慟哭
再び植物の悲鳴を聞きながら作り上げた日傘を手に草原を行くこと数分。
また晴れのちモンスターなんてことにならないように気を付けながらも、どうにか町にたどり着くことができた。
ちなみに一度はぐれたりりだけど、私のリスポーン地点が森の出口に変更されていたことですぐに合流できた。
いやぁ、一時はどうなることかと思ったよ。
実際りりの外見はもろにモンスターだから、途中でプレイヤーに襲われたら大変なことになっていたかもしれないしね。
とか思っていた時期が私にもありました。
「止まれ!」
今、私は町の入り口で衛兵らしき人に囲まれています。
「あの、なんでしょう」
「貴様が邪悪な魔の物であることはわかっている!」
「は、はぁ……」
「同胞である魔の物を手にかけるような者を町に入れるわけにはいかない!」
「え?」
「貴様の頭上に輝く赤い印がその証だ!」
自分では見えないけど、どうやら私はレッドプレイヤーらしい。
レッドプレイヤーというのは基本的にPK、プレイヤーキルなどの同族殺しをしたプレイヤーを指す。
けどおかしいな、私プレイヤーなんて倒したっけ?
「えっと、ちょっと待ってくださいね?」
とりあえずいろいろ確認しよう。
まずステータスから戦闘ログを……いや、レベルが二つ上がってる?
んん? 傘作って、降ってきたモンスターに殺されて、傘作り直したくらいだよね。
あと狼何匹か。
オンゲってもっとレベル上がりにくいはずなんだけど、低レベルだからこんなに早く上がったのかな?
「あ……」
そんなことを考えていたら見つけてしまった。
【使い魔がプレイヤー:アルスを殺害しました】というログ。
それが原因でレベルが一気に二つ上がってる。
なるほどなるほど……。
「確認取れました。えーとですね、私が倒した人はいません」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃないんですよ。私じゃなくてこの子、りりがやりました」
「きゃんっ⁉」
抗議するような声を上げるりりだが事実だ。
これで町に入れなかったら君を食べちゃうぞ?
「この通り太陽光に弱いんです私。だけどさっき空からモンスターが降ってきて、日傘を壊されてしまって……おそらくりりはその報復でやったんだと思います」
「わんっ!」
その通りといわんばかりに吠えるりり。
たしか化けオンは結構高度なインターフェイスを使ってたからNPCとも違和感ない会話ができるはず。
これで納得してくれたら通してくれるとは思うんだけど……どうだろ。
「なるほど……だがその証拠はあるか?」
「これ、見えます?」
ステータスを表示して見せる。
ログの部分を兵士に見えるように突きつけると相手も表情が変わった。
おぉ、NPCにもステータス画面見えるんだ。
「嘘ではないようだ。だがそういう事であればその狼を町に入れることはできない。万が一の時に暴れる事でしか対処できないのであればこの場で殺してもらうしかない」
「あー……」
「くぅん……」
いや寂しそうな声出されてもね……あっ、あのスキルが使えるかも。
「りり、ちょっといい子にしててくれる?」
「わんっ!」
「じゃあいくよ、死者呪魂摘出!」
スキル呪魂摘出、ネクロマンサーのスキルで肉体から魂を抜き出す魔法。
MPががくんと減るのを感じたけれど、目の前に出てきたメッセージからその魔法が成功したのを確認した。
そのメッセージとは、【使い魔:魔狼の魂を取得しました】というもの。
魂はインベントリに入っているらしいから必要な時に取り出して使うとしよう。
んー悪魔らしくキメラでも作ろうかしら。
「あっ」
ふと見るとりりの亡骸がさらさらと崩れていく。
後に残ったのは牙が一本、これがりりの遺品になるのね……いや魂持ってるから何かしらの形で復活させられるけどさ。
「つらい選択を迫ったようだが町の安全のためだ。悪く思わないでくれ」
「いえ、これも必要な事です。私は町の人を害したいわけではありませんから」
「……本当に、すまないな」
「お気になさらず、あなたはあなたの仕事を忠実に成し遂げただけですから」
よよよ、と泣きまねをしながら町に入りました。
うん、ロールプレイ。
いやぁ、NPCの好感度を上げたら何かイベント起きそうだからさ。
とりあえず顔くらいは覚えておいてもらおうと思ったのもある。
何かあったときには利用できそうだしね。
少なくとも道案内くらいは頼んでもいいでしょ。
「君の旅路に幸あらんことを」
「ありがとうござっ⁉」
町の中から頭を下げてお礼を言おうとした瞬間、私の肉体は消し炭になった。
……なにがあった?
いや、幸いリスポン地点が町の出入り口、つまり今いた場所だからよかったんだけどさ。
兵士さんも驚いたような顔をしてるし。
とりあえずステータスを開いて、死亡ログを確認……【祈りの言葉に昇天】。
そういえば私聖属性にもクッソ弱かったね。
……え?
優しい言葉かけられたら死ぬの私?
「な、なにがあった?」
「えっと、私聖属性に弱くて……」
「あ? あぁ……いやすまない、うかつなことをした」
「いえ、お気になさらず」
これ以上話していたらどこで死ぬかわかったもんじゃない。
今はこの場から離脱しよう。
そう思い立ち上がった瞬間、着慣れていないスカートのせいでつまずいてしまった。
「危ない!」
それを受け止めるように鎧を着た人が滑り込んでくれた。
ふぅ助かった、と思ったらリスポン地点に立ってた。
「は?」
「へ?」
「え?」
……ステータス、死亡ログ、【銀に触れた】……。
「お兄さんの装備、銀なんですね」
「あ、あぁ……すまない。助けようとした結果……」
「悪気があったわけじゃないでしょう。気にしないでください」
……私、弱すぎない?
いや弱点多いしデメリットレベルも高いよ?
だけどさ、気軽に死にすぎじゃない?
むぅ……これはキャラクリやり直しも視野に入れるべきかもしれないわね。
「あ、お姉さん。その先は……」
「え?」
さっき受け止めてくれたお兄さんが何かを言っているけど聞き取れず振り向いたら兵士が立っていました。
……リスポン? ステータス? 死亡ログ? 何があったの? 【聖水の水たまりに触れた】。
「なんで……?」
なんで聖水の水たまりがあるのとか、そのくらいで死ぬのとか、いろいろ言いたいけどさ……それ以上に今なんでって言いたいのは私の目の前でこれでもかというほど主張してくるメッセージなんだよね。
いやいやながらにそれを開いてみる。
『称号:絶滅危惧種を取得しました。この称号に特に効果はありません』
その日、町中に私の咆哮が響き渡った。