ、こってり濃厚背油たっぷりニンニクマシマシカラメのスープを飲んだような胃もたれ感。

 あ、ちなみに全部ウソでーす。

 穢れた英雄とかそんなの全部ウソ。

 それっぽく見せるためにイベントで手に入れた英雄さんコスプレセットの顔面包帯とか装備しているけど、がっつり嘘です。

 フランスで詐欺師やってるって人から教わった手管の一つを使わせてもらったわ。

 本人曰く泥棒らしいけど、怪盗なんて言い方してたかしら……ニュアンスの違いでしかないから覚えてないけど。


「わしらを殺すのかね? 人の業を知らぬ女よ、わしらのような小悪党はいくらでも出てくるぞ」


「ありを潰すのに、どれくらいの労力がいると思う?」


「……ならば抵抗すると言えばどうする」


「すればいいわ、それはあなたたちの特権。だけど無事に生きて帰れる保証は最初からない……そうね、こういう言い方をしたらいいかしら。抵抗しなければ楽に死なせてあげるわよ?」


「くっ」


 この中で一番高齢っぽい人が柔和な感じで交渉を始めてきたから乗ってみたけど、案外つまらないわね。

 本人は今もひょうひょうとしているんだけど、周りの人が怯えやらあきらめの雰囲気出してるせいで交渉が台無し。

 無能な働き者は殺せと言ったナポレオンの気持ちがよくわかる風景だわ。


「まぁそうね、一ついい話があるとすれば英雄の契約というのがあるのよ。悪を殺すのは問題ないけれどそれで被害を被る人がいるのはよろしくないってね」


「そ、そうだ! 我々を殺せば民が飢えるぞ!」


「はい減点、あなたは不要」


 声を上げた若年の男性に向かって机の欠片をむしり取って投げつける。

 その一撃で脳天を貫かれてお亡くなりになったのを見て他の人たちは更に怯えの色を強くした。

 恐慌状態にならなかっただけほめるべきかしら。

 まぁそれはどうでもいいけれど、お爺ちゃんも少し顔色を変えたわね。

 さっきまでは好々爺と言わんばかりの柔和な表情だったけれど、今は少し険しい顔をしている。


「さぁ、無能は死んだわ。交渉の続きをしましょうか」


「交渉だと……?」


「あら、さっきから私はそのつもりでここに座っているんだけど? あなたたちを殺すのは、さっき言った通り蟻を潰すに等しいもの。だけどそうしないのはなんでだと思う?」


「……あの若造の言葉を借り、そしてお主の言葉を使うのであれば無辜の民のためか」


「正解、頭がいい人は好きよ?」


「わしらに、民を纏める役割をしろと」


「半分正解、悪事に手を染めず悪に走ったものをあなた方が粛正する。それが私の求める条件よ。それさえ飲めば今回は見逃してあげる」


「……いいだろう」


「それと不老不死はあきらめなさい。白銀の塔で研究されていたのは貴方たちの求める、人の姿で命を永らえる方法じゃないわ」


「なんだと……?」


「あら、化け物の姿やゴーレムになって生き永らえたかったならその実験は成功していたみたいよ?」


「……なるほど」


「けどね、そんな小細工で私から逃れられるとは思わない事ね」


「………………皆の衆、わしは英雄殿の言葉に従う。嫌だという者はわしの手で葬ることになると思え」


 さっそくの意志表明、そして私の前でそれをして見せる事で本気だと伝える、やっぱり手練れのお爺ちゃんね。

 亀の甲より年の劫というやつかしら。

 まぁそのおかげで、この場にいる人たちは次々と賛同してくれたわ。


「そう、よかったわ。あぁそうだ、これからここには魔の者がたくさん来ると思うけど邪険に扱う事のないように、無頼を働く者には堕ちたのが対処するから自分の安全を最優先にするように国民に通達。この城も私がいつでも出入りできるようにしておきなさい」


