赤いの撃破
日が暮れて、ゲリさんと待ち合わせの時間になったのでログイン。
簡単に挨拶をして、尻尾の先っちょを齧り取ってから攻略を再開した。
およそ50階層ほど進み、ゲリさんの尻尾も生えてきたころ。
「……なんかまた変わったゴーレム出てきたわね」
「俺の尻尾が生えてきてよかったっす」
白を基調としつつも青く塗られた胸部と羽らしきものを持つゴーレムが出てきた。
うーん、昨日倒したのが悪魔の身体ならこれは自由の翼かしら。
やっぱりネーミングセンスが酷いわね。
「どうする? スピード系って聞いてるけど、ゲリさん行く?」
前回は私が倒してしまったので消化不良だろう、そう思いゲリさんに声をかけてみる。
「まぁ早いと言ってもあの巨体だとそれほどでもないでしょ。何よりこんな密閉空間じゃ本領発揮できないだろうしサクッと終わらせていいなら」
「まぁ時間をかけても意味ないからね。サクッと行けるならお願い、私がやってもいいけど時間かかると思うし」
スピード勝負となれば小さいこちらに分があるけれど、その分攻撃力も低い。
あちらは装甲を削っている可能性があるけど、だとしても蟻の牙が象の皮膚を食い破り内臓を傷つけるのは相当な時間がかかるわ。
「じゃ、子竜化解除! からの、全方位ブレス!」
ゲリさんが元の姿に戻って、ゴーレムが動く前に火を噴いた。
その炎は雷を纏い、見た目よりもかなり広範囲に対する攻撃みたい。
「…………」
それを手持ちの盾で受け止めたゴーレムだったけれど、炎の勢いに負けたのか雷が貫通したのか一瞬痙攣して動かなくなった。
そこにゲリさんが爪を立てて魔核を引っこ抜いて勝負あり、相性勝ちってやつね。
「ふぅ、うまくいってよかった」
「あ、私にもドロップアイテムある」
「俺魔核と特殊装甲がドロップだったけどフィリアさんは?」
「超大型レールガン。ゲリさんいる?」
「浪漫武器か……やめとく。どのみち装備できないしこの指じゃ引き金引けないから」
少し名残惜しそうにしながらもゲリさんは次の階段を見据えていた。
子竜化する気配が見られない。
「それよりお客さんみたいだよ」
「そうね、しかもこれは……」
地響きにも似た足音。
相当な巨体であることがうかがえるが、ゴーレムが上の階から来たという事?
だとしたら地下で聞いた名持のゴーレムより強力な存在、想像できるのは外で大暴れしたという赤いゴーレム。
「っ!」
がちゃんという音を耳にすると同時に私は上空へ逃げ、ゲリさんは背を向けてガードをはかった。
結果から言おう、ゲリさんの翼膜がずたずたに引き裂かれ、地面には無数の穴が開いた。
「ゲリさん!」
「大丈夫! 飛べないだけで大したダメージじゃない!」
「飛べないとかげはただのとかげよ!」
「変なタイミングでディスるのやめて!」
「それより後ろ!」
「え? あぶな!」
全身を赤で染めたゴーレム、角を持ち一つ目の巨体は鬼かサイクロプスか、少なくとも何かしらの魔族やモンスターをもとにしているのかもしれない。
全身にあるチューブがかろうじてゴーレムらしさを強調しているくらいか。
そんな奴の振り下ろした斧がゲリさんを両断しようとしていたところでぎりぎり気付くことができてゲリさんに回避を促せた。
「うへぇ……なんて速さだ。他のゴーレムの3倍は速いぞあれ」
「それにあの巨大なマシンガン、離れても近づいても厄介な相手ね」
「なら役割分担は当然……」
「えぇ」
ゲリさんの言葉に答えるまでもなく私が前衛として接近、その背後からゲリさんがブレスを撃つ素振りを見せる。
どちらが危険か判断したゴーレムは、私に向かって斧を振るいながら銃をゲリさんに撃つという、両方を潰すというまったくもって合理的な結論を導き出した。
けれどそれは間違い、ゲリさんはあくまでも素振りでしかなかったし、私はただ接近しただけ。
攻撃のモーションに入っていたならまだしも、近づいただけの私は避ける事も難しくない。
ゲリさんも多少はダメージ受けたかもしれないけれど、さっきの攻撃で翼膜が破損したのを見て銀やミスリルの弾丸ではないのは明らか。
だって、銀とかだったらダメージ受けた時点でゲリさん死に戻りしてるから。
「まずは、指!」
関節部を狙って拳を叩きこむ。
が、圧倒的な硬度に右腕がしびれた。
まるで巨大なゴムタイヤを殴ったみたいな気分。
「かった……」
「フィリアさん! 2時の方角!」
ゲリさんの言葉を聞いて指示された方角へ飛ぶ。
同時に私がいた場所もろとも、ゲリさんのブレスがゴーレムを包み込むようにして薙ぎ払っていった。
「やったか!」
「勝ったな!」
思わず声をそろえてガッツポーズをとった私達に、それはやってきた。
伸ばされた左腕、赤熱しているのか先ほどよりも真っ赤に染まっている手が私めがけて、そして半ば溶解した斧がゲリさんに向かって飛んで行った。
「やばっ!」
「うおっ!」
とっさに回避するけれど左足をかすめた、それが思わぬダメージとなる。
バシュッという音と共に私の左足が消し飛んだ。
炎弱点のせいかしら、だとしたら相当な熱を持っている。
ダメージも受けているでしょうけれど、動くのには問題ない程度。
ゲリさんは……あ、右腕切り落とされてる。
あとで齧らせてもらおう。
「ゲリさん! もう一回ブレス! タイミングを合わせて!」
「おうよ! カウント!」
「3、2、1、今!」
同時に発動するは狐火、赤熱しているという事は高温にはそれほど強くないはず。
ならば炎の二段重ね!