「そのようにとりはかろう。ほかに要求は」


「王の死は半年隠しなさい、その後後釜を王座に座らせること」


「……英雄殿が座るのではないのか?」


「私は魔の者であり、悪を断罪する者、常にこの場にいるとは限らないのよ」


「承知した。その通りにしよう」


「そっ、じゃあ私は……」


 盃に再び溜まった血を飲み干して心臓を掴む。

 立ち上がってから王様の死体に近づき。


「呪魂摘出」


 その魂を奪い取る。


「悪にはふさわしい末路というのを最後に見せてあげる。これは王の魂、本来であれば天に還り新たな生を受けるけれど……」


 それをゴクリと飲み込む。

 あ、これ美味しいわ。

 なんというか喉越しが水ようかんみたい。

 苦い感じがするからコーヒー味のくずと言ってもいいかもしれないわ。

 つるんとしてていい感じ。

 ミルクとかかけたら美味しそうね。


「これで二度とこの王は復活しない。そして肉体も」


 狐火を発動して亡骸を跡形もなく燃やす。

 残ったのは私の手にある心臓のみ。

 そしてそれもリンゴのように食べて飲み込んだ。


『青い血を取り込みました。種族が進化します』

『吸血姫が古の吸血姫に進化しました。吸血鬼のデメリット半減』

『人狼の種族進化には経験が足りません』

『精霊の進化には経験が足りません』

『ネクロマンサーの進化には経験が足りません』

『夢魔の進化には経験が足りません』

『人魚の進化には力が足りません』

『暴食の悪魔は現状進化することができません』

『妖孤の進化条件を満たしていません』


 おぉう、演出でやっただけなのになんか条件を満たしたみたい。

 吸血姫が古の吸血姫になったわ……。

 まぁいいけれど、こうして王様の痕跡は全部消えたことになるわね。


「英雄殿、一つ頼みが……」


「言ってみなさい?」


「此度の王の顛末、そこに至る経緯、後を継ぐ王子にお伝えしても?」


「構わないわ。けれどその王子があまりに馬鹿なら……」


「その時は我らの手で」


「そう、後釜はちゃんとしたのを選ぶのね。無駄な死人を増やしたくはないでしょう? 裏で何か企んでいるなら次はないから安心しなさい、きっちり魂まで喰らって差し上げるわ」


「肝に銘じておきましょう」


「そう、後は任せるわ。たまに来るけれど、襲ってきたら反撃することもあるから気を付けてね」


 そう言い残してメニューからとある魔法を選択する。

 ここに来るのにも使った魔法、夢魔の夢移動だ。

 夢の世界を移動できるという魔法で便利なんだなぁ、と今回初めて使って思ったけどデメリットも結構多いのよね。

 まず使う魔力が移動距離に応じて爆増する。

 国をまたいでとかやろうとすると途中で変なところに落とされるでしょうね。

 国内を移動するのがギリギリだけど、もうかつかつなので1日2回が限度。

 それにしても……力で押し通す交渉っていうのも楽しいわね。

 いつもやられる側だったから、自分でやるとよくわかるわ。

 これ楽だし海外の傭兵や用心棒がこういう手段をとる理由がわかりやすい。

 うん、今後のためにもいろいろ勉強になったわ。

 国も掌握できたし、今度英雄さんにあったら情報共有しておこう。


実は結構な役者でもある主人公、口八丁で世界中を生き残ってきた手腕は伊達ではありません。

さすがに人外には通用しなくてもマフィアくらいなら騙せる実力者……なんでこんなにハイスペックなの?


なお本日は2回投稿です。

リアルサイドで祥子さんたちが何をしているかを次の話で書きます。

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― 新着の感想 ―
暴食さんの1年間のスケジュールが気になるね。人生密度たかい。
[一言] 魂……鬼太郎で出てきたタマシイの天ぷら、やたら美味そうだったなぁ。
[一言] なんでって言われても・・・刹那さんだからとしか言いようが・・・
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