なんかよくわからないけれど私の使う狐火と、ゲリさんのブレス、そして他の人の魔法はどれも別ものらしい。
端的に言うと同時発動しても互いが殺し合うことなく、相殺するような攻撃ではないという事。
お互いに向かって打ち合った場合は威力の高い方が相手を飲み込むけれど、今回みたいな共闘だと相乗効果があるらしいわ。
詳しく知らないけどゲリさんが教えてくれた。
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
ゴーレムが吠える。
……発声器官みたいなのあったのかな、それともフレームがきしむ音?
どちらにせよ効いている。
雷を纏った紅い炎が狐火を喰らう事で青く染まり、そして蛇のようにうねりながらゴーレムを燃やしていく。
その一撃は外殻を融解させるだけでなく、内部にもダメージを与えているようだ。
数秒、炎の中でもがくゴーレムだったが炎が消えると同時に地面に膝をつき……最後のあがきと言わんばかりにこちらに手を伸ばしてきた。
「させ!」
「るかぁ!」
私とゲリさんの声が重なり、残っていた右足でゴーレムの腕を蹴り上げる。
やはり右足は蒸発するが、飛んでいる今は関係ない。
空中で身をひるがえしてその心臓部に拳を叩きこみ、ゲリさんの左腕がゴーレムの頭部を吹き飛ばした。
そして……動きを完全に停止したゴーレムと、四肢のうち3つを失った私、両腕を失ったゲリさんが大の字に地面に寝ころんでいた。
「はぁ……あれ量産型じゃないわよね」
「だとしたら運営にメールボムするわ」
「私は直接運営に乗り込むわ。建物をくさやの香りで満たしてやる」
「それはガチなテロじゃない?」
「でもそれくらいしても許されるんじゃない? あれが量産されているならの話だけど」
「そもそも二人だけで攻略するってのがおかしい可能性」
「……それを言われるとクエスト受注した私の耳が痛いんだけど」
「それも含めて運営糞野郎の集まりだね」
「えぇ、情報集めようとしたらクエスト開始だもの。フラグ管理ガバガバじゃない!」
「むしろよくぞ二人も集まったって感じだよね」
「ほんと、私一人だったらもっと面倒だったわ。というかたぶん詰んでた」
「ともあれ」
「えぇ、そうね」
ゆっくりと体を起こす。
ゲリさんも子竜化してこちらに歩み寄ってきた。
「お疲れ様」
「うん、おつかれ」
差し出した左手拳に、両腕を失ったゲリさんは鼻先をくっつける事で返事をしてくれた。
こういうパーティプレイみたいなの無縁だったけど結構楽しいものね。
あ、ちなみにゲリさんの切り落とされた腕は私が美味しくいただきました。
体の再生にすごくエネルギー使うからね。
ゲリさんはその辺結構省エネっぽい。
ある意味ではうらやましいわ。
でも、こんなのが出てきて100階層に到達したという事はそろそろ、この塔のお偉いさんが出てくる頃合いかしら?
おまけコーナー~Q&A~
とかげバージョン
Q,フィリアさんによく食べられますね
A,慣れました
Q,どんな感じなんですか?
A,注射されてるときの異物感に近いです
痛いというよりは気持ち悪いというか
Q,ブレスってどうやって吐いてるんですか?
A,基本的にはシステムアシスト、それ抜きでやるならゲロに近い
Q,ぶっちゃけ、フィリアさんに恋愛感情抱きます?
A,最初のうちは顔に騙されていた
今は無理、リアルでも食われそう
Q,鱗剥がされるのって痛いですか?
A,鼻毛抜くような感覚、VOTは痛みを1%まで抑えてるから多分100%だと死ぬほど痛い
Q,運営に対して一言
A,いつか殴る、でも最高のゲームを作ってくれたことには感謝してる
Q,最後に今相棒となっているフィリアさんに一言どうぞ
A,食べないでくださいーい!
A,食べるよ!
なおこの後勝手に乱入してきたフィリア女史を退場させてからQ&Aは終了となりました。